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山田 武

偽善者と『極塔之主』 その14



 "天"の装備を身に纏った俺は、柄でもない姿なのだろう。空に存在する明瞭な色を束ねて編まれたような装備達は、澄んだという言葉を何度重ねても表現し難い美しさを周囲に放ち続けている。
 右手には剣身から鞘まで精巧に作り上げた剣が握られている。防具と同様に美しい天の色が剣身に宿り、光が当たると本物の空のようにその輝きを絶えず変動させていた。
 カナタの装備があまりにラスボス感が漂うカッコよさだった為、こちらも少しは綺麗な感じの装備を用意したかったのだ。

 カナタと俺が再び相対すると、コツコツと床を蹴る音が聞こえてくる。それは、階段の終わり辺りで鳴り止み、俺達の視界には一人の女性が入って来る。


『ではこの勝負、ワタシが審判をさせて頂きます』

「あぁ、頼む」

『……誰? どこかで聞いたことのあるような声な気がするんだが……まさかな』


 カナタには分からないのか? いや、言葉の後半を聞くと分かっている気もするが、自身の常識が邪魔をして答えが見つけられないとみた。
 そこにいる女性は、カナタと同じ色の瞳を持っており、且つ肌と髪がそれぞれ逆の色であった。その容姿はまさにカナタが成長した姿のようで……もう分かるかな?


『マスター、恐らくご自身の頭の中に浮かんでいらっしゃることが正解かと思われます』

『……コア、なのか? で、でも……一体どうやって』

『はい、ご明察です。その辺の問題に関してですが……えぇ、そこの方に訊いて頂ければ答えは直ぐに分かりますよ』

『また、またお前か!!』


 あ、バレた。コアさんの本体を半ば強引に人形の中へと突っ込み、時空ごと加速させて受肉させたのだ。それにより、彼女に刺身を食べさせることができたんだよ(美味しいとの感想を頂けたので、それだけで無理やり受肉させた価値があったな)。


「まぁ落ち着けって。既にお前達は敗北をしていた。彼女には、それを先延ばしにした代償を支払って貰っただけさ……あ、刺身食うか? 結構美味いぞ」

『いや、まぁ食うけどよ……美味ぇなこれ』

「コアさんも、現状には不満は無いとのことだしな。むしろ、今の彼女はダンジョンコアであった時よりもできることが増えているからな。……良い娘ですな~」

『……いや、別に俺とコアはそういう関係ってわけでもないし、そもそも今はこんな体だからな』

「はいはい、分かった分かった。コアさん、頑張ってな」

『……は、はい』


 ま、コアさんが何を思い、誰の為にそれを受け入れたかは……主人公でも鈍感でも無い俺には直ぐに分かったな。


閑話休題(キマシタワー!)


 さて、そろそろ始めるとしようか。
 眷属達の目が色々とヤバくなってる気がするし……。


『……コホンッ。それでは――試合開始ッ!』


 コアさんのその言葉で、俺達の最後の戦いは幕を開けた。
 ――最初に動いたのはカナタである。


『まずは、俺から行くぞ!』

「うん、まぁ口頭で宣言するのは様式美だよな。実際に言うのは嫌だけど」

『そういうことを言うんじゃねぇえええ!!』


 手に持った巨大な黒剣を振り回し、猛攻を行ってくる。カナタの剣捌きはまるで達人のように卓越しており、振るわれる斬撃の一つ一つが見る者によっては美しいと称せるものであろう。
 ……ま、ティルの斬撃の方が綺麗だがな。


「う~ん……アレか? カナタ自身が剣術を習得してたって訳でも無いだろ? 体にそういった感じがしなかったし。……そうそう、お前以外の誰かが剣術を代わりにやってるって感じだな。やり方はまぁ、何でも良いけど……お前の能力値って、どうなってるんだろうな」

『へぇー、案外直ぐにバレたな。ま、それが分かったからって、どうこうできる訳でもないだ、ろ!』

「んにゃ、それ自体は直ぐにどうとでもなると思うぞ(――"領域干渉""奪物掌")
 ……な、簡単だったろ?」


 進化した<領域干渉>と、【強欲】によって大剣を奪ったみたのだ。……やっぱり、この武器に補助機能が付いていた。


『ずりぃぞメルス! こんなセコイ手で勝って満足なのか! さっさと武器を返せ!!』

「分かってるさ。俺だって、親友との決着をこんな形で終わらせる気は無いからな。――ほら、剣はちゃんと返す」


 カナタの近くに剣を転送して突き刺す。
 少し疑いの視線を向けながらそれを引き抜いて、再び俺の元へと駆けてくる。


『やっぱりそんなことができるのに余裕ってことは、俺ももう少し本気を出さねぇといけねぇな。――トラップ03、09、17を起動!』

「……へぇ、面白いな」


 カナタがそう叫ぶと、マス目の床の内3枚が光を放ち、罠の機能を発揮する。燃え盛る煉獄、鳴り響く轟雷、降り注ぐ金属の雨――威力は別にしても、俺の行動範囲をかなり狭めてくる。
 ……だが、甘い。チャル譲りの身のこなしでカナタを遠くに追いやり、その隙に発動した罠を解除していく。それでも、既に起動した罠は止めることができないので、それは今からどうにかしないとな。


「そのシステム、どこかで見たことがある気もするんだが……まぁ、良いか。俺も本気を出した方が良いよな(――"天翔覇閃")」


 セイの持つ(天剣術)、その中でもかなり上位に位置する武技を発動する。翼の生えた斬撃のエフェクトが発生し、まずは煉獄を消し飛ばす。


「お次はこれだ(――"業魔一刀")」


 ティルがいつの間にか習得した(破邪刀術)の武技だ。魔力を帯びた技でさえあれば、斬り払うことが可能である。
 それによって斬撃を放ち、轟く稲妻を消滅させる。


「これで……最後だ(――"天駆けろ")!」


 握り締めた天剣の力を解放する。
 剣身の中で揺れ動いていた空色が、切先へと集まっていく。そして、それを空へと掲げ――メインカメラがやられた後のように解き放つ!

 ドォオオオオン!!

 降り注ぐ金属の雨は、空色の柱に全てを呑み込まれていく。その余波によって、床はズタボロになり……仄かに光っていた床は、二度と光らなくなった。


「……さて、ここからは正々堂々と剣術で闘おうぜ」

『……そのセリフ、最初に言おうぜ』


 二人でその言葉に苦笑した後、再び剣と剣がぶつかり合っていく。



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