AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『極塔之主』 その06



「――まあ、アイリスもこの島にいて、それから面倒なことをやってたんだよ。後からそこに行った俺は、残ってた二人――アイリスとフィレルっていうロマン龍人――を回収したってわけだ」

『……それ、もう主人公だろ。何、自分が主人公ですって言いたいのか?』

「んなわけあるか! いいか、主人公ってのはなぁ、もっとこう……何もかもがパーフェクトな奴のことを言うんだよ!」

『いやいや、やってることが全部主人公っぽくないか? 最初はチート無双で次が異世界転移、その後はヒロインを大量ゲット……それなんてエロゲ?』

「エロゲって……俺桜桃チェリーだぞ」

『え?』

「え?」


 話し終えての感想を言い合うと、最後に異なる見解が出た。


『お前……そこまでやっといて……ヤってないのか?』

「……その二つを理解できてしまうのが実に虚しく感じる。お前は直結脳か? 異世界に来たら調子に乗って種付けしまくる種馬なのか? どうせお前には付けられる土壌は在っても付ける種は無いんだし、そんな考えは捨てた方が良いんじゃないのか?」

『う、煩ぇよ! 俺だって、俺だってなぁ、好きでこうなってんじゃねぇんだよ!』

「ハッハッハ! そんな姿じゃアイリスも友達にならなってくれるが、その先の関係を望むのは難しそうだな!」

『ち、違ぇよ! お、俺は別に、あ、アイリスのことなんか別に……』


 いやー、思春期の若者だな~。
 俺も本当はそれぐらいの年代のはずなんだけど……全然そういう気にならないや。
 可愛いとか綺麗とか、そういう感じの感情は持てても、何故か直結関係の気持ちは全然考え付かないんだよな。

 悶々と苦悩する少女をニマニマと眺め、しばらく遊んでから話を戻す。

「さて、話も終わったわけだが……そろそろアイツらを攻略に向かわせて良いか?」

『ん? 攻略できるもんならやってみろよ。これでもここは、DMOで最高難易度のダンジョンだったんだぞ』

《そうですね。転移した後もいろいろなダンジョンとバトルをしてきましたが――それでもこのダンジョンは、無敗を誇っています。それでも進ませますか?》

「ま、それも俺がここに居る時点で、ほぼ意味の無い称号だがな」

『《…………》』


 いや、俺が自分をダンジョンモンスターとして情報を書き換えたら、即勝利宣言が出るからな。

 それに、無敗と言うのは酷く脆いものだと思う。
 負けが無いということは、成長が無いということだ。
 主人公は物語上では敗北を許されないことが多いが、それでも必ずなんらかの形で、挫折を経験している。
 それを通じて主人公は成長し、何かを守るために主人公になりえる力を持つ(※ジャンルによる)。


「この勝負、既にお前たちは詰んでいる。だからこそ、これはチャンスだろ? 無敗を守り抜きたいのならば、俺と賭けをしようじゃないか。ま、取引でも良いが」

《……聞かせてもらいましょう》

「賭けの場合、このダンジョンをアイツらが攻略した時、お前たち二人の身柄は俺のものとなる。あぁ、桜桃だからそういったこととかは無いから安心しろって。それに、俺が即終了にすることも無いぞ」


 この場合、俺のメリットは優秀な人材を確保できるということだ。
 アイリスとは異なる観点でDMOや平行世界の情報を知れる……男として、訊いておかなきゃならないこともあるしな。


「取引の場合は、お前たちの身柄と引き換えにバトルは俺たちの負けにする。無敗の称号に傷を付けたくないんなら……こっちの方が良いんじゃないか?」

『……お前、絶対舐めてるだろ』

「どうせ取引なんかする気は無いんだから、言うだけ言ってみただけだろ。お前……えっと――『カナタで良いぞ』そうか、カナタはこのダンジョンに自信があるんだったな」

『当然だ、俺がDMOを始めてから、魂を籠めて造り上げた傑作だ』

「ここに飛んでくる前に構造を少し視させてもらったが、アイツらには攻略が難しいとすぐ分かるぐらい、細やかな整備がされていたな。だから、カナタとコアは取引は絶対に選ぼうとしない……その確証はあった」


 俺も元【ダンジョンマスター】だしな。
 レンといっしょにアイデアを練った日々、今でも忘れらないぐらい染み付いている。
 だからだろうか、どれだけカナタが頑張ったのか、俺がどれだけ未熟なのかを知った。


『なら、なんで言ってんだよ』

「え、面白いだろ?」


 このとき、二人にからは冷たいオーラが放たれていたのだが――今の俺はそれを感じ取ることができなかった……わけもない。

 完全にキレてますよ――計画(笑)通りに。



 まぁ、その後の展開は分かるよな?
 こめかみをひくつかせながら、俺との賭けに乗った……コアさんの方は俺のしたいことが理解できたのか、少々楽しげであったが。

 現在俺は彼女たちから少し離れた場所で、眷属たちへ念話を繋いでいた。


「(は~い、では皆さん。これからダンジョン攻略大会を始めますよ~。この模様も国民たちに配信されてるけど、サービスショットは一々やらんで良いからな~)」

《……チッ》

「(ちょっと誰! 今舌打ちしたのは! 俺、別にドジっ娘が好きなわけじゃ無いぞ!)」

《冗談ですよ冗談。それよりメルス様、制限などはどうされますか? 次元を斬り裂いたりダンジョンそのものを破壊できる方がいますので、少々制限が無いと不平等になると思われます》


 アンがそう忠言してくる。
 ……うん、放映試合を見た国民でも理解できてしまうだろう。
 彼女たちがダンジョンのことなど気にせずに本気を出せば、難航するはずの攻略など、あっさりと終わってしまうことなど。

 それなら先に、そういう企画だと言っておいた方が良いかもな。


「(それもそうだな~。なら、俺が今から言うスキルと武器以外使用不可能にするって感じでどうだ? それ以外のものを使うのは最大で数回とかにして、ダンジョン破壊は反則にする。これぐらいやれば、多分大丈夫だろ)」

《そうですね。では、制限の方の報告よろしくお願いします》

「(オッケ~、『Wifone』の方に装備と使用するスキルの情報は送っておく。アンは後で確認するように言っておいてくれよ)」

《畏まりました》


 さて、さっそく武器とスキルを選考しないといけないな。

 思考を加速して、眷属達ができるだけ平等なレベルで攻略をできるような環境を創るため、一旦思考の海へと沈んでいった。



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