AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの『極塔之主』 その02



 しばらくして放心状態から戻ってきた彼女たちは、先程の来訪者についてを話し合う。

「……なぁコア。さっきの奴、ダンジョンバトルって言ってた気がするんだが……気のせいか?」

《……いえ、言ってましたよ。確かにはっきり、ダンジョンバトルと》

「どういうことだ? こっちの世界にそれを理解できる奴が居たのか? 飛ばされる前に見たダンジョンには、それが分かる奴なんて一人もいなかったのに」

 この島に封印される前、彼女たちは近くに存在していたダンジョンを巡った。
 数々のダンジョンを攻略し、最下に置かれたダンジョンコアとその主を探したのだ。
 しかし、その中に彼女たちの求めるものを知っている存在はいなかった。
 ……その際、いろいろとやらかしたことも封印された理由の一つである。

 少し横に長い耳を無意識にピコピコさせた少女が、相棒に向かって問うた質疑。
 それの答えを考えていたコアと呼ばれる存在は、集めた情報から仮定を少女に話す。

《……二つ、予想があります――
 ・ダンジョンバトルの概要が、外側の世界に知られるようになった。
 ・ワタシたちと同じ、ダンジョンバトルの概要を知っている世界の者であった。
 ダンジョンマスターと言う存在は、恐らく公衆には隠匿されると思われますので、後者の可能性が高いかと》

「ってなると……アイリスの野郎が人造人間でも造って、ここに送り込んできたか?」

《アイリス様は女性ですよ。野郎ではありません。それに、時間の流れに差があるかも知れませんので、彼女だけがここに来れる、というわけでもありません》

「……分かってるよ。俺だって、アッチの世界でならちゃんと会ってんだからよ。……でも、もしかしたらネカマって可能性もあるんじゃねぇか?」

《そうですね。現に実例がありますしね、ココに》

「くっ、一々言わんでいいわ!」

 苦言を申し立てつつも、彼女たちの会話は続いていく。
 ソファから降りて部屋に敷かれた魔方陣の上に立つと、少女はそこに魔力を流し込んで転移魔法を発動する。


 その先には、大きな台座に置かれた巨大な珠が鎮座していた。
 燦々と晴れ渡るような青空のようにも、曇天とした雨雲のようにも見えてしまう不思議な色の珠。
 少女はそれにペタッと掌を当てた後、再び魔方陣の上に立って元の場所に戻る。

 そう、そこに置かれていた珠こそが、少女がずっと話していた存在――少女の住む場所の管理を司るダンジョンコアなのだ。
 長い時間を掛けて自我を得たそのコアは、少女の意思もあってか、女性としての意識を持っていた。

「と言うか、何で一々触らないとメニューが開けないんだよ。"システムコール"とか、便利な機能が付く予定は無いのか?」

《その件は、だいぶ前から言っているではありませんか。あの世界でのアップグレードにあやかれない現状では、旧式のシステムに則った運用法しか取れないのです》

 あまり長い時間は、ダンジョンコアに現代知識を覚えさせることを可能にした。
 故に彼女たちはこうして、異文化の知識を織り交ぜた会話ができているのである。

「あ~あ、せめて(アップグレード)なんてスキルがどこかに存在すればな~」

《流石にそのようなご都合主義が過ぎるスキル、存在するはずは無いでしょう。運営がわざわざそのようなスキルを創る理由もありませんし、可能性があるとすれば……
 マスターのようにチキンで臆病で、もしもログアウトが不可能なデスゲーム状態に陥ったら……などといった妄想に耽り、運営からの報酬にシステムコンソールを求めるような方が調子に乗ってワタシたちと同じ場所に飛ばされる。といった場合でしょうか?》

「……何なんだ? その具体性があり過ぎる予想は。と言うか、どうして俺がチキンで臆病になるんだよ! 絶対いねぇよ、そんな妄想拗らせた奴!! つーか長ぇよ」

《そうでしょうか?》

 彼女にはなんとなくではあるが、少女との長い会話によって蓄積された記録から、そのような考えが浮かんだ。
 とある作品では、正式稼働直後にゲーム世界に閉じ込められ、また別の作品では、今の自分たちのようにゲームの世界から別の世界へと飛ばされる。

 そのような事例(?)とも言えるものを、何十何百と少女の口から聞いたのだ。
 少女のような臆病者ならば、もしや……と思ってしまうのも一理あった。

 ――だが、少女はそれを否と断言する。

「ああ、間違いねぇ。もしそんな報酬が貰えるクセにビビってるような奴が実在してんなら、そんときはソイツに、俺が一発拳をくれてやるよ!」

《いえいえ、それではマスターが得をしているだけではないですか。その方が殴られて喜ぶ可能性は……あっ、今のマスターのお姿ならば、喜んでいただけるかもしれませんね》

「嫌だよ気持ち悪いっ! それってただの変態だろうが! ……ならコアはどうすりゃ良いって言うんだよ」

 システム画面を操作しながらそう言う彼女に、少し楽しげな声色を隠すことなく、ダンジョンコアは少女に告げる。

《もちろん、マスターには責任を取ってその方の言うことを一つ聞くと言うことで――》

「嫌に決まってんだろう! 今の俺、女! 絶対ロクなことになんねぇじゃねぇか!!」

《おや? そんな奴は実在しないのでは無いのですか? それならば全く問題がないじゃありませんか》

 少女の言い分が正しいのならば、これまでの話に登場した臆病者は存在しない。
 ならば、自分の提示した条件にあっさり乗るのでは……と思ったが、さすがにそこまで甘くはなかった。

「大体、それを俺が受け入れて、一体何の得があるんだよ。デメリットしかねぇだろ」

《そう、ですね……では、もし実在しなかった場合、マスターが買おうとしてワタシが封印した物を一つ、購入しましょう》

「……マジで?」

《ええ、マジです》

 少女は考える。
 そんな奴はどうせいないのだし、このまま受け入れても良いのでは……と。

 相棒が封印した物は、どれもこれもが高額であるが故に購入することを禁止された。
 それを一つ解放してくれるのだ。
 ならば、と答えはだんだん是へと近付いていく。

「――いいぜ、受け入れてやるよ。ま、それもこれもダンジョンバトルが終わってからだがな」

《(フフッ、これでさらに計画が進みます)では、そうしましょうか》

 今まで改変していたダンジョンの設定を現在のダンジョンへと反映させ、ダンジョンバトルへと備えていた少女は、そう言って不敵な笑みを浮かべた。
 ……裏で相棒が、何を考えているかも知らずに。


 TO BE CONTINUED


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