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山田 武

偽善者と放映試合 その04



『ティル様を倒したメルス様ですが、強者はまだ十一人います』

『はたして、メルスは全員を倒すことができるのかな?』


 いや、全員倒さないと終わらないのかよ。
 彼女たちの実況に耳を傾けつつ、俺はそんな感想を覚える。
 いやな、人権を無視さえすれば何人かは即座に無力化できるんだよ。
 だけど、さすがに偽善者としてはそれはどうかと思うし……。


「――考える暇は無いわけじゃないけど、今は迷わずやる場面なのかな?」


 極端な話、俺は<千思万考>を使えば何十年も思考の海に沈むことができる。
 体にどういう影響が出るか分からないからやりはしないが、リープと会う時は加速させてるな。


 閑話休題寝る度に会うけどな


 さて、次は誰を使おうか……。
 強者たちの攻撃は未だに続いており、罅はそろそろ綻び、この空間への侵入者が現れそうである。


《…………》


 何も言っては来ないが、自分を使ってという念が籠められてきている気がする。
 う~ん……まだ強者はたくさんいるし、消費が激しい技はあんまり使えないしな~。

 加速させた思考の中、選んだのは――


「クー、ガー。次はお前たちだ」

《ありゃ? 結構早めだね》
《分かりました》

「(それとクー、形状を兄の方のティアラみたいに変えられるか? 流石に片手を使ったまま勝つのは難しい)」

《うんうん、勝てないと言わないのはプラスだよ。形状はすぐに変えるね》


 呼び出したことで出現した嵩張った正十二面体にそう告げると、一瞬発光した後に、俺の左腕に綺麗な装飾のされた半冠ティアラが嵌る(うん、完全にアレだ)。


「(ガーは……そもそも面積がどうなってるか分からないんだが……そこんとこ、実際はどれくらいなんだ?)」


『ガブリエルのラッパ』と呼ばれる代物をイメージして創られたため、ガーは有限の体積と無限の表面積を併せ持つ世に言う【矛盾】だらけな空間図形が形を成したのである。
 初めて創造した時は、子供用のラッパぐらいの大きさしか無かったが……初期の大きさはそれなのか?


《恐らく既に考えているかと思いますが、メルス様が最初にイメージした大きさ――つまり子供用のラッパ程のサイズが、基本の大きさとして定義されています。(無限拡張)をお使いになられれば体積も変更できますので、大きさに関して、私に不便な点は無いと思われますよ》

「(……まあ、持ち運びには困らないってわけだな。なら、持ち手を付け加えるのは可能なのか?)」

《はい――こんな感じでどうですか?》


 ガーもまた発光した後には、少し形状が変化している。
 少し曲線を描くようなフォルムと、円を描くように掘られた溝を持つラッパへ変わり、これまでよりも持ちやすくなった。


「(おっ、ちょうど良いな。ありがとう)」

《お役に立てて、光栄です》


 ありゃ、そうこうしている間に亀裂が崩壊後十秒って感じになってらー。


「(それじゃあ、始めるか――(直観認識)(直感認識)(最後の審判))」

《(うん)(はい)!》


 狭い方の筒に口を当てながら、魔力を充填してスキルを発動させる。
 音色が辺りに響くその瞬間――同時に結界が崩壊し、強者達が向かって来る。


「一気に来ても殺られるだけだぞ~」

『それでも、単独で突っ込むのが特攻隊長ってものなんだろう!』

「……確かにそうなんだけどな」


 チャルが結界が完全に解除される前に、突進してくる……本当に戦闘狂やな。
 彼女は風と雷の力を体に纏い、神速の領域に達する速度で迫って来る……が、甘い。


「――だけど残念。もう間に合わないぞ」

『……タイミングを間違えたn――』


 何かを察したように、苦言を呟くチャル。
 その言葉は、空から降り注ぐ彗星によって掻き消されてしまう。

『最後の審判』verゾロアスター教である。
 全ての死者が一度復活し、その後天から彗星が降ってくる。
 それによって世界中の鉱物が熔け出して、その熱によって不徳者は苦しみもがいく――それこそがゾロアスター教に於ける『最後の審判』であった。

 これへの対策は、彗星そのものをどうにかするか、彗星が落ちたことにより発生するマグマをどうにかするかである。
 マグマならば冷やすか飛ぶかですぐに対処が可能だが……彗星は無理だ。
 とある作品で竜神を殺せた初期の流星弾と同じ大きさを持つ隕石たちは、結界内で俺とティルが生み出したエネルギーを使い生成された。

 聖剣や魔包丁がぶつかり合い生み出したソレは、結界内で循環して俺の中で蓄えられている。
 強大な力が衝突することで生み出されたエネルギーだ……逃げ場の殆ど無い結界内でその膨大な力の波動を受けたチャルがどうなったかなど……お分かりいただけるだろう。


「二つの『チョッカン』がそうしろと訴えてきたからこうしたけど……チャル一人が精一杯だったか」

《強者を一撃で屠れること自体、奇跡に近いことだったのさ。ガーの審判を選べるようになってなきゃ、そもそも不可能だったかもしれないけどね》
《クー、ありがとうございます》


 突貫してきた彼女以外は、力を合わせて彗星とマグマの両方に対応した。
 スキルや魔法で彗星の大半を砕き、巨大な壁を創造してマグマを誘導する。
 ……やっぱり、死地を踏んでる彼女たちに不意打ちは中々効かないな~。
 なら、次はどうやって戦うか……。

 未だスタンバイ中の武具っ娘との相性を考え、何か良い方法がないかと思案する。



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