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山田 武

偽善者と○生ゲーム



夢現空間 玄関


『フィレルゥ~~!!』
『アイリスッ!!』


 受肉が終わった彼女を連れて夢現空間へと帰還すると、玄関でフィレルが待っていた。
 それぞれの顔を確認すると、ダッシュで駆け寄り抱きしめ合い――今に至ると。


「……平和だね~」

『あら、お帰りなさいメルス』

「おお、ただいまだ」


 弾かれて寂しく独り言を呟いていると、何故か居たアリが出迎えてくれる。
 今はどうやら、アリス状態だな。


「なんでここに居るんだ?」

『ストレートに訊くわね……。まあ、何となく転生者ってのが気になったからかしら。アリスたちの【加留多】はメルスの世界のゲームが基盤となったのでしょ? なら、メルスの知らないゲームを彼女が知っているかもしれないと思ってね』

「俺とは別世界の奴だったし……確かに、少しルールの違うゲームがあるかもな」

『メルスの知っているゲームを把握したら、それと類似していたゲームのルールを変更できるようになったのよね』

「いや、知ってるよ」


 実験に付き合わされて、連続三十連敗を超えたぞ。忘れたくても忘れられないわ。


『でも、これはかなり掛かりそうね。アリスにはああいった関係の人はいなかったから良く分からないけど、結構時間が掛かるらしいじゃない』

「そうだな。周りに"時空加速"を使っても良いと思うぐらいには掛かるんじゃないか?」


 再会だけで、長いこと長いこと掛かるって事案もあるらしいんだ。
 どれだけの時間を隔てたかはまだ訊いていないが、感動的な別れをしてたんだ……積もる話もあるだろう。


「――まっ、待つついでに一勝負しようか」

『へぇ~、クーがいないと勝てないのに?』

「だから、今回はこれで勝負だ」


 "収納空間"からある物を取り出して、俺はアリとゲームを始める。


◆   □   ◆   □   ◆

「――3マスっと……『(錬金術)で大儲け!ポーションで10000Y獲得』アリィ、10000Y札をくれ」

『はい。次はっと……8マス『ゴブリンキングとレイドボス戦、10以外なら一回休み。ただし、職業が【初心者】の時のみ何が出ようと課題を達成したことになる』って普通無理でしょ』

「良いからやってみろって。それに、ちゃんとその前の部分で転職マスが有ったじゃないか。不可能なことは記さないぞ」

『……9、一回休みね。あのねぇ、たった1マスしか無くて、事前に基本職のマスを全て踏まなきゃいけないなんて、どれだけ運が悪い人なのよ』

「そっか? リアル人生ゲームなら、一応その条件、クリアしたぞ」

『それは{感情}ってスキルのお蔭らしいじゃないの』

「まあ、このゲームに当て嵌めるなら、どのマスに止まるか自在に選べるみたいなもんだしな。そりゃあチーター扱いだよな……お、いいマスに来たな」

◆   □   ◆   □   ◆


『……ねぇ、何をやってるの?』

「よっしゃー! 『不死鳥の嫁ができる。自分のターンが終了する毎に100Y獲得』ありがとうフェニ!」

『……何をやってるのですか?』

『クッ、『ドMの勇者を従える。世話に手間が掛かる為一回休み』……アリス、さっきから休む回数多くない?』

「その分俺より先に進んでるじゃないかっと――お、『ラースボアとの戦闘。5より上なら勝利』……6か。セーフだな」

『凶運なのに、どうしてこうも運良くやっているのかしら。凶運なら凶運らしく、ギリギリ4で休みになりなさいよ』

「ハハッ! ヤなこった。俺は絶対に勝ってみせるん――」


『『話を聞いて(ください)!』』


お説教中
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居間


「悪い悪い、つい盛り上がっちゃって……」

『いえ、再会に浮かれていたわたしたちにも責はありますので』


 先程まで行っていた◯生ゲームを片付けた俺たちは、一旦場所を変えていた。
 アリはアイリスへ、俺に話していた通りのことを尋ねておりので、余ったフィレルは同じく余った俺と会話をしているのだ。

 お茶請けとして出したカステラを一つ掴んで口に含む……うん、パサパサやな。
 俺なりに工夫をしてはいるんだが、元料理経験0の俺にしっとりまろやかなカステラはまだ作れない。
 (料理神の加護)でカステラの作り方自体は分かるんだが、そこからの発展は自分で頑張るところだしな。

 乾いた喉をお茶で潤してから、会話を再び行う。


「それで、アイリスとの感動の再会に満足できたか? 偽善者らしく、強くなる理由を勝手に奪ったわけだが……」

『……彼女から、自分の体がどうなったかは分からないと言われました。旦那様のお蔭で以前と変わらないように見えますが、実際にはアレは作り物の体なんですね?』

「おいおい、アレは神器だぞ? 自動的に眷属化もされるから、今のフィレルみたいな力が手に入る。また同じような状況になったとしても、今度は対応できるだろ? これが俺なりの優しさってわけだよ」


 力が無ければ、どれだけ壮大な夢も意味くを無くしてしまう。
 俺の偽善だって、{感情}が無ければもっと小規模な範囲でのものだったと確信しているしな。

 彼女たちには力が無かった。神に抗うだけの力が。

 ――なら、補えば良い。

 幸いなことに、モブの能力値はそれが可能な程に成長を続けている。
 本当に必要な者たちへ、力を授けていく役割――それを俺は担っているのかもな(ほら、最初に神様がチートを渡すってシーンが良くあるじゃん? その後出番の神様って、なんかモブっぽくない? つまりは、そこが俺の役割ポジションってことだ)。


「それに、どうせ再会するならヒシッとハグできた方が良いじゃないか。眷属になっとけばこっちにいつでも逃げ放題だから安心だ。悪いことは……まあ、特に無いしな」

『それは……確かにそうなのですが。いつ、また彼女を狙って神が現れるか』

「それをどうにかするのが、俺の仕事だと思う。お前たち全員から勝手にパクった力を束ねて使えば、どんな神が相手でもどうにかなるんじゃないか?」


 滅私奉公、やってみせるでござる。
 だが、その回答は間違いだったようで、少し不満げな視線を向けてくる。


『……手伝えとも、一緒に戦うとも言わないのですね』

「そのセリフは、俺に勝ってから言ってくれよな。最近決めたことなんだ。さっさと調子に乗ってるモブに示してくれよ――『お前は後ろに引っこんでろ』ってさ。そう言ってもらえるまで、俺は独りで偽善を行い続ける」


 俺みたいな雑魚は、とっとと退場したいんだけどな~。
 RPGもの中ボスも、倒してもらえるまではそこでずっとスタンバって役目を果たさなければならない。

 中ボスと違って、少しアクティブに動けるだけだ。
 徘徊する主人公が俺に攻撃すれば、すぐに倒されるんじゃないか?
 彼女たちが俺をそうやって役割から解放してくれるまで、最前線で行う偽善活動は終わらない。
 ……みんなこっそり【成長補正】とか<澄心体認>を共有してるから、かなり強くなってきてるんだけどな。


『では、旦那様と共に戦えるように、精進することにしましょう。次は誰も失わないように、アイリスを、旦那様を失わないように』


 彼女は俺の顔面スレスレに拳を飛ばして、そう言ってくる(まあ、(未来眼)で分かってたから驚きはしないがな)。


「……多分俺はともかく、アイリスは自分自身で頑張ろうとすると思うからな。先に話を付けておけよ」

『フフッ、そうですね』


 アリとカードゲームで盛り上がっているアイリスを見て、俺とフィレルはそう話す。



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