AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『吸血龍姫』 その02



『……それなりの実力はあるんだね』

「借り物だけどな。俺が俺のままでここに飛ばされていたなら、きっと最初の場所でずっと引き籠っていただろうさ」

『今のアンタがそれを自覚しているだけで充分さ。そうやって誰から力を受け継いだかも忘れて、何もかも全てに喧嘩を吹っ掛けようとしないなら……それは幸せなんだろね』


 そうだな。
 神から貰ったチートを振る舞う主人公ならともかく、俺みたいにレンタルの力を使うモブは行動の責任を取らないと。

 世界に喧嘩を吹っ掛けるぐらいなら、もっとマシな使い方があるだろうよ……人のために力を使うとかな。


「……面倒そうな話なら、しなくても良いからな。この島に居た奴らの話は、必ずと言っていい程に重い話ばかりだから」

『ま、アタイも別に、いきなりあったばかりの奴に身の上話をする程人付き合いが良いわけじゃないからね』


 そう言った彼女は、張り付けにされながらもニコリと笑う。
 とりあえず眷属についての説明も終え、今は十字架の解析へと移行している。
 何をするにも、十字架がどのような性能を持つのかを調べなければいけないしな。

 現在分かったのは、神氣の波動のパターンぐらいだな。
 前にマシューを操っていた神氣の持ち主とは、パターンが違うことが分かった。
 他のことはまだ分からないが、それが分かるだけでもかなり優位に立てると思う。


「……そういえば名前を訊きそびれてたわ」

『そりゃあすまないことをしたね。アタイの名前はフィレルさ』

「フィレルか。もう一度言うが、俺の名前はメルスだ。よろしくな」

『そうかい。よろしく、メルス』


 ……さて、十字架の方をどうにかしなきゃいけないな。
 解析した情報を元に、彼女の周囲に魔法を発動させていく。


「じゃあ、早速やってみようか(――(結界魔法)+(神氣)+<次元魔法>="封神結界")」

『結界? アンタ、一体何を……』


 彼女の周りに結界を生成し、神氣が外に漏れ出ないようにする。
 不思議そうにしている彼女をスルーして、十字架へと近づいていく……上は見ないからな(十字架は大きく、大体3mぐらいある。彼女はその上の方で磔にされているため……)。


「気にしない気にしない。さっきも言った通り、俺のやりたいようにやるだけだからさ」


 眼上(?)に広がる眼福記憶してから、十字架へと手をペタッと付け、中に渦巻くエネルギーを読み取っていく。

 今からやることには必要不可欠だからな。
 こうして近付かないといけなかったんだ。


「あ、そういえば不思議に思ったんだが、その十字架ってどうやってフィレルを磔にしてるんだ? 縛り付けられているわけでもないし、何かが刺さってるわけでもない……どういった感じで磔にされてるんだ?」

『……そうさねぇ、何かに引っ張られるような感じがするだけで、アタイの体に何かが刺さっているってわけじゃないね』


 ――親切に応えてくれるな。
 やっぱり、質問はしてみるもんである。

 ……よし、解析完了だ。
 十字架の方も、対策さえしておけばどうとでもなるか。


「なら、大丈夫そうだな(――"置換転位")」

『――何をやって……ッ!?』


 俺の発動させた"置換転位"によって、俺と彼女の居る場所が入れ替わる。
 魔法無効化もあったのだが――いつの世も無効化を無効化という手があるからな。

 一瞬で視界が高くなったと思ったら、体の中からドクンドクンと何かが吸われていく。
 重力が横向きになったかと思う程に、十字架へと体が吸い付けられて自由に動かせなくなる。
 ……案外、新感覚でクセになるかも。


「うぐっ、結構キツいんだな……まあ、それも一瞬だけど(――常駐解除"夢現返し")」


 十字架に、発動した魔法を無効化する能力が無いことは確認済みだ。
 なので<常駐魔法>で事前に発動しておいた"夢現返し"を起動させ、自分の居る現実の場所と、彼女の近くに居るという夢の場所を移し替える。


「後はこれを使って~っと」


 "収納空間"から取り出してアレ・・を使い、十字架へと押し当てる。
 すると十字架が結界内から跡形も無く消え失せ、結界の中には俺と彼女しか存在しなくなった。


『アンタ……一体何をしたんだい……』

「う~ん、説明が面倒だからな。ま、見事に外れたんだから良いとしようじゃないか」

『それで済むなら説明は要らないんだよ!』

「え~……結果オーライって言葉があるんだし、別に分からなくても良いだろ? マジックだって、全てのタネが分かったら面白くないんじゃないか?」

『アンタのそれは、マジックだって言いたいのかい……』

「いや、全然」

『なら説明しなよ!』


 そう言われてもな~。
 この後俺は、のらりくらりで彼女の追及を回避することに専念した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 どうしてこうなったんだろう。
 毎度毎度この展開、俺の凶運もしっかり機能してるんだな~と実感できてしまう。


「……なあ、本当にやらなきゃ駄目か?」

『当然! アンタの実力を見なきゃ、眷属には絶対にならないからね』

「どうしてこうも、俺に戦闘を求めるんだかな。そういうのは全てが力任せのヒーローの役割であって、小狡い手を使うモブの仕事ではないと分かってもらえないんだし~」


 彼女の言葉だけで、今回の事情は直ぐに分かるだろう。
 そう、「眷属にならないか?」と訊いた瞬間、『なら、アタイと闘いな!』と言われたためである。

 そのため一度結界から抜け、俺と彼女は少し離れて相対しているのが現状だ。


『証明してみなよ、アンタがアタイの主に値するだけの力を持っていると!』

「アタイと値でかけたのか? ……うん、面白いよ。俺はそう思うからね、うん」

『~~~~~ッ! ぶっ殺す!!』


 そんなこんなで、結局バトルです。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品