AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者なしの偽善者戦 その08
(な、何コレーー!?)
彼女は内心、そんなことを考えていた。
スキルを発動させただけのはず……はずであったのに、自分の装備の色が一変したのである……そう思っても仕方ないだろう。
髪と眼の色の変化のついては確認できないだろうが、そういった目に見える部分であれば確認することができる。
(……でも、今は考えている時じゃない。早く二人と合流しないと)
それでも意識を切り替えて、戦いへと集中する。
考えるのはいつでも可能だが、闘うことは今しかできない。
彼女は先程流れてきた情報に従い、背中に生えた翼を操って偽者の元へと向かう。
『…………』
偽者も、上空から迫る彼女をただ見過すわけでは無い。
自身も翼を展開し、直接迎え撃とうと思った……のだが、
「何処に行こうとしてるのかな?」
「お前の相手は俺たちだろう?」
ユウとシャインが偽者の行く手を阻み、彼女のやることを押し通らせようとする。
彼女はその間に偽者へと急接近し――騎士剣を振るう。
飛行によって得た推進力をエネルギーへと変換し、魔力と融合させて剣技として放つ。
「――"天魔隆星"」
最適化された彼女の剣術――(天魔剣術)の武技によって、流星のごとき速度で偽者へと斬りかかる。
一瞬硬直した偽者の隙を突き、ユウとシャインは一旦離脱する。
『――"空間移d「遅、い!」』
偽者は(空間魔法)を詠唱し、その攻撃を回避しようとするが、彼女の剣速はそれをも上回った。
青・白・黒に輝く騎士剣は、偽者の肉体を容易く斬り裂いたいく。
斬り裂かれた偽者は背中から地面にバタッと接触し、そのまま虚脱して倒れる。
HPバーがグングンと減少していく様子を見て、誰もが勝利を確信した。
「おい……もしかして、やったんじゃねぇのか?」「ああ、これはもしかしたらな」「ついにやったか!?」
『……ってお前ら、それは言っちゃ駄目だろ!!』
――そんな中、生存フラグを言った者も現れるた。
それによって真実を知らないプレイヤーたちでも、この先の展開が読めてしまう……。
突然口を開いた偽者は、無機質な機械のような声で何かを綴っていく。
『――致死攻撃を確認
――エマージェンシーモードへと移行
――全スキルの解放を実行
――:擬似永久回路:を起動……超速回復を実行』
その言葉に、プレイヤーたちは絶望する。
この悪夢はまだ続くのか、と。
それを証明するかのように、HPバーは目に見える速度で回復していく。
……いや、回復というより増幅だろうか。
今まで最大の数値を遥かに超え、現在の偽者はまさに止めることのできない永久機関と言えよう。
しかし彼女は、凛とした立ち振る舞いのまま偽者へと告げる。
「無、駄。回復、はで、きない。私、が発、動させ、たの、は、『神、殺し』……だけ、じゃな、い」
そう、彼女が[スキル共有]で共有したスキルは<天魔騎士>だけでは無かった。
「――(霊、撃)と(魂、喰)……体、じゃな、くて、魂、を壊、した。神、髄(?)は、もう無、くなる」
一度は増えたかと思えたバーは、そう告げた途端に霞のように消え去った。
受け取った情報から借り受けた二つのスキル、それを先程の攻撃に使用していたのだ。
スキルは魂に記録される。
神の魂とも呼べる神髄をそれらによって傷付けられた今、偽者には回復は疎か、何らかのスキルを発動することもできない。
――そう、思っていた。
『――神髄に修復不可能なダメージを確認
――スキルの使用は不可能と推定
――また、神髄へのダメージのため、これ以上の戦闘は■■■■■様への影響が過大であると思われます』
「……何、を言っ、て」
偽者は寝転がったまま、どこか遠い所を見つめながらそう呟いていく。
顔は蒼白を通り越した真っ白、目は闇を写し数字の羅列が横切っている。
それを見た者には、今の偽者はまさに化物と呼べる存在になっていよう。
『――プレイヤーの戦闘力……及び、特異存在たちの出現を確認
――現在想定外の威力を検出、侵蝕の影響下に無い者と思われます
――排除した後、検出作業へと移行しますか? ……承りました
――残存魂魄を爆破術式へと注ぎます』
「ペルちゃん、離れて!」
「おい、早くそこから移動しろ!」
『――現魂魄量では全てを処理するのは不可能です
――対象を一体に絞ります
――特殊結界を展開……神族以外の結界への干渉を不可とします』
突然動き出した偽者を見て、慌てて動き出そうとする彼女たちだが……偽者が展開した結界に阻まれ、ペルソナの救出に向かうことはできなかった。
一方のペルソナも結界内から脱出しようとするが、やはり結界が邪魔をするため逃げ出すことはできない。
偽者は斬痕から赤い何かを放ちながら、彼女へと一歩ずつ迫っていく。
(どうしよう……あの攻撃は絶対に危険。今の私でも受けたら確実に死に戻る。しかも、偽者の言ってたことが確かなら、死んだら普通じゃ無い展開になる……何とかしないと)
しかし、彼女がどう考えたところで偽者の行動は変わらない。
ついに、直接殴れるほどの距離まで近づいて来た偽者。
もう駄目かと思ったそのとき……一人の男が、結界の傍までやって来る。
鍛え上げられた肉体を持ち、先の戦いを拳一つでプレイヤーを引っ張ってきた――プレイヤーの代表とも呼べる存在。
「やっぱり、アイツの言った通りになったみたいだな……それなら、これだ!」
その男――ナックルは、結界へ向けて結晶のような物を投擲した。
結界によって弾かれるはずだったソレは、何故か結界をそのまま通り抜け……彼女と偽者の近くに落ちる。
――すると、結晶が輝いてフィールド全域に光が行き渡る。
プレイヤーはその光に目を奪われる最中、幾つかの音を耳にした。
ギュッ、という土を踏みしめる音。
メキッ、という何かを抉る音。
バリンッ、という何かが割れる音。
光が収まった時、プレイヤーたちの視界には二人の人影が確認された。
プレイヤーも、最初はそのままの状況であるかと思ったのだが……目が光に慣れた時、先とは異なる状況が、結界内に広がっていることに気付く。
結界にはいつの間にか罅ができており、人一人が通り抜けられる程の大きさを持つ穴ができている。
また、片側の存在も変わっていた。
鮮やかな緑色の髪を短く纏め、同様の色を持つ瞳で周りを見回している。
頭から一本の角を生やすその人物の顔は、先程までその場所に居たはずの――偽者に似ていた。
そして、その者は独唱する。
「保険とはいえ、用意しておいてよかった。幾らなんでもやり過ぎだろ。
俺は【憤怒】させたかも知れないけど、コイツらには何の罪も無いのにさ。力を求めて謎の存在に魂を売った被害者にすることじゃ無いよな……。
しっかし、俺の偽者……良いスキルを持ってたよな~。奪えないのが残念だよ。ま、解析班が監視してるだろうから、そっちに期待だな」
「あ、貴、方は……?」
ペルソナはその者に尋ねる――いや、正しくは確認した。
ここまで材料があれば、誰かは大体見当が付いる。
偽者以上の戦闘力、偽者と類似した容姿、偽者を偽者と断じる発言……答えは既に出ているだろう。
「ん、俺か? ――俺は偽善者の■■■だ」
「……なんて、言っ、たの?」
「Oh……」
しかしその者の名前は、彼女の耳にはノイズにしか聞こえなかった。
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