自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)

山田 武

偽善者なしの偽善者戦 その02



 戦況は相も変わらず、偽者コピーが優位のまま進行している。

 ――なにせ、近づいただけでこの空間から消失してしまうのだ。

 対策を立てるにも立てようがなく、一部の者はこのイベントを負けイベントと思い始めている。
 実際には勝つ方法も、あるにはある……のだが、多すぎる偽者の攻撃手段に混乱し、本来の実力を発揮できないプレイヤーたちでは不可能なことであった。

 誰もが諦めかけたその瞬間、一人の男性が偽者へと攻撃を仕掛ける。

「うぉおおおおおおお――"聖拳崩撃"ッ!!」

 男――ナックルがそう叫ぶと、指に巻かれた糸は千切れ、構えていた盾と共に偽者は遥か遠くへと吹っ飛んでいく。
 後ろを振り返り、生まれた静寂の中で彼は吠える。

「みんな聞いてくれ! 今見たように、アイツに攻撃は通用する! 決して倒せない、負けイベントなんかじゃないんだ! 全員が協力さえすれば絶対に倒せる存在なんだっ!!」

 ナックルがそう言うと、プレイヤーたちにやる気が戻り始める。
 最強ギルド『ユニーク』のリーダーがそう言うのだ、間違いない! と思う者が多いからだろう。

 実際の真実を知っているギルドのメンバーは、影ながらにその姿を見て苦笑していた。

前日
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ギルドホーム

『……と、いうわけだな。ナックル、頑張ってプレイヤーを鼓舞してくれ』

「すまない、いきなり『……と、いうわけだな』と言われも分からないぞ」

 ナックルとメルスは、ある魔道具を通じて連絡を取り合っていた。
 製作者によって『映像投射具』と名付けられたそのプロジェクター型の魔道具は、距離にあった魔力を消費することで、映像を対となる魔道具に届けることのできる、比較的便利アイテムだ。
 これは<次元魔法>による改造も施されているため、終焉の島にいるメルスともこうして話し合いができるのである(ちなみに、これはユウがナックルに届けた)。

『……やれやれ、これだから中間管理職は面倒なんだ。さっさと自分がリーダーの器だと認め、『ユニーク』の主として君臨しろ』

「だから、俺は適当に決められたリーダーだと言ってるだろう。嵐のリーダーの◯野君と同じくらい適当なんだよ!」

『……まあ、あっちはジャンケンだしな。だけど実際、他のメンバーは◯野君がリーダーになってほしかったらしいぞ。そういう理屈なら、ナックルもリーダーになってほしかったからなってって話になるな』

「本当か!? てっきり、いきなりジャンケンで決めたのかと思っていたぞ」

『いや、自信が無い○野君の背中を押すためのジャンケンだった……と、俺は思うぞ』

 今も昔も大人気、テンペストのリーダー誕生秘話を語る二人であったが(別に秘話では無い)、やがて話を元に戻す。

「とにかく、ちゃんと説明をしてくれ! 一体何をどうやったら、俺がプレイヤーを鼓舞しなければいけなくなるんだ!
 仮にそんな事態に陥ったとしても、キョウカ――『激励の英雄カリスマ』がやればいいじゃないか!」

『へ~、あの人にそんな二つ名が付くようになったんだな。……残念ながら、あの人と連絡を付ける方法が無いし、恐らくだが、実力が伴わないと駄目な仕事になる……彼女には荷が重すぎるんだ』

「……メルス、説明をしてくれ」

『あいよ』

 それからメルスは、ナックルにある程度・・・・の情報を提供した。
 昔のステータスを持った自分自身のコピーが、今回のレイドボスであること。
 ユウたちに討伐を頼んだこと。
 ……そして、それによって起き得るであろう、未来の展開を。

『――と、いうわけだな。ナックル、頑張ってプレイヤーを鼓舞してくれ』

「……同じセリフのはずなのに、重みが全然違うじゃないか」

『だから最初は説明しなかったんだ。一度説明すると、こうなると思ってたんだからな。俺が最初からこのことについて語っていたなら……お前は話を聞くことも無く、盥回しにすると思ったんだよ』

「ああ、絶対に回してたな」

 ナックルは即答する。
 メルスがナックルに告げた未来は、それ程までに重く、知るだけで面倒事になることを理解してしまう程のものであったから。

『ま、報酬というわけでも無いが、ここまでの大事をやるんだ……それなりの準備ってものが必要になるよな』

「い、嫌な予感がする。どうせ俺の興味をそそるようなものを出す気なんだろ? 幾ら俺だとしても、そんな簡単にh『前回のイベントで俺が提供したダンジョン『偽・世界樹の迷宮』への転移魔法陣を提供しよう』……それで、俺はどういう風に盛り上げればいいんだ! 早く言ってくれ……いえ、言ってください!」

 映像内のメルスも、その回答は予想していた……そうする予定だったのから。
 しかし、さすがに掌返しの速さに驚き、若干顔を引き攣らせながら話を続ける。

『あっさり落ちたな』

「お前のダンジョンが悪いんだろうが! 大体俺たちは、その迷宮に行けなかったんだからな! 行こうとする直前で、リョクさんに潰されたわ!」

『あ、ああーそれはゴメン。【忠義】に篤い奴だからさ。ちょっと張り切っちゃったみたいで……』

 前回のイベント時、リョクはナックルたちのギルドが造り上げたダンジョン内で、全員に修業を付けていた。
 そのため、全員がその場から動くことができなかったのだ。

『報酬はそれにするとして、やり方は今から説明した通りにやってくれ。頼んだぞ、ナックル』

「はいはい、分かりましたよ」

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「この戦い、(報酬のために)絶対に勝ってみせようじゃないか!!」

『オォーーーー!!』

 迷宮攻略が趣味のナックルは、こうしてプレイヤーたちを鼓舞し続けた。


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