自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)

山田 武

偽善者なしの偽善者戦 その03



 ナックル率いる『ユニーク』のメンバーたちが戦闘に参加することで、状況は均衡状態へと変化していた。
 偽者と激しい戦いを繰り広げる光景を直に見て、プレイヤーたちの心に火が点いたからだろう。
 彼ら『ユニーク』以外の強力な力を持つプレイヤーたちも協力し、凶力な偽者と闘い続けた。

 しかし、いつまでも戦況が同じというわけにはいかない。
 それは、偽者の周囲に魔方陣が現れた時のことだ。

「……お、おい、気の所為か? 俺、こんな感じの魔方陣が出てから起きた大惨事、見たことある気がするんだが……」

「き、奇遇だな。俺もだ」

 それは、その魔法陣を見ることのできた、前線で戦う者たちの会話だ。
 彼らは、かつて行われた『撲滅イベント』にも参加しているプレイヤーで、偽者が発動させている魔法陣に見覚えがあった。

 そして、偽者の魔法が発動する。

 ――"英雄試練・葦原醜男"

 魔法陣からは、様々なものが出現する――

 猪と見間違うような形をした炎を纏う石、
 洞のある木とそこに仕掛けられた矢、
 禍々しい牙を持った蛇、
 毒々しい顎肢を持つ百足、
 強力な毒針を生やした蜂
 紅蓮の炎を纏った矢、

 何千何万という膨大な数のそれらが魔法陣から飛び出し、プレイヤーに襲いかかる。

 そして、彼らは察する――。

「あ、アイツは魔王だったんだ……アレは『試練の魔王』だ!!」

「なんでアイツが、レイドボスをやってるんだよ! プレイヤーじゃなかったのかよ!!」

 彼ら――撲滅イベント経験者は知っているのだ。
 今起きている現象に近しい現象が発生した際、全プレイヤーの内何割かが死に絶えるかということを……。

 かつて、偽者が真似した本者メルスが行ったその魔法によって、生き残れたのは20にも満たない数のプレイヤーのみであった。


 そうこうしている間にも、魔法陣からは恐怖と絶望が飛び出している。
 プレイヤーたちの中には結界を発生させて攻撃を防ぐ者や、攻撃を行って対処する者もいるが、自分の周囲のプレイヤーのみを守るのが精いっぱいであり、全プレイヤーが回避できたわけでは無い。

「アッチ!」「ぐわっ!」「グギッ!」「来るギャァア!」「……カハッ!」「痛い痛い痛い痛い……」「く、来るなよぉ……く、来るなー!」

 ある者は炎の猪に突撃されて炭になり、
 ある者は洞から飛んできた矢が刺さり、
 ある者は矢によって倒れた木に潰され、
 ある者は蛇に首を噛まれて骨が折れ、
 ある者は百足の毒で一瞬で息絶え、
 ある者は蜂にじわじわと嬲り殺され、
 ある者は燃え盛る業火に焼かれ、
 ある者は心臓に刺さる炎の矢によって灰にされた。

 この魔法"英雄試練・葦原醜男"とは、日本神話に記された神――『大国主命おおくにぬしのみこと』がかつて行った……いや、行わさせられたとされる試練の数々を再現した代物だ。
 大国主命は兄が猪と偽装した炎の石によって一度、木の洞に仕掛けられた矢によって倒れた木に潰されて一度、母親が兄から大国主命を逃がすために一度……つまり三回死ぬ。
 詳細は省くが、この後大国主は蛇より下の試練を受け、最終的には兄を殺すことに成功する。

 大国主命の物語――それは、死と再生の物語である。兄に殺され、母の嘆きにより復活し、再び死ぬ……。
 それでも兄を恨まずに、何度も何度も試練へと挑んだ結果――今の日本でもかなり有名な神として崇められている。

 とは言っても、彼の神には他にも逸話が有るはずなのに、本物はそれを魔法には搭載していない。
 有名なものを挙げるとすれば、『因幡の白兎』であろうか。
 大国主命の優しさを体現したその話をカットした理由が「いや、攻撃キャラとして使えないだろう。別に大国主と闘ったわけじゃ無いし」と言ったものである……全く、救えないものだ。

 しかし、そんな裏情報とは関係無く魔法が強力であることに変わりはない。
 彼らはそんな自国の神が挑んだとされる試練へと挑む羽目に陥ったのである。


 閑話休題一方のプレイヤーは?


 レイドボスとしてのステータスを持つ偽者は、地面が召喚したもので埋め尽くされる程に"英雄試練・葦原醜男"を発動する。
 それでいて、今までに行っていた攻撃も同時にしているものだから、プレイヤーたちは溜まったものでは無い。

「硬ぇなー全然攻撃が効かねぇぜ」「おい、こっちの壁そろそろ持たない」「誰かそっちの壁立てて!」「おい、誰かアイツの攻撃のパターン、見つけられたか?」「ある程度、しかも防御の方だが……」「今すぐに掲示板に挙げろ!」「鑑定の方どうなってるの?」「無理だ、全然分からねぇ! 俺のスキルビルドは解析特化だぞ! 自信無くすわ!!」

 理不尽を理不尽として頭の中で纏めたプレイヤーの大半は、理解不能そういったものだと諦めて次の段階へと進んだ。

 ――そう、偽者の攻略である。
 幸い、自分でできないことを行うことのできる人材は幾らでもいる。
 攻撃に特化したものや防御に特化した者、生産に特化した者解析に特化した者……そういった一分野のスペシャリストが揃ったとしても、究極の器用貧乏の体現者を超えることは難しい。

 全ての技能を平均的に伸ばした本者は、単独で全プレイヤーを殲滅し、エリアボスを屠ることのできる存在だ。
 偽者はそんな本者の力をコピーした上で、運営に改造されてレイドボスへと昇華した。

 ……一部コピーできなかったスキルもあるがそれでも、プレイヤーたちへ試練を行うための力は有している。
 それ即ち、彼らの不条理で不合理な戦いを意味する。
 まだ、一つの固有スキルも発動させていないのだ。

 プレイヤーたちがこう思うのも、不思議では無かった。

『――コイツ、本当に人間かよ……』

 それを本者が訊いていたならば、間違いなく「いや、[不明アンノウン]だぞ」とマジレスを返すことは確定事項だろう。


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