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山田 武

偽善者と『異端魔機』 その04



『"風迅拳""迅雷拳"!』("開牙""隼鹿")


 俺が剣を出しても、彼女は拳を使い続けている。
 その行動が俺を舐めているわけでは無いことを、身を以って学んでいた。

 彼女は激しい風と雷を拳に纏い、これまで以上の速さで撃ちこんでくる。
 凶悪な威力に踏鞴を踏まないように必死に堪え、ティルに習った(獣剣術)の武技を使ってこれを防いでいく。


『……それは染み付いているみたいだね』

「そりゃそうだ。なんせ先生直伝だからな。技はコピーできても技術は無理だろ」

『そうそう、それができるのはお前さんのスキルだけだと思うぞ』


 大抵の武技は模倣してそのままだが、ティルに特に教えられた(獣剣術)だけは別だ。
 何度も何度も使い、駄目な点を極限まで減らしていき、及第点を貰えるまでには修練を行ってきたからな。

 ……でも、俺より俺のスキルのことを理解しているみたいだな。
 一部とはいえ、俺の記憶を観ただけでそんなに分かることなんだろうかな?

 あれ? それだと彼女以上に俺の記憶が観れる眷属って……考えるの、止めとこ。


『余裕があるんだね。私から意識を外すなんてね――"覇砕拳"!』

「うんにゃ、ちょっと眷属のことを考えてただけだ("開牙""鷲蜀")!」


 生憎、割く思考は幾つもあるもんでね。
 自意識は外したとしても、無意識は外していないぞ。

 彼女の強烈な一撃を剣の溝の辺りで防ぐ。
 剣の性能で破壊だけは免れているが、その拳の衝撃がモロに響いてくる。
 腕が痺れるような感覚が一瞬するが、それもすぐに消え、自分の考える通りに腕が動いていく。


(……折角だし、覚醒イベントをやってみたいよな~、主人公じゃないけど。さしあたってこういった時にやることと言えば……)

「"開牙"――"雷狼"!」

『無詠唱は止めたのかい? 雷ろぅっ!?』

「無理無理。それ、普通に使える武技じゃないから」


 アレだ……"竜軍行列"と同じだ。
 適当に武技をでっち上げてみました。

 名付けて――『合成武技』である。


《そのまますぎない?》

「(なら、カッコいい呼び方を決めておいてくれ。……あ、それとみんなと一緒に話していいから、ついでに『合成魔法』の方も頼む)」

《はーい》


 仕組みは簡単、武技に<合成魔法>を発動させるだけ。
 今回の場合は、(獣剣術)に【獸化魔法】と【神羅万象】を組み込んだ。

 その結果、雷を帯びた狼の立体映像が飛び出して、彼女を襲うという素晴らしい演出付きの武技となった。


「似た武技なら適当に創れそうだな~」

『っつ!?』

「――全部模倣してくれよ~(――"風猪""炎獅""水虎""氷豹""光狐""闇狸"…………)」


 ティルの技術と俺のイメージが重なり合ったのか、上手に斬撃を放つことで、より強そうな動物たちが出現していく……先生、丁寧にやらないと駄目なんですか?

 だけど、あるものを工夫するだけだと、主人公にはなれないな~(なる気は無いが)。

 なんかこう、このバトル物的な雰囲気を活かした技をだな……。


「お、新しいスキルも創れそうな気がする。
 ――その名も、(竜剣術)!」


 そう言って振るった斬撃は、獣の代わりに透明な竜が飛んでいく。
 あまり威力を籠めていなかったからすぐに弾かれたが、頭の中でいつものアレが――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(未知適応)・(アレンジ)が発動されました

……成功しました

(竜剣術)を習得しました

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……すいません、冗談だったんです。
 昔、龍を創ったんで言ってみただけなんです、すいません。

 獣ネタはまだまだあるから、そっちは別意識に任せて……(竜剣術)を解析しよう――。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
武術:(竜剣術Lv1)

説明:竜人族が扱うことができる特殊剣術
自身に眠る竜の力を織り交ぜ、剣を振るう
Lvが上昇することで、剣術に補正が入る

〔種族Lvが高い程、威力が向上する〕

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ――イアに今度教えてあげようか。
 (竜人の血脈〔:龍神〕)がある彼女ならば、龍神を模した斬撃でも放てるんじゃないか?
 何処かの他称マゾ神父のように加護を貰ったわけでは無いが、血筋云々から関わりのありそうなスキルの持ち主だ。

 きっと、俺より強力な力を使えるようになるだろうな。


 閑話休題思考を切り替えよう


「そりゃー("開牙"――"火竜""水竜""風竜""土竜""光竜""闇竜"…………"混沌竜")!」

『……いやいや、無理だろう』

「そう言って、結局は防ぐんだろ?」

『……ご明察』


 属性の力を竜の形で具現化して放ったが、彼女の余裕は再び戻っていた。
 先程驚いていたのは、模倣ができなかったから……ただそれだけだ。
 それを理解してしまえば、隙が生まれるはずが無い。

 襲い掛かる竜の群れも気にせず、彼女は静かに瞳を閉じる。
 何やら力が彼女の中で胎動を始め、空間が揺らぎを示していた。


『リミットブレイク……クリア。
 臨模神格……開放。
 (神体)……発動』


 彼女が詠うように何かを言うごとに、だんだんと大気が激しく震えていく。
 明らかにヤバそうなセリフばかりだった。
 ――(神体)?
 どうして権能スキルを持っている奴がこんなところに。


『――"神拳・風神雷神"』


 その言葉を言った彼女は、まさに神速で動いていた。
 疾きこと風の如く、動くこと雷霆の如し――【風林火山】の二節を体現したような動きだ(まあ、雷霆の部分はちょっと意味が違うけどな)。

 神氣を帯びながら、彼女は周囲を駆ける。

 何かがバチッと鳴ると、一匹一匹と竜が消えていく。
 何かがシュンッと響くと、一匹一匹と竜が消されていく。

 ……(神眼)に組み込まれた神眼の数々を使うことでギリギリ視れるその動きは、韋駄天とも鳴神とも言えるようなものだった。
 ただ、触れられただけでお仕舞い――まさに、一撃必殺の技である。


『……アンタのその力が、私にこれを使わせた……バトル物っぽいだろう?
 もっともっと魅せてくれ! 私にもできない! 誰にも真似できない! アンタだけの力ってヤツを!!』


 うん、≪Q.……≫なんて使っていた奴のセリフじゃないよな。
 完全に戦闘狂じゃん。

 しかも、認識に齟齬があるみたいだし。


「俺は別に、アンタに勝てるだけの力なんて持って無いさ。だってそうだろう? 今までだって借り物の力ばかりだ。俺は自分だけで何かを成そうとしても、実際には必ず誰かの力を借り続けてきていた。
 ……ま、今は関係無いんだがな」

『……何が言いたい?』

「いいや。ただ、少し思っただけだよ。どんなに一人でやっていこうにも、周りはそれを許してくれないってな」

(――"全能強化・不明""異端種化・聖骸2:不死鳥1:【聖獣王1】")

『(異端種化)……だな』

「どれだけ言われても変わらない。何度言われても聞きやしない。相手がどれだけの気持ちを持っていたとしても、どれだけ心に刻まれようと……【矛盾】した思いを、馬鹿は全て押し込んだ」

(――"限界突破""他力本願・憧憬投影")

『……おいおい、冗談だろう……』

「『馬鹿に付ける薬は無い』……いつまでも馬鹿は馬鹿であり続ける、そこは変わらないと思う。だけど、馬鹿だって……少しは学習する。ここでやらなきゃ、主として廃っちまうってことぐらいな!」

("神眼""神手"……開放
 "神体""神血""神脚"……限定解放)


 持てるだけの力――そして身に余る力を解放して、彼女に相対する。
 ……ハァ、折角スキルを使いこなすって決めたばかりなのに。


「……俺の要求すること、それはもう分かっているよな?」

『私が満足できたなら……な』

「オーケーオーケー。決着なんて一瞬で済んじまうよ。なんせ、借り物を初めて全力で使わせてもらうんだ……当然だろ?」

『そうかい……そりゃあ楽しみだ』


 さて、気分は最終回。
 俺達は同時に全力の技をぶつける――。


『"關神断拳"!』「"神聖鳥獣斬"!」



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