AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と聖霊無双 前篇
彷徨の森林
再び強者に会うために行動した俺は、島の西に位置する霧の森にやって来ていた。
相も変わらず全てを惑わす霧が宙に散布されているが、それすらも無効化してのんびりと歩を進める。
「(ユラル~、精霊って何なんだろう)」
《……凄い今更だね、メルスン。夢現空間にも精霊はいっぱい居るじゃん。というかそれなら、メルスンはどうやって精霊に関する魔法を使ってるの? 精霊が分からないと使えないはずだけど……》
「(ほら、精霊が出てくる話がいっぱいあったからさ。一々気にしなくても、ある程度は発動できてたし)」
《なら、説明しようか? ……一応本にしておいたんだけど》
「(すまんな。魔術や神代魔法、古代魔法に関する資料は結構読み漁ったんだが……俺自身が精霊魔法を使う機会が中々ないからな。気付かなかった)」
(精霊魔法)を発動させて魔力を体外に放出するだけで、精霊は寄って来たからな。
細かいことを一々気にしなくても、必要最低限のことは使えたしさ……。
俺、別に源泉を支配しているわけじゃあ無いんだけどな~。
《……ハァ。私って、一応メルスンの契約聖霊でもあるんだよね? 全然使ってくれないし……。メルスンが私たちを使ってくれない理由は分かるけど……でもね、少なくとも聖霊は、契約者が魔力を消費してくれれば死なないで戦えるよ。メルスンが考える以上に、私たちだってメルスンを大切にしている。だから、一回で良いからチャンスを頂戴よ。メルスンの望む以上の結果を……出してみせるから》
やる気満々、覚悟充実、ユラルのそんな気負いに少しばかりビックリ……そして納得。
なんか話がまたシリアスに……だけど、そろそろ決断すべきなのかな?
「(ほぉ………………良いぞ)」
《やっぱり駄目だよ……え、良いの!?》
「(ああ、その代わりの条件として、ダメージ全部を俺が引き受けるがな。どうせ俺は……あの状態になれるし、いつまでも空間に押し込めていたら、それは監禁と同じだしな。
ユラル、お前独りで本当にできるのか? 死なないなら良いってわけじゃ無いんだし、ユラルが私Tueee! ぐらいできないと駄目だからな)」
封じ込めるだけのハーレムなんて、誰でもできる。
主人公たちに倒される悪役だって檻の中に女たちを収容すれば、その程度のことならばできるだろう。
……も、もちろん、俺が求めるハーレムはそんなものじゃないよな。
もっと、ヒロインたちが自由に動いた方が良いのかもしれない。
……あれだな、偶には{他力本願}になれってわけだ。
《――やる、それでもやる! メルスンが戦わなくてもいいように!》
「(……それってニートだからな。嫌だよ、眷属に養ってもらって【怠惰】に生きていくだけの人生は。戦わなかったら、俺に残るのは内職と国政ぐらいじゃないか!)」
《普通はそれで充分だよね》
いやいや、内職も国政も、偽善者には似合わないんだよ。
まあ、できることもあるけどさ。
だけどリスクが半端無いんだよ!
「(……ま、とりあえず呼ぶか。どうやったら召喚できるんだっけか?)」
《魔力を消費しながら、私を召喚するイメージをすればいいよ》
「えっとー……"ユラル、来い"」
すると、体からごっそり魔力を奪われる感覚と共に、目の前にユラルが現れる。
『どう? ちゃんと召喚されたよ……って、どうしたの?』
「……ユラル、今の召喚にどれだけの魔力が消費されたと思うか?」
『えっと~……300ぐらい?』
「100万だよ100万! どんだけ消費してるんだよ、この大喰らいが!」
どんだけ持ってくんだよ。
こっちに来る前の俺だったら、同じことを100回ぐらいやらなきゃ召喚できなかったじゃないか!
もう少しツッコもうと思ったんだが……突然、そのことについて考えていたであろうユラルが、ガバッと起き上がってこう言う。
『――あ、そうだ分かった! それは恐らくメルスンの所為だ!』
「おい、何でもかんでも、人の所為にするんじゃありません!」
『さすがに300は無いけど、普通の聖霊召喚にそこまでの魔力は消費しないよ……聖霊の能力値やスキルを加味して、召喚に必要な魔力は決まるんだから』
「……つまりなんだ、俺が強化したからそうなった……そう言いたいんだな?」
『えへへ……っていひゃい! いひゃいひゃらひゃめれ!!』
とりあえず、口を引っ張ってやった。
左右にビニョーンと頬が伸びるのだが……クソッ! 可愛過ぎだろ!!
『というかメルスン、まだ私、(実体化)を発動させてなかったよ。一体どうやって触ってたのさ!』
「(神手)を使えば万物に触れられる。それは当然、精神体でも星辰体でも同じだ」
『もっと、ロマンチックに言ってみてよ』
「……自分の女を触れないわけが……って急に何を言わせるんだよ」
『えへへ~、いひゃいよ~♪』
コイツ、全然反省していやがらねぇ。
少し赤くなったユラルの頬から手を放し、話を元に戻す。
「……ああもういい。ユラル、まずこの場にいる魔物全部を倒してくれ。第一試験だ」
『へへへ……あ、それならあと一匹だよ』
「……ん?」
『周りの木を操って、後はエリアボスだけって状態だよ』
「そ、そうか。仕事が早いな」
『もちろん、"解体アプリ"で捌いて仕舞ってるし、アフターケアもバッチリだよ』
……俺とのやり取りの最中も、ずっと魔物狩りをしてたのか? 全然気付かなかった。
【七感知覚】を常時発動させていたらさすがに気付いていたと思うが、今は発動させてなかったからな。
「凄い凄い、さすがユラルだな。というか、聖霊が凄いのか?」
『聖霊は、自然を司る精霊達の上位存在なんだよ。その中でも私は樹木を操るのに特化した聖霊……ここは私のフィールドってわけ』
「そりゃあ凄い。精霊が自然現象に関連した存在ってのは理解していたが、ここまでできるものなんだな」
つまりなんだ、聖霊をその属性に適した場所で殺し切るのは難しいってことだな。
辺り一帯が聖霊の味方であり自分の敵、物凄く苦戦しそうだ。
『メルスンの力が無かったら、もうちょっと時間が掛かったと思うけど……それでも一人で倒せたかな? だからこそ、私はここに飛ばされたんだけど』
「お前がそれをどう思っているのか……それは分からないけどな、今お前と一緒にいられること、それは俺にとって……結構、嬉しいことなんだぞ。だから、そんなに悲しい眼をしないでくれよ。思い出したくないことは、今は思い出さなくていい。必要になった時だけ、思い出せばいいんだ」
『……もう少しデリカシーのある言葉を言えないの? メルスンは』
「そりゃあ無理だな。デリカシーと縁のない人生を歩んできたんだ。スキルとして身についてないな」
そんな話をしていると、次第にユラルも元の表情に戻ってくれた……良かった。
「ユラル、それじゃあエリアボスも頼むぞ」
『え、倒していいの?』
「構わないさ、どんどん倒しちまえ!」
そんなノリに任せて、俺たちは森の奥へと向かっていった。
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