AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『最弱最強』 その13



夢現空間 居間


「クソー、もう一回だ! 今度こそ勝ってやるぞ!」

『ふふん、メルスの実力で勝てるアリィだと思わないことね』

「クーさえいれば……俺だって……」

『いや、メルス自身の力で勝ってよ。――そのための手伝いなんだから』


 現在、俺はアリィと『戦争』で勝負をしていた……が、あっさり敗北した。
 やっぱりクー無しの俺は、トランプも駄目みたいだな。

 うん、あれから数日が経過している。
 その間に眷属との対面や、俺の記憶の閲覧は済ませており、俺の無能っぷりもアリィの知るところだ。
 なので、俺の中でも無能性のかなり高い技能――演戯を磨くためにアリィとカードゲームで修業しているのであった。


「……アリィって、ポーカーフェイスの才能無いって感じの顔してるのに、意外と得意だよな。ずっとそういうテンションだと見せかけて、裏では冷徹に物事を考えてるし……」

『……ハァ。一度言ったわよね、あの娘アリィとアリスは別。アリスの方が消費エネルギーが多いから基本はあの娘だけど、万全の状態ならどっちにもなれるしお互いにサポートすることができるの』

「ティルにバレてから、全然隠さなくなったな。クーも気付いてたらしいけど、俺には教えてくれなかったし……今更だが、なんでデレた?」


 俺は知らなかったのだが、アリィは二重人格者だったようだ。
 ティルによって暴かれたその人格――アリスは、アリィと違って冷静沈着なクール系のキャラだった(それでも一人称が自分の名前なところは、アリィから継いでいるみたいだ)。
 こういうタイプって、作中でも中々デレないと思うんだが……。


『……そんなもん分からないわよ。あの娘が極限の空腹状態な時に、美味しいお菓子をくれたからじゃないの? あの娘、一度人を信じるとかなり思い込むのよ。あの頃はサポートができる状態じゃ無かったのに、そのタイミングであんなもの・・・・・流し込まれたら……』

「あんなもの? ……というか、そっちデレも誤魔化せてたのか。全然気付かなかった。やっぱり、(明鏡止水)って凄いスキルなんだな」

『やり過ぎると感情が分からなく……メルスなら大丈夫かしら。多分{感情}の中にそのスキルも入っていると思うし、だからメルスの本心が分からなくなってるんでしょ?』

「……らしいな。本当に、俺はこんな女の娘と話せるような選ばれたリア充じゃ無かったと思うんだけどな」

『あの娘もアリスも、○○な感じのメルスが良い、とかそういうのは無いから安心しなさい。どんなメルスであろうと、メルスだという確固たる意志さえあれば、気にしないわ』


 ……心が広過ぎるぜ、アリスさん。
 本当に、あの(会った)頃のアリィは何処へ逝ったんだろうか。


『別に、それも立派なアリィでありアリスの一部……全然立派じゃないわよ。だからこそアリィはメルスに、メルスたちに負けたんだから』

「うん、俺じゃ無くてクーだしな。俺だけの場合は今負けてるし。最初の8切りで死んでたしな」

『全く、能力値が5万超えなのに0にもできるなんて意味不明な存在、今まででメルスが初めてよ。アリスが目覚めた時、あの娘が慌てて報告してきたわよ』

「実際は0だけど……眷属って、本当に偉大だよな。貧弱で脆弱な俺を補助してくれてるし、こっち異世界の女の娘って、あっち地球の女と違って良い娘ばっかりだよ」

『……まあ、そこまで言われて嬉しくない娘は、いないとは思うけどね』

「そうなのか? 俺はただ、事実を言っただけだが」


 モブに優しい彼女たち……地球に居たら女神として恐らく絶対崇められていただろう。
 ……渡す気は更々無いけど。
 ハーレムメンバーは俺の家族だ。


『(うーん、まだ自覚が足りないかな?)……そうね、とにかく今は演技の練習をしましょうか』

「そうだな。今度こそ勝ってやる!」

『……目的を忘れないでね』


◆   □   ◆   □   ◆

「アリスはさ、冷徹な思考と普段の思考。どうやって切り替えてるんだ?」

『スキルでやってるだけだから、あんまり意識はしてないわね。昔色々とあった時に、『冷静にならないと……』って思った時があって……その際に(集中)を習得してたわ。あの娘もやればできるんだけど……』

「それで、使ってたら今のスキルになったと……端折り過ぎじゃないか?」

『言いたくなったら言うし、ちゃんと伝記として置いておくわよ。要するに、ちょっと調子に乗った少女がはっちゃけるだけの話だけどね』

「……はっちゃけると会ったばかりの奴に弱体化のスキルを使って、即死の攻撃をぶつけるようになるのか……勉強になります」

『……酷い言い方』

「ハハハ、眷属になったんだから、俺の不遜な発言もスルーしてくれよ」

『不遜……かしら? 別に教会の人たちと比べれば、むしろ優し過ぎっていうぐらいには今のメルスって優しいわよ』

「き、教会なんだよな。そんなんでいいのかよ。やってけるのか?」

『信仰なんてものを建前に、哀れな下々の者から金を巻き上げる詐欺グループは、スキルが無くてもメルス以上にポーカーフェイスに長けているの。少なくともアリィが住んでいた所には、心から善人な人なんて一人もいなかったし』

「教会か……俺は神殿には行ったことあるけど、そっちには行ったこと無いな。違いってなんだっけか?」

『神を奉るのが神殿、神の教えを広めるのが教会。……そんなことも知らないって、メルスの方にも両方あったんでしょ?』

「日本人には縁遠い場所なんだよ。日本人は神への信仰心が極めて低いから、神を崇める奴なんて殆ど居ない。居たとしても、俺の近くにはいなかったな」

『神って存在が身近に感じられないと、そういう弊害もあるのかしら』

「俺もこっちなら神様だしな。全然偉大さを感じられないよ」

『……はい、これでメルスの負け♪』

「ノーゥ!」

◆   □   ◆   □   ◆


 この日、(演戯)のLvはグングン伸びたが、一度としてアリに勝つことは無かった。



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