AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『勇魔王者』 その03



『そ、それで、ゴーレムに殴られた後、結局どうなったの?!』

「はいはい、ちゃんと話しますから――殴られた時、私はある仕掛けをしました……相手の力の供給源となる場所を手繰って、私が受けたダメージをそのままぶつける――そんな仕掛けをね」

『へぇ、凄い!』

「そして、私は神に封印された学者さんの解放に成功したというワケです」


 ここに来るまでの経緯を語り終ったので、俺は一息吐いて彼女の方を見る。

 最初は半信半疑だったのか全然反応してくれなかったのだが、話が島に来たからの部分になると、相槌を打ってくれるぐらいには聴いてくれていた。
 そして、最後ら辺はああいった反応をしてくれるくらいには、楽しんでくれたようだ。


「――ここまでが今までの経緯ですけど……お嬢さん、満足頂けましたか?」

『うん! ……じゃなくて、まだ。確かに貴方が今までにやって来たことは分かった。だけど、私はここから出たくない。出たとしても扱いは変わらないでしょうし』

「扱い……ですか」


 一瞬だけ微笑んだその顔は年相応の可憐さがあったのだが、すぐにその笑顔を曇り、悲しみに憂う表情へと変化してしまう。
 扱い、という単語が表す言葉は決まっているだろう。
 状況証拠からしてそれは――


『私は半魔だから、どこに行っても異端だと言われて追い出された。貴方は、確かに色々な種族になれるみたいだけど、それでも純粋な状態にもなれる。だけど、私は半分ずつの状態だから……貴方みたいに生きていけないから……』


 どこかの半森人ハーフエルフのような扱いを受けたみたいだな。
 ……よくよく記憶を思い返してみても、俺がハーフに会うことは殆ど無かった。
 なるほど、そういうこともこっちの世の中では起き得るのか。


「少なくとも……私が今まで見てきた国ではそんなこと無かったと思うのですが……。時代が変わったのか、あるいは大陸が異なるのでしょうね。先程も説明しましたが、この世界には幾つかの大陸が存在しています。今、お嬢さんの居た大陸がハーフにどういった扱いを行うかは分かりません。ですが、少なくとも一国だけ、絶対に差別を行わない国を私は知っています」

『……そんな国、あるワケ無いじゃない。もしそんな国があるなら、今までの私の受けてきた仕打ちは、一体なんだったというの!』

 バチバチッ!!

 彼女が声を荒げると、彼女を中心に魔力が炸裂して落雷のような音を起こす。
 ……まぁ、眷属の張った結界に防がれているんだけどな。


《ごしゅじんさま、大丈夫?》
《援軍を呼びますか?》

「(大丈夫だろう。魔力だけなら吸い取れば良いし、グラとセイがいれば百人……いや、千人力だ)」


 聖・魔武具は、本来選ばれた者のみが扱う代物だ。
 例え一般ピーポーが使ったとしても、ある一定水準の力なら発揮可能なのだ。


「……お嬢さん、何が貴女の癪に障ったかは分かりませんが、とりあえず落ち着いてください。今この場には、お嬢さんをどうこうしようという人はいません」

『……本、当?』

「えぇ、本当でs『そんなことを言って、貴方達は私を裏切ったじゃ無い! そう言って私を誘い出した場所には、兵士や勇者がいたじゃないの!』……あちゃあ」


 どうやらトラウマと結び付いたようだな。
 今の彼女は、かつて見たバッドエンドを脳内で再上演リバイバルしているらしく、俺を敵対者として認識している。
 そのため、魔力を解き放って戦闘モードってワケだ(あまりに俺がウザ過ぎてそうなったワケでは無い……多分、きっと)。


『……そうはさせない。私は、私は何も悪くないんだから。私は、ただ平穏に生きていきたいだけなのに、どうしてみんな邪魔をするの? どうして人族も魔物も分かり合えないのに、私を追い出すことは分かり合っているの? おかしいでしょ!!』


 そう言って立ち上がった彼女からは、抑えきれない感情が漏れ出し、魔力の量も比例的に増大していく。
 それと同時に、片側から生えた角もチカチカと白い光を放ち、彼女の荒立ちを表現していた。


「やれやれ、そこの大陸の者たちにどういった考えがあってそのような行動に至ったかは理解しかねますが、彼らにも彼らなりの事情というものがあるんでしょうね。私がそこで育っていたならば違っていたかもしれませんが、少なくとも今の私は考え方が違いますし関係無いですよね。しっかし、わざわざお嬢さんだけにそういった扱いをしていたかどうかは別として、勇者まで参加するとは……お嬢さん、本当に強いみたいですね。そこまでの力が放てる強者なら、納得ものなんですけど……っと、それはともかくでしたね。お嬢さん、いったん冷静になりましょうね」


 握りしめていたグラを彼女に向け、弾丸を放っていく。

(――"魔喰弾生成")

 ドドドドン、と魔力を喰らう弾丸を放ち、彼女を包むように増大していく魔力を減らしていこうとするのだが――白光は聖なる力を帯びているのか、魔の力の効果を減衰させ、喰らえるのは極僅かだ。
 しかも減った分は光が全て補っているように見えるため、実際には殆ど奪えていない。

(……やはり、これを使うしかないか)

 本当なら、使いたくなかったんだ。
 後で絶対に何か言われると思ったから。
 しかし、魔力を奪えないならば仕方無い。
 使うしかない……人によっては最恐で最悪の弾を。

(――"餓鬼弾生成")

 ドドドッ キュ、キュキュ、キュキュキュ

 再び鳴り響く銃声が、彼女のお腹の音を鳴らしていく。
 餓鬼弾は満腹度を喰らい、【暴食】へと導く弾丸だ。
 少しでも影響があるならば、それは相手に空腹感を与えていく。

 少しずつ空腹へ――飢餓状態へと近づいていく。
 体中の必要な成分が減っていき、眩暈や吐き気、幻覚を感じたり体が虚弱になっていったりするのだ。

 今回はそこまではいかないが、かなりお腹が空いたと思うぞ(強者はある程度空腹に強いからか、今まで会って来た強者の中に、空腹状態だった場合を見たことが無い。どうしてだろうか)。

 キュゥゥウウゥ

『……うぅ、お、お腹が、空いたぁ。……ってあれ? 私はどうして立ってるの? しかも、体がフラフラだし……』


 空腹からか正気を取り戻した彼女は、今の自分の状態を不思議に感じているようだ。
 俺はそんな彼女に近付いて、"収納空間"から取り出したある物を差し出す。


「正気に戻ったようですし、一緒に食事でもしましょう」

 キュウゥゥゥゥ!

『ぁぅ……』

「決まりですね」


 その音が、彼女の返答を表してくれた。



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