AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしのダンジョンイベント その01



始まりの草原


 ある晴れた日、プレイヤー達はその時が来る瞬間を今か今かと鶴首していた。

「う~ん……。確かこの辺で待ち合わせだと思ったんだけどな~」

 少女――ユウもまたそうした一人であり、現在は小高い丘陵の上で、待ち合わせをしたメンバーを捜索していた。
 肩に掛かる程度の髪に、同色で光る瞳。
 彼女のその鮮やかな黒色は、色取り取りなプレイヤーの中でも一際目立っていた。

「あれ~? 時間を間違えたかな~?」

「――合ってるわよ、ユウ」

「あっ! アルカ!」

 自身が約束の待ち合わせ時刻を間違えたかと考えていると、ユウの元にメンバーの一人であり、同じギルド"ユニーク"の一人でもあるアルカがやって来る。

 金髪ツインテールに天色の勝ち気そうな瞳という、いかにも男心を擽りそうなその容貌は、全プレイヤーの中でもかなり上位のものであった。

「イアちゃんとシャインさん。それにティンスさんとオブリちゃんは?」

「少し遅れるって。みんな有名人だからね」

 アルカは残りのメンバーの状況をユウに言うと、自身の装備の確認に入った。

「四人共、トッププレイヤーだしね。『召竜姫』に『黒勇者』、それに『吸血姫』と『妖聖王女』……強そうな二つ名だよね」

「ま、最初の二人の実際のところなんて……呼ばれる側の『召竜姫』とお腹の中が真っ『黒勇者』なんだけどね」

「ハハハ……」

 アルカの本音垂れ流しの言葉に、ユウは乾いた笑い声しか出すことができない。



「――そんなことを言ったら、貴女達はどう呼べば良いのかしら? ねぇ、『極光の断罪者』に『無限砲台』さん?」

「――誰が真っ黒勇者だ。それに、俺の職業は黒じゃなくて闇だ」

「リアちゃん、シャインさん」

 そのの言葉を聞いていたのか、外套を被った二人の少女が彼女達にそうツッコむ。

 リアと呼ばれた少女は、皮膚に蒼海色の鱗が付いた竜人族のプレイヤーだ。
 その鱗と同色の髪と瞳を持つその顔は、かつて数多の男を魅了してきた魅惑のものだ。

 シャインと呼ばれたその少女(?)は、自身の職業と同じように闇色の髪と瞳を持つ。
 外套から少し見える中性的な顔立ちは、男女共に顔を赤くすること間違い無しである。

「太陽のように眩しい微笑みを持ちながら、PKプレイヤーを容赦なく断罪していったユウちゃんと、自身は一歩も動かず、万を超える魔法をエリアボスに放ったアルカちゃん。久しぶりね」

「……なんで、一々説明するのよ」

「良いじゃない、別に」

「ティンスとオブリはまだのようだな」

「そうみたいですね」

 四人は残るメンバーを待つ間、話を続けていた。

「そういえば、今回は誰が来るか分かってるの? 私達としか書いて無かったけど」

「そうね……。ユウ、何か知らない?」

「ん? 誰が何人来ても最強なんだし、知らなくて良いかと思って……」

「ご主人様の真の眷属の方々だからな」

 眷属――その言葉を聞くと、周りの三人に変化が現れる――

 一人は口を緩ませて笑い出し
 一人は目を釣り上げて怒り出し
 一人は頬を染めて恥ずかしがる

 ――三人の反応は全く異なるものであったが、その反応を向ける相手は同じであった。

「……フッ」

 そんな彼女たちの反応を見て、シャインは軽く、微笑を浮かべていた。
 自身も似たような反応をする筈なのに。

「まぁこれから結成するパーティーに、眷属じゃない人なんていないわよね……って、あらゴメンなさい、一人だけ居たのよね。TSシャイン君が」

「っつ! こ、この野郎」

「あら、私は野郎じゃないわよ。……野郎なのは、そっちの方でしょ」

「……よーし、分かった。PvPがしたいなら、最初からそう言ってくれ」

「えぇ、望むところよ」


「――って、何をやってるのさ!!」

 二人はユウが止めるまで、売り言葉に買い言葉の喧嘩を続けていた。

 昔、撲滅イベントが始まる前に色々とあった彼女らは、犬猿の仲と言って良い程に相性が悪かった。
 それは今も続いており、顔を合わせるだけですぐに喧嘩が勃発してしまうのである。
 ユウの説得でだいぶ沈静化を始めた口喧嘩は、新たにやって来た者たちによって完全に終止符を打つ。



「――も~、ケンカは駄目!」

「貴方たちっていつも喧嘩しているわよね」


「あ、オブリちゃんとティンスさん」

 後からやって来た二人もまた、外套を被った少女たちであった。

 オブリと呼ばれた少女は金髪茶眼の、正に幼精ともいえる可愛らしさを持った妖精族のプレイヤーだ。

 ティンスと呼ばれた少女は闇のような黒とは違う、夜のような薄暗い黒色の髪と、血のような紅い目――それに口元から見える犬歯が特徴的な大人びた吸血鬼のプレイヤーだ。

「これで、プレイヤー側は全員揃ったわね」

「そういえば、"ユニーク"のメンバーの人たちはどうなったの?」

 突然、ティンスが……言う。
 "ユニーク"とは先程も説明したように、ユウとアルカが所属するギルドだ……が――。

「ナックルさんたちには、僕たちを除くメンバーで今回は参加してもらうことになりました。師匠からの指示だと言ったら、すぐに納得されたので簡単でした」

 ユウは、そうティンスに説明する。
 ――そう、実際にそのギルドを支配しているのは、ギルドの平メンバーであり、彼女たちの仮の主でもある現プレイヤー最強と呼ばれる存在であった。

「プレイヤー側が集まったのは良いとして、レンさんたちはいつ合流するんだ?」

「えっと~、それはね――」

 シャインの質問にオブリが答えようとしたとき、それは訪れた。



 ピンポンパンポーン
≪さぁ、御集まりの皆様方、大変お待たせしましたわ。
 只今よりダンジョンイベント――その概要の説明を始めさせていただきますわ≫

 ……そう、聞こえたのだ。


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