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山田 武

偽善者と『禁忌学者』 その01



結界内


「こりゃ凄いな、夢現空間以上じゃないか」


 目の前には、大量の本が置かれていた。
 右を見れば本、左を見れば本、何処どこ彼処かしこも棚に入った本でいっぱいだ。


『……~』


 上を仰いでみると、本棚そのものが浮かんていた。
 本当に家の図書館よりランクが高いな。
 夢現空間の図書館は大図書館と言っても過言ではないぐらいには増えてきたが、ここの図書館を表す言葉は――そう、正に無限図書館だっ!!


『……の~!』


 しっかし、本当に量が多いな~。
 (望遠眼)でここから視てみると……まぁ、凄そうなタイトルの本が置いてあるわ置いてあるわ。


『あの~、聞いてください!!』

「ん? はて、何処かから声が?」


 何処からか、ソプラノボイスが聞こえてきた。この声……ロリか!
 そう思い下を見ると――


『やっと聞いてくれましたね……私が何回も声を掛けていたのに、全然聞いてくれないから、てっきり私に気付いていないのかと思いました』


 ……すいません、気付いてませんでした。

 俺の顔下には、白衣を着た少女がいた。
 ぼさぼさに伸びた灰色の髪を引き摺り、碧と蒼の目をパチパチさせながらこちらを見ていたよ。

『あっ! ごめんなさい、名前も言わないでずっと話し続けるなんてマナー違反ですね。
 私はリュシル、この図書館の管理人で、神に怒られちゃった神犯者です』


 ……えっと~、どう反応すれば。
 というか、何をしたら怒られるんだよ。俺みたいなもんか?


「私はメルス、貴方と同じように神に飛ばされてここに来た、ただの一般人です」

『えっと……普通の人は飛ばされないでしょうし、普通の人ではここに来ることは不可能ですよ? あとその話し方、素でないなら楽にしても良いですよ』

「なら、普通に話すか……そうなのか?」


 強者には逆らわない、それが一番だな(腹が立つ奴は除く)。


『はい。私がここの結界に細工して、超越者以外は入れないようにしてあります。ですからここに来れるのは、超越者だけなんです』

「……それって、称号として持っている奴を選んでいるのか? それとも、Lvが種族の限界を超えている奴なのか?」

『普通は限界を超えたから超越者になると思うのですが……良い考えですね。正解は前者の方です。私が張ったのは、称号識別型の結界ですよ』

「なら変えた方が良いかもな。俺は先に超越者の称号を手に入れたから、俺と似たようなパターンが増えるかもしれない」

『どういうことですか?!』


 俺の方にズイッと顔を近付けようとしているのか、背伸びをしている……和むわ~。


「あ、あぁ。少し長くなるが良いか?」

『どうぞ、全部教えて下さい!』


 (空間収納)で椅子を二つ取り出し、彼女に勧めてから、俺は話を始める。


説明中
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『なるほど……プレイヤーですか。自分達で用意した駒が思い通りにならないと捨てる。あの方は変わっていませんね』

「面識があるのか? 神に」

『はい……とはいえ、念話越しですけどね。私が念話で声を聞いたことがあるのは、シーバラスという神です。そして私の予想が正しければ、貴方と言う運営という存在に、必ずその神は関わっていますよ』

「……どういうことだ?」

『当時のその神――彼と言うことにしておきましょう。
 彼は真実と義侠とやらを司っていました。
 強きを挫き弱きを助ける。そんな義侠の意味を、彼は履き違えていました。彼は自分よりの上位の神による世界の統制そのものを、強き者による横暴だと考えていましたね。
 私の研究――神格についての研究――を何処からか知った彼は、私にその情報を提供するように伝えてきました。私がどうしてその情報を求めるかを訊くと、彼は自分の考えを私に教えます。
 それは、矛盾だらけの理論でした。自分より上位の神を討ち、その権能を奪い取る。同志達とその権能を分配し、新たな創造神として世界を管理して弱き者を救う……完全な簒奪者の言葉でした。
 ですが、彼への信仰心はかなりのものだと彼自身で自慢していましたので、何か考えがあったのでしょう……私はその後彼によってここに飛ばされたので、情報を知るすべが無かったのですが、貴方達プレイヤーをこちらに呼べる可能性を考えると……彼の計画が成功して場合しか当てはまらないのです』

「ん? ちょっと待て、どうしてプレイヤーとシーバラスに関連があるんだ?」


 正直俺には、説明が長すぎて直ぐには理解できない。
 現在反省中の眷属達に、後で聞いた情報を見せて意見を聴かせてもらおう。

 今の俺に分かったのは、シーバラスとやらが、下剋上で創造神の座を手に入れようとしていた。
 もし成功していたなら、VRMMOとしてこの世界と地球が繋がったのは、この神が原因だと分かるってことだけだ。
 ……そして、その質問が浮かんだ。


『私のスキルの一つに【思慮分別】というものがあります。このスキルには私が集めた情報を束ね、真実を見つけ出すことのできるスキルです。
 私がそれを使って彼の情報を集めた結果、ある考えを推測しました。
 彼がこの世界ではない何処からか別の生命体を呼び出し、自分達の為に動く駒として支配しようとする考えを。
 自分達を頼らざる負えない状況を仕込み、信仰を強制させ、自分達の神格を高める。それが彼の計画だと推測してたのですが……少し違っていたようですね。
 彼はプレイヤーを呼び出す前から創造神を超えていた。簒奪した力を使い、私が推測した行動を実行した……まだ神格を高める必要がある? それなら一体何をしようとしているの……(ブツブツ)』


 あ、<千思万考>に書かれてた人って、彼女だったのかよ!
 過去に……って記述は、過去に神の怒りに触れたってことか。

 俺がそんな的外れな考えをしている間も、彼女は自身の考えを改める為、ブツブツと自己問答を繰り返していた。



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