AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『魔獣之王』 その03




「――ということになると思いますが……本当に平気ですか?」

『あぁ、それで構わない。……しかし、作戦がその通りであるなら、己よりお前の方が危険ではないか』


 鎖にいるであろう人に会う為のプランについて魔獣さんと話し合っていると最後に、そう言って俺を心配してくれた。


「優しいんですね、貴方は」

『なっ!? そ、そういうつもりで言ったのでは無い! 己はただ、客観的に己らが負うリスクの高さを鑑みただけだ!』

「……」

『な、なんだその目は』

「……いえ、別に」


 やっぱり、魔獣さんは――にしたいな。
 ……しかし魔獣さん、ツンデレかよ。アルカに会わせたら、どんな反応をするのかな?


『……今更だがその口調、素でないなら止めてくれ。己の記憶に残る人共も、そんな話し方をしておってな』

「……おっと、なら止めておくか。すまないな、全然気付いてやれなくて」


 誰だよ、俺の前に偽善者プレイした奴は。魔獣さんが嫌がっちゃったじゃないか。
 まぁ、俺がこの口調を使うのは初めて話す人に不快感を覚えさせないように、と思っていただけだしな。本人(?)が良いなら別に良しとするか。


 俺と魔獣さんの話し合いは、もう少し続くのであった。


10分後
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「――よし、じゃあ始めるか!」

『う、うむ、頼んだぞ』

「任せとけって!」


 プランもしっかり決まったので、早速始めることにした。魔獣さんに近寄っていき、スキルを発動する。


「(――"滅魔結界")……大丈夫か?」

『うぐっ、問題無い。少し体が重くなったぐらいだ』


 これから行う作業には、これを使っておかないと危険なので、発動をしておく。
 そして、俺は鎖に手を伸ばし――


「――行くぞ、"奪装掌"(+"神氣")」

『……ぅ、ウガァアアアアアアアアアア!!』


 【強欲】の能力である"奪装掌"は、相手の装備品を奪い取るスキルだ。例え相手が神器であっても、(神氣)をギリギリまで練り込んで発動させれば、理論上は可能である。
 そしてその賭けは見事成功し、俺の手には少し小さくなって束ねられた鎖があった。
 だが鎖が外れたことにより、魔獣さんは突然苦しみだし、さっき張った結界の中を暴れ回っている。これはある程度予測していた。
 魔獣さんがマッドなサイエンティストに洗脳されて暴れ回っていたとして、どうしてこの――俺と普通に話せる状態になったのだろうか。それを考えた結果、鎖に洗脳を抑える効果があるのでは? という考えに至った。


『GRRRRRRRRR』スーッ


 暴走した魔獣さんは唸り声を上げてから、大きく息を吸って――


『GUGYAAAAAAAAAAAAAA!!』


 鼓膜が破けるんじゃにか、というぐらいの咆哮を上げた。今の咆哮には魔力か氣力が籠められていたらしく、結界は咆哮を受けてから一秒も経たずに砕け散った。
 だが、そう簡単に自由にさせるわけにはいかない。


「"縛れ、グレイプニル"!」

『GURU?』


 とりあえず、息を吐き終えた一瞬を狙って縛ることに成功したが、恐らく長くは続かないだろう。
 それでも、今の内に更なる作戦の遂行を続行する。

("カオスチェイン")("ドレインチェイン")
("カースチェイン")("ポイズンチェイン")
("メタルチェイン")("ブラッドチェイン")

 魔法による拘束を何重にも掛けてから――

(――"精神侵入")

 ――リアの時にも大活躍であった、相手の夢や深層心理に潜り込む魔法を発動させて魔獣さんの精神なかに侵入する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


精神世界


 魔獣さんの精神に入ると、魔獣さんは直ぐに見つかった。魔獣さんは最初に会った時と同じように、地面に横たわって眠っている格好だった。
 少し違う所として、魔獣さんには首輪が付いており、そこについている黒い鎖が別の所に伸びているという点がある。


「魔獣さん、さっきぶり。調子はどうだ?」

『……最悪だ。自分の体が自分の物で無いみたいだ』

「はははっ、予想はしていたんだけどな……そいつが原因か」

『……恐らくな』


 俺が指さす方向には、黒い靄が魔獣さんの鎖の先を呑み込んだ状態で存在していた。靄が表すのは、魔獣さんにとってのトラウマ・悪夢・心的苦痛などだろう。覚えていないと言っていた過去の経験が、あの靄の中には濃縮されていると考えられる。


『あれを見ていると、己が人共に捕まっていた頃の何かが浮かんでくるんだ。それは恐怖や絶望といった感情だけを考えさせる為に、ありとあらゆることをされた地獄の記憶だ』

「……」

『己も今までは思い出せなかったが、人共が何を求めていたか……そして、己が何処から連れ去られてかを思い出した今、それに気付くのは簡単だった。
 お前は何も言ってこなかったが、(鑑定)を使ったのだ、分かっているのだろう? 己が――己の本当の種族が魔獣で無いことは』


 魔獣さんが、そう俺に訊いてくる。……最初に(鑑定眼)を使った時、魔獣さんのステータスは把握していた。だけど、あえてその真実を隠したままでいた。俺からその事実を聞いた魔獣さんが、真実を知らないように。
 また、俺が魔獣さんと心の中で言っていたのは、魔獣さんの今の状態を魔獣だと知っているからだ……過去がどうであれ、今の魔獣さんの種族は魔獣でしかないのだから。
 だけど、魔獣さんは元の種族を思い出していっている。なら、それを明確にしてあげなければいけないな。
 俺はそう考えて……口を開く。


「あぁ、聖獣だったんだな。お前は」

『――やはりそうだったのか。己は、魔獣では無く聖獣。
 聖獣は、強靭な肉体を持つ。人共はそんな聖獣を、自分達が造ろうとした魔獣の素体として使おうとしていた。
 その実験に使われたのが、己だった。
 ……その頃の己は幼かったからな、結局苦しみに耐えることができず、この様だ』

「……」

『なぁ、己はどうしてこんな目に合っているのだろうな。突然捕まえられ、肉体を弄繰り回され、国を滅ぼす手伝いをさせられた。己は、己として生きてこれたのだろうか』


 魔獣さんはそう言って、死んだ魚のような目をする。……あんまり好きじゃないんだよな~その目。そういうのは、ヒキタニ君や天然パーマだけがやっていれば良いんだよ。


「――なら残りの時間は、俺といないか?」

『……ぬ?』

「これからの時間で、お前がお前として生きれることを今から証明しよう。だから、俺と共に来い。お前に最っ高に楽しい時間を提供するぜ」

『……それも良いかもな』

「よし、ならさっさとあれを何とかして、お前を解放するとするか。……て、自己紹介がまだだったな、俺はメルスだ。お前は?」

『……分からない。名は、メルスが決めてくれ。これから共に生きる者が、己の名前を決めてくれるのも、楽しいだろう?』

「……そう、かもな」


 なら、靄を払うついでに名前も考えておくとするか。
 俺は武器を取り出し、靄へ向かって行く。



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