AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-35 撲滅イベント その13



 SIDE:シャイン

 俺の名はシャイン。
 VRMMO──AFOにおいて、【勇者】に選ばれた男だ。

 現実でそんなことを言ってもただの間抜けでしかないが、いわゆる剣と魔法のファンタジーゲームならば、その名は重要な役目を示している。

≪貴方は選ばれし者──冠するは【勇者】≫

 初めてこのゲームをプレイしたとき、俺が選ばれし者だと知った。
 まあ、普段から「天才」と持て囃されてはいたが……そんな俺が【勇者】?

 本来、自由に選ぶはずの職業選択欄には、たしかにその名が刻まれている。
 試してみたが、外すこともできた……だが俺は、そのまま設定を終えたのだ。

          ◆

 AFOを始めてから、そう時間も経たずしていろんな女を(俺の女として)パーティーに引き入れた──

 頼れるタンカーのレベリ。
 勝ち気な性格の魔法使いトル・マリン。
 おっとり系のヒーラー役ミルク。
 必中の狙撃ができる弓使いのチャイト。
 情報通で斥候も務めているプレイナ。

 他にも何人か(キープとして)クランに引き入れたが、美人か可愛くて周りに囲っておきたい女はこの五人だ。

          ◆

 そんな女たちと共に、いつものように魔物でも殺してレベル上げをしようと思った。
 だが、その考えを中止さえ、別のことに取り組む切っ掛けが生まれた──イベントだ。 
 第二陣である俺にとって、初めての公式イベントである。
 控えめに言って、わくわくした……俺の真の力を知らしめることができると。 

 もともとこのゲームを始めたのは、初期勢の奴らを公式サイトのPVで観たからだ。
 魔物たちを相手に無双するその姿は、持て囃された俺でも持たない『力』そのもの。

 すでにゲームを始めて数週間、ゲーム内では一ヶ月以上が経過している。
 その間に俺は【勇者】の力を使いこなし、自慢ではないが強くなったと自負できた。

 ……だが、最強には程遠い。
 たとえ俺自身が自負していようとも、誰もそうは認めない──初期勢の奴らが、最強の座をすでに手に入れているからだ。

「今回のイベントは……リア充撲滅イベントだと? バカみたいな名前だな。でもまあ、俺は勝ち組に入るわけだな……お前らがいっしょに居るわけだし」

『~~~~~~!』

 最強にもっとも近い祈念者、『模倣者』はかつて闘技大会において覇者となった。
 だがこいつは、そこで顔を出して以降表舞台に顔を表したことはない。

 代わりに台頭してきたのが『ユニーク』。
 全員が俺の【勇者】のように、固有能力を持つという最強のクランだ。

 今回のイベントにおいて、アイツらは間違いなくリア充組に属するだろう。
 見た目も美形ばかりだし、人気や知名度も奴らの方がはるかに上……忌々しいことに。

         ◆

 イベントが始まり、しばらくして。
 他の男どもの嫉妬の念に満足しながら待機していると、非リア充──つまり負け組たちとの戦いが始まった。

 俺は『ユニーク』のメンバーの指示を受けず、戦うことを選んだ。
 周りには似たような考えの奴らが集まっていて、手柄を取るべく前線に向かっている。

 どいつもこいつもバカ丸出しだが、俺としては都合がいい。
 いい肉壁になってくれそうだし、いちおうても味方なので能力発動に使える。

 そんな考えを胸に秘め、俺も戦闘を始めようとしたその時──爆音が轟いた。

 前方に見えた負け組の奴らが、至る所で吹き飛んでいる。
 中でも一番ひどいのは、俺たちが向かおうとしていた場所だ。

 創作物でありがちな爆発、奇麗にドーム状となった火が負け組を焼き尽くしている。
 あまりの勢いに周囲の奴らは耐えられず、後方に退いていた。

 俺は【勇者】としての能力を使い、その場で踏み止まることに成功する。
 そして、すぐにその身体能力で山頂に居るであろうその魔法使いを探す。


 ──そこには女神が存在した。


 真っ赤な髪を靡かせ、見る者すべてを惹きつけるような顔立ち。
 魔法を放つためにキリッと眼前を見下ろすその姿に、俺は──魅せられる。

 どうにか接触しようと思って山頂に戻ったのだが、すでに彼女はどこかに消えていた。
 いっしょに居たであろうマリンに尋ねてみたが、どうやら誰にも言わず消えたらしい。

 直接会うことには失敗したが、負け組が大量に死に戻ったお陰でパーティー単位での自由行動ができるようになった。

 これ幸いと女たちを集め、戦場に行ったと思われる彼女を追いかける。
 ──その後、上空でイキる男によって、全祈念者が弄ばれた。

          ◆


『さぁ、祈念者の諸君。これより試練を始めよう──“英雄試練・怪力無双”』


 ソイツは、地味としか表現のしようのないモブだった。
 多少目や髪の色が特殊だが、ああいう奴はAFOデビューだとすぐに分かる。

 男は無駄に誇張した発言をして、魔法を使うのだが……それが以上の始まりだった。

 強大な魔物たちが現れると、勝ち組負け組関係なく蹂躙し始める。
 有象無象共が倒そうとするが、誰も倒せずに敗北していった。

 俺の近くに居たのはケルベロス。
 毒や炎、氷なんかを吐いていたが、俺の持つ【勇者】の力の前にあっさりと死んだ。

 周りの女たちは、いつものように賞賛していたが……そのときの俺の心は、一目見た女性でいっぱいだった。

          ◆

 転移され、そびえ立つ巨大な門を壊そうとしたが、結局壊すことはできないまま。
 いっしょに居た非リアグループのモブも、同じく壊せないで待たされる。

 迷宮は一番下まで行けば、絶対に脱出できるのだが……まさか、一階層から下に行けないとは思ってもいなかった。

 しばらく待つと、【勇者】の能力がなぜか反応する。
 効果は周囲の【魔王】に反応する、知覚能力のようなモノだ。

 ……そういえば、壊れない壁に八つ当たりする前も、反応があった気がするな。
 ちょうど、上空でモブ野郎がイキっているときだった……つまりアイツがそうなのか。

         ◆

 それから扉が開き、二階層へ足を踏み入れた俺たち。
 予想通りモブ野郎が玉座でイキり、演出までして俺たちを迎え入れる。

 哀れみを覚えるが、このイベントを公式があとで載せるかもしれない……そうしたら、あの女も観るかもしれないからな。

「──勝負だ、魔王!」

 俺はそう告げ、モブ野郎の蹂躙を始める準備を行うのだった。


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