AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-30 撲滅イベント その08



 SIDE:武僧

 目の前の光景を、俺は忘れることができないだろう。
 身動きの取れない俺や仲間たちは、ただそれを見守ることしかできなかった。

 圧倒的力が振るわれ、多くの祈念者たちが敗れ去った戦場の跡。
 残されたのは同じく力を持つ者のみ、しかしその数はほんの僅かでしかない。

『──“■■■■・■■■■”』

 あのときの俺は、こんな未来が訪れるなんて思ってもいなかっただろう。
 ほんの小さな出会いが、俺たちを唯一の観客に仕立て上げた。

 生き残る力なんてなかったのに。
 ただ、共に居た短い時間が、俺たちに生をもたらしたのだ。

「本当……何者なんだろうな」

 初めて会った時、二度目に会った時、そして今も……アイツは俺たちに真実を語らず、ただ己の行動だけですべてを語っていた。

 何度会っても謎は減らず、むしろ増えていく一方だ。

 ──そう、それは取り留めもないはずのごくありふれた出会い。
 イベントが始まり、しばらくしてからのことである。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 パーティーリーダーであるアイツがリア充組に選ばれ、そのついでなのか同じグループに選ばれた俺たち……アイツ以外、リア充っぽいことをしている覚えはないんだがな。

 スキル構成や職業である『武僧』から、俺は戦闘班として戦うことになった。
 名前が表す通り武の僧侶、自分に回復を施しながら戦う武闘家のようなものだ。

 同じく近接系のリーダーと共に、このゲームの中で戦闘経験を積んできている。
 仲間たちのサポートもあれば、それなりに戦えると考えていた。


 ──人が宙に跳ね上げられる、そんな光景が視界に焼き付くまでは。


 轟ッとけたたましい音が鳴った。
 音源ではテレビの中でしか見たことの無い爆発現象が起きており、その膨大な熱量が山の上に居るはずの俺たちにも届く。

 この瞬間、すべてを理解した。
 自分たちは、この光景を生み出した者には絶対に勝てないのだと。

 近接遠距離、そんなこと関係ない。
 戦場において勝敗のみがすべてであり、敗北者には何も残らないのが常。

 実際、この魔法を使った者に挑もうとすれば……近づくこともできずに、より短い詠唱で生み出される強力な魔法に焼かれ、成す術もなく敗北するだろう。

「──あれは……アルカと、誰だ?」

 魔法を放っていたのは二人。
 一人は、金髪ツインテールの魔法使い然とした少女。

 彼女は有名な祈念者に挙げられる人物で、強力な魔法を使うことで有名だ。
 事実、彼女が放った大量の魔法によって、多くの非リア充グループが死んでいった。

 だが、先ほど俺が衝撃を受けた魔法は、もう一人の魔法使いによって起こされている。
 紅の髪色をした、長髪の女性……しかも、キャラメイク関係なく天然の美人!

 いかにも有名になりそうな容姿、そして実力を持っていると思うんだが……今まで隠れていた強者ってのは、やっぱりいるんだな。

「──けどまあ、まさかあんなことになるとは思ってもいなかった」

 その後、彼女は俺たちの下に現れた。
 ただし、その『下』とは山の下──つまり戦場という意味。

 魔法職だと思った彼女は、近接職顔負けの戦いっぷりを魅せたのだ。
 拳に纏わせた紅蓮の焔、殴られた相手はその炎によって瞬時に焼却される。

 イベントが始まってから、自分を見つめ直すことが多くなってきた。
 やっぱり、世の中には居るんだよな……超一流のスタープレイヤーって奴らが。

「……で、その次はもっとわけの分からないことが起きたんだよな」

 それから程なくして、非リア充グループの様子がおかしくなった。
 心の同朋であった彼らは、突然発狂しだして、そのまま俺たちに仕掛けてくる。

 ……ぶつぶつと『リア充死すべし』とか、言っていたので、理由は歴然としているが。

 多くの犠牲を出しながらそれをどうにか食い止めたが、死に戻りした者は多かった。
 精鋭たちが力尽きる中、俺の居た集団も襲われる……はずだったのだ。

 彼らは俺たちを素通りし、一直線にとある場所を目指した。
 遠目だったのでよく見えなかったが、そこではもう一つの無双が行われていたのだ。

 翼を生やした女性らしき影が、両手に大きな剣と盾を持って戦っている。
 向かう者たちはリア充・非リア充グループ関係なく、問答無用で倒されていった。

 ……一番気になったのは、戦闘が終わるごとにもう一人居た影に接触していた点。
 武器も杖も持っていない、なんで戦場に居るのか分からない男とイチャコラしていた。

 休んでは倒し、倒しては休み。
 それらを繰り返していた……が、いずれは周囲に居る祈念者も全滅し、こちらに来るかもしれない。 

 深くため息を吐いていた、俺たちグループの代表者であるナックルもそう感じたのか、早々に引き返すことになった。

「あれで助かったんだ。というか、別の部隊に居たら間違いなく死んでたな。なんで突っ込もうとするのか、意味が分からなかったぐらいだしな」

 結局、最後にその場に誰も居なかったそうなので、それは正解だったのだろう。
 そして、それこそが──俺とアイツとの、一方的な出会いだった。


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