自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う

山田 武

04-28 撲滅イベント その06



 再び戦場に帰ってきた俺、そしてレミル。
 それを迎え入れるのは、闘争を繰り返すリア充と非リア充たちの姿だった。

 相反する者たちが鎬を削り、互いの命を削ることで活路を切り開いている。
 飛び交う魔法、ぶつかり合う武具、光り輝く色とりどりのスキルエフェクト。

 ──お陰様で、模倣がはかどリング!

「死ね、リア充がぁあああ!」

 狂ったように非リア充グループから、俺目掛けて突っ込んでくる奴が。
 隠蔽スキルなどは使っていなかったので、気づければ当然だ。

「──主様に、触れないでください」

 だが、敵意も害意も、悪意も届かない。
 レミルが俺の前に立つと、『光芒盾』を構えて攻撃を防ぐ。

 向けられた剣を盾で受け流すと、勢いを止められない彼を──そのまま剣で刺し貫く。
 心臓を失った男は生命力を即座に空っぽゼロとし、その身をこの場から消し去ってしまう。

 ここで一度、隠蔽スキルを使ってその身を隠しておく。
 超級の隠蔽ともなれば、見ていたはずなのに見失う……そんなレベルで隠れられる。

「大丈夫ですか、主様」

「ああ、レミルが守ってくれたからな」

 ちなみに、身バレを避けるため呼称を一時的に改めてもらっていた。
 音だけを認識させないという方法もあるのだが、読唇術をされたら堪らないからな。

「……名前、本当に隠さなくていいのか?」

「主様に授かった名を、偽りたくはございません……も、もちろん! 主様は、お好きになされてください!」

「俺の名前は……まあ、こっちでのものだから別にいいんだけどな。一部の眷属は知っているし、今度そっちも教えておくよ」

「えっ? ……あっ、はい!」

 なんだか罪悪感が……自分だけ二重で名を隠しておくって、ダメなことなのか。
 いや、倫理的とかそういうことじゃなくて精神的にキツい。

「スキルは習得できたか?」

「剣術、盾術共に習得できました。主様のスキルが持つお力、とても参考になります」

「レベルが高いなら、誰でも同じだけの補正があるだろ。けどまあ、そう言ってもらえるのは嬉しいよ。借り物の力とはいえ、それがレミルのためになったんだからな」

「それでですね、主様……その、異なるスキルも体験してみたいのですが……」

 どのスキルを共有すればいいのか分からないそうなので、俺なりに考えて新たなスキルの名を挙げておく。

「──(全武器適正)と(一途な心)だな。前者はフーラとフーリの就いている【英雄】が内包したスキル、後者は俺の【天魔】が持っていたスキルだな。パーセンテージが上がって共有できるようになったんだ」

「それは……おめでとうございます」

「はい、ありがとうな。お陰で一部の固有能力の共有ができるようになったから、昔よりも眷族に力を貸してやれる。成長速度を上げるスキルもあったんだが、とりあえずは使い方を体が覚える方がいいからな」

「では……さっそく使わせていただきます」

 一度目同様、何やら艶めかしい声を出すレミルから目を逸らし、周囲の状況を調べる。
 超級隠蔽で隠れた俺に気づく者は居らず、まだ辺りで両グループとも彷徨っていた。

 背後では、先ほどよりも長い嬌声。
 ……思考系のスキルでどうにか忘れようと意識を逸らし、憂さ晴らしとでも言わんばかりに魔法をぶっ放す。

「多重展開──“落穴ピットフォール”」

 思考詠唱スキルが補助をし、百を超えるレベルで構築されたその魔法。
 一つひとつの座標が祈念者たちの足元に設定されており、すぐさま効果を示す。

「うわぁああ!」「り、リア充ぅう!」「うぎゃぁ──!」「ふ、“浮遊フロート”!」

「……イキのいいのもいるんだな。それならシンプルに──“落石ロックフォール”」

『ぎゃあああああ!』

 落とし穴に落ちていく祈念者。
 しかしそれはただ穴を作るだけなので、脱出する方法などいくらでも存在する。

 空を飛ぶ魔法、壁を登る武技、瞬間移動を行うスキルなど……無数の手段を用いて、逃げ出そうとする者たち。

 ──彼らは落石に遭い、再び落ちていく。

 大規模殲滅ほどの爽快感は無いが、喜劇的な満ち足りる感覚を覚える。
 そうこうしている内に、レミルも共有を終えたようだ。

「主様、私も!」

「ああ、試してみようか」

 仲間が殺されたということで、少しずつ俺たちの方に向かってくる。
 共有した二つのスキルの恩恵を受け、それらすべてをレミルが迎撃していく。

 剣と盾を振り回し、無数の攻撃を捌いては確実に一人ずつ葬る。
 どんどん祈念者たちは光の粒子となり、この世界から一時的に退場していく。

 大きな十字盾は魔法をも弾き、その形状を生かして打撃も可能としていた。
 西洋の剣と同じ要領で、首を力尽くでへし折ることも可能だ。

 とはいえ、レミルは使徒……天使である。
 俺のように黒いマインドが無いからか、そういった残虐なプレイは勤しまない。

 殺しているとはいえ、惨いことはせず一思いに逝かせているのは間違いなく慈悲だ。
 落とし穴に嵌めて落石させる、そういう奴は間違いなく鬼畜と呼ばれるんだよな。

 なんてことを考えていると、レミルがこちらをちらちら見ている。
 何かと思い、念話を接続してみると──

《メルス様のお力によって、上手く戦えているとは思いますが……》

「ああ、それでどうしたんだ?」

《その……相手の方々、あまり強くはないと言いますか……》

「うん、それで合ってるぞ」

 レミルの単発攻撃で、全員が死んでいるわけではない。
 それでも受けどころが悪ければ即死するうえ、だいたい二発で死んでいる。

 補助として強化魔法を施してはいるが、直接戦闘に反映するような部分ではない。
 死なないようにしているだけなので、彼女の悩みの答えは──彼女に起因している。

「全武具適正スキルは、扱いを。一途な心スキルは、想いを補正する。まあ、理由はどうであれ、レミルが一生懸命頑張ってくれている証拠だ。相手が弱いってのは、つまりその分レミルの想いが強いことになる」

《私の……想い……》

「レミル。今のお前は、無機質な道具なんかじゃない。俺の眷族、そして家族だ。束縛はしないし、俺や眷族のためだと思うなら、好きなだけ動いてくれて構わない。何かあっても、それを支え合うのが俺たちだしな」

《ですが、それは……》

 戦闘中、襲い掛かってくる祈念者たちを的確に殺しながらも念話してくるレミル。
 意思の力が念話を繋げたい、そう想っているのも並列行動ができている理由かな?

 元はレイフ°目だったのだ、感情は有っても希薄だったに違いない。
 それをレンがナニカをして目覚めさせ、いきなり感じる『想い』に戸惑っている。

《メルス様……私はいったい、どうすればよいのでしょうか?》

「思うが儘にってな。お前がやりたいこと、それを考えてみよう。俺と眷族はそれを否定しないから、まずは俺たちにやってみよう。どんな結果であれ、それならレミルも後悔しないんじゃないか?」

 いきなり人類撲滅とかを選ばれると困るので、いちおうの保険は掛けておく。
 眷族はレミルと同じだけの恩恵を受けているので、そうなっても止められるだろう。

 ──レミルは文字通り天使なのだから、そうなる可能性はかなり低いとは思うが。

 いつの間にかここいらに近づく祈念者はいなくなり、手持ち無沙汰となったレミルがこちらにやってくる。

 思いつめたような表情はしておらず、何やら顔を赤くしていた。

「……では、私の思うが儘に」

「ああ、好きに──」

 俺の言葉はすべて伝わらなかった。
 言い切る直前、俺の言語能力すべてを奪う衝撃が背中から突き刺さる。

 それは冷たくも温かく、体をじんわりと温めていった。
 何よりも、その感触──二つの柔らかなナニカが、押し付けられているのだ。

「レ、レミルさんや……な、ナニをされているんですかね?」

「ふふっ、とてもお可愛いです。私にできることは、この身をメルス様に捧げること。思いがどういうものか、まだ分からない今──こうして体で想いを表してみました。嫌……でしたか?」

「全然嫌じゃない! 全然、嫌じゃないんだけど……レミルは、いいのか?」

「これが私の本心です。どうか、今しばらく安息をください」

 ここまで言われて、主として……いや、男として断るわけにはいかなかった。
 この甘く蕩けるような時間は、次の祈念者たちが来るまで続いていく。

 ──なお、五分も経たずに終わりました。


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