AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

03-22 自我ノ花



 第二世界『修練場』。
 いろんなスキルをまた習得したので、その検証を行っている真っ最中だ。

「けどまあ、こういうのって天才なら見ただけで分かるのかねぇ……」

 天才とは凡人とは出来が違うのだ。
 一を知るだけで十も百も理解し、どんどん先へ進んでいく。

 今回の場合、スキルの説明文だけで能力をすべて把握する……といったところか?
 もちろん俺にはできないので、しっかりと使って体に覚えさせているわけだ。

「──だいたい、こんなところかな?」

 とりあえず一時間ほど掛けることで、凡人である俺でもスキルをなんとなくではあるが理解できた。

 その中でも、改めて試すことが必要そうなスキルをピックアップして再度発動する。
 なお、すべてが【思考詠唱】による発動なので、魔法名はシークレットだぞ。

「激強魔法と衰弱魔法……当然その性能が上がったし、他者に掛ける場合の成功率も上昇した。あと、発動時間も伸びたな」

 激強はともかく、衰弱という言葉で分かるようにジワジワと効果を発揮する魔法だ。
 ステータスで確認できる能力値も、時間経過で少しずつ補正値が増えていく。

 短時間用の進化も在ったが、偽善的には長時間続いた方が便利そうだったのでこちらを習得することにした。

「お次は血魔法と妖精魔法……まあ、二人が使っていたからコピーできたですます」

 血魔法はその名の通り、血を操る魔法。
 妖精魔法は……精霊を操る魔法と、妖精が行う悪戯の補助に使うような魔法である。

 ただし、妖精魔法は非常に燃費が悪い。
 もともと魔力を多く宿す妖精が使う魔法なため、性能を求めた燃費無視の魔法なのだ。

「詳細はまた後日──お次は紅蓮魔法」

 こちらは不死鳥フェニの種族魔法……まあ、火に高い適性を持つ種族が持つ魔法なんだが。
 紅の蓮という意味を持つことから派生し、さまざまな形へ炎を模らせることができる。

 ちょっと強引な気もするが……そういうことを気にしていたら、英語やドイツ語な部分にツッコまないといけないから無視しよう。

「そしてご注目──生活魔法」

 二人とも持っていたこの魔法。
 しかし、一期の俺たちは手に入れることができなかった……アップデート後に新たに加えられたスキルだったからだ。

 ただ、いろいろと違和感を感じている。
 生活に関する小規模な魔法を複数内包している、みたいな説明文だったのだが……それが可能になっていることがまず疑問だ。

 それができるのであれば、魔法はすべて一纏めにできるはず。
 だがそんなことはなく、実際は属性ごとに分けられているし、被りは無い。

 生活魔法だけが、こういう在り方なのだ。
 便利ではある……だがそういうこともあるから、いろいろと気になっている。

「次は武術──【武芸千般】」

 百が千になっただけ……ではない。
 受動効果として、スキルを持っている武器種の攻撃であればダメージを軽減できる。

 まったく同じなら五割カット、系統的に属しているだけでも三割カット、同じ射程で行う攻撃であれば一割カットされるらしい。

「そしてメイン──“魔力化”」

 魔力になる……そのまんまなスキルなのだが、これが思いのほか高い性能を誇った。
 持っている魔法スキルの属性と化し、物理無効・同属性魔法吸収などの力を得られる。

 別属性は普通に効くし、気力を籠められれば普通に攻撃を受けてしまう欠点もある。
 場合によっては弱点になってしまうし、使用中の消耗が激しいのも問題なところだな。

 だが思考加速と思考詠唱によって、すぐに切り替えられる今の俺なら……属性攻撃をすべて無効化することもできるかもしれない。

「それをするには、まず思考加速スキルを満足できる水準まで慣らさないとな」

 アレ、速くなりすぎると制御できなくなってだいぶ疲れるんだよ。
 少しずつ、まずはレベルを上げずに調整していくしかない。


 閑話休題レッツのうトレ


 そんなこんなで思考加速の練習中だ。
 意識を深く沈め、並列行動で複数の動作を同時進行……そのすべてを加速させた思考で把握させていく。

《…………、…………》

「ん? この感覚は……」

 なんてことをやっていると──ジジッ、と脳裏にノイズが走る。
 ラジオの周波数が合わないような感覚で、それ自体はレンとの会話みたいに思えた。

 つまり、何者かによる念話なんだろう。
 本来であれば疑ったり警戒するのが普通かもしれない……だが、正体が分かる前から、不思議と怪しもうとは思えなかった。

「俺の方でノイズを払ってみようか。魔法がそういえばあったっけ──“念話テル”」

 無魔法で使える、魔力で繋いだ糸電話のようなイメージを持つこの魔法。
 それをどこからか繋がる糸に繋げ、聞き取れるようにしていく。

 ──そして理解した、いったいどこから繋がってきたモノなのかを。


《……うん、どうやら繋がったようだね》


「あっ……」

 初めて聴いたはずのその声を、とても信じられると思える。
 それもそのはずだ……俺が願ったのだ、その者が誕生することを。

「お前は……」

《初めまして……いや、この場合は『おはよう』や『こんにちは』が良いのかな? おっと、まずは挨拶を──お察しの通り、僕は君が生みだした自我。【強欲】の魔武具である『万智の魔本』に宿るモノさ》

「『グー』……なのか?」

《うん、武具そのものなのか自我のみなのかと問われるとなかなか答えづらいものがあるけれど、君が──マスターが与えた『グー』という名に該当するかどうかを尋ねられたのであれば、その問いは肯定しておこう》

 ずいぶんと長い返事だが、それも俺が求めた理想なのだろう。
 ……俺が【強欲】でイメージしたモノが、よく分かる自我である。 

 ただし、あくまでも俺が求めた理想を追求したうえでの人格形成だ。
 いわゆる(妄想)補正が入っているな。

「このタイミングで繋がったのって、何か理由があるのか?」

《何度もこっちから呼びかけていたのが理由だとは思うけど、やはりマスターもまた思考加速スキルを習得してくれたからだろうね。処理に余裕が生まれて、僕の呼びかけに気づけたのかもしれないよ》

「なるほど……意外と役立ったな」

 先ほど説明に入れていなかった思考加速。
 レベル×1.01倍で脳の処理速度を速めてくれるスキルである。

 並列行動と思考詠唱のサポートになるかもと思って習得したのだが……うん、夢の並列思考以外にも使い道があったのか。

《今回のリンクで比較的他の魔武具とも簡単に接続できるようになったと思うよ。聖武具はまた別の波長だし……まあ、双銃の子たちが居るからそこは彼女たちに任せようか。それよりもマスター、報告したいことが……》

「情報量が多くて、正直分からなかったんだが……えっと、報告ってなんだ?」

《ずっと前に解析に掛けていた例の指輪、あれを調べ尽くしたことさ。とりあえず、僕なりにマスターが指輪のことを識れるように追記しておいたからさ》

「ああ、『強欲の魔本』を視ればいいんだよな? ──本当に載ってるな」

 ちなみにこんな感じだった──

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邪神教の指輪 イベントアイテム

呪具:指輪 信仰強化型 ランク:X
耐久値:32/10000
装備補正:MP+1000[精神侵蝕有り]

説明:邪神の力によって作られた指輪
指輪に付いている邪力結晶の影響で呪いの力が籠められている

[耐久値が低いのは(使徒降臨)が発動したため。耐久値と本人のあらゆるエネルギー、そして自我を喰らって発動する。耐性を付けていようと時間経過で自動的に侵蝕される]

装備スキル
(鑑定阻害)(信仰成長)(使徒降臨)(邪気放出)
(邪気操作)(邪気耐性)(自動破壊:停止)
---------------------------------------------------------

 呪いのアイテム、ここに極まれたりだ。
 こんなの教会に行っても、絶対に外せないだろうと分かる厄介な指輪である。

 しかも(鑑定妨害)なんてスキルが機能し、デメリットだけを隠す……魔力MPが1000も増える指輪を装備しない方がおかしいか。

《──とまあ、ここまでの話が僕からの報告だね。マスター、何か訊きたいことはあるかな? 可能な限り質問には答えるけど》

「そうだなぁ……どうしてグーが一番最初に俺に呼びかけてくれたんだ? 自我が一番最初に目覚めたのか?」

《いきなり僕じゃ答えられない質問をしてきたね。うん、今の台詞で分かったと思うけれど、それは否さ。正解は僕じゃない、最初に目覚めた先輩に訊いてみてくれ》

「……先輩?」

 グーにとっての先輩、つまり先に生まれた存在は二つ(人)いる。
 その中でも、魔武具としての先輩なのであれば……なるほど。

「『スー』だな」

《──ん、正解》

 グーとは違う声音で届く言葉のイメージ。
 それを伝えてきた者こそが──【怠惰】の魔武具『堕落の寝具』の自我である、スーなのだろう。

 ちなみに、異なっていた声音のイメージ。
 グーが智的な女性を思わせるのであれば、スーは眠そうな少女を彷彿させる。

 そんなスーだが……思念から伝わってくる感情は恥じらいを主に構成されていた。

「なあ、スー。どうしてグーより早く呼びかけようとしなかったんだ? あっ、いや、解析とかそういう理由があるならいいんだが」

《……だって》

「ん?」

《だって……恥ずかしい、から……》

 心の中で喀血してしまう。
 言葉だけでは伝わらない、その恥じらいの感情が混じった台詞は俺にクリティカルヒットしたのだ。

 嗚呼、求めていた『可愛い』はきっとここにあったのか。
 武具創造は俺の求めていたモノを、すべてもたらしてくれるのかもしれない!

「そそ、そそそうか……ちなみに、他のみんなは同じ状態なのか?」

《今はまだ僕と先輩だけだね。スキルで言えば(自我ノ芽)を目覚めさせると、それぞれマスターが望んだ人格が形成される。逆に言えば、マスターが求めたからこそ僕たちは開花したわけだ》

《スキル……咲いてるよ》

 どういうことかと二人の本体である魔武具の詳細を視てみると──スキルが(自我ノ花)になっていた。

 それぞれ後ろに『:○○』と名前が付けられており、ある意味個有スキル扱いなんだろうな……と思ったりする。

《僕と先輩のこのスキルを調べて、自我の開花に必要な要素だけを抽出して他の武具たちに送ってある。あとはマスターの意志、それに武具が宿した意志次第ですぐにでも目覚めると思うよ》

「……用意周到だな」

《そうあれと、マスターが願ったからね》

 これからは、二人とも回線を繋げば連絡が取れるようになった。
 ……傍から見ればソロでも、イマジナリーなフレンドが居るみたいだな。


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成長した魔武具の詳細です

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堕落の寝具 製作者:メルス

魔武具:【怠惰】 自己進化型
ランク:X  耐久値:∞

今代の【怠惰】所持者が創りだした寝具
一度入ったものは、二度と出れなくなる絶妙な温さに誘われる
また、この寝具は意思を宿しており、攻撃や主以外の者を拒絶する

装備スキル
(結界魔法)(快適調整)(睡眠成長)(?)(?)(?)(?)……

NEW
(自我ノ芽)→(自我ノ花:スー)
(生命力自然回復・極)・(魔力自然回復・極)・(精神力自然回復・極)→(身力自然回復・極)
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万智の魔本 製作者:メルス

魔武具:【強欲】 自己進化型
ランク:X  耐久値:∞

今代の【強欲】所持者が創りだした魔の禁書
万物を収め、情報を知り尽くす
一度収めたアイテムは、魔力を消費することで自在に生成可能
情報の収集量が一定量を超える度、主が求める情報をその書に記す
また、この魔本は意思を宿しており、攻撃や主以外の者を拒絶する

装備スキル
(存在菟集)(亜空収納)(万能吸収)(形状変化)
(情報解析)(収集成長)(?)……

NEW
(自我ノ芽)→(自我ノ花:グー)
(真理究明)(分析鑑定)
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