AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
03-08 眷族特訓 その01
SIDE:オブリガーダ
──これは夢なのかな?
チクチクして痛かったのが無くなって、プカプカお風呂に入っているみたい。
だからそんな風に思っていたら、本当にそこがお風呂になっちゃった。
『ここではあなたのイメージが本当のことになります……より純粋だからこそ、事象風景が鮮明になったのでしょう』
「あなたはだれなの?」
お風呂の中にはわたし以外にもう一人、よく見えない誰かが入っていた。
あのノイズの人とは違って、なんだか薄っすらと黒い影に包まれている。
『わたくし? わたくしは『チー』、ほんのちょっとの間だけどよろしくね』
「うん、よろしくねチーちゃん」
不思議な話し方をするチーちゃん。
わたしと同じくらいの背の高さで、それ以外はなんにも分からない。
『えっと、この時間はあなたが具体的にどんな力が欲しいかを訊く時間なんですよ。わたくしはそれを知って、あなたに相応しい力を授けるの。あのお方に言ったことをそのまま教えてくれてもいいです』
「あの人って……ノイズ? の人?」
『そうです。男の人ですけど、きっとあなたのいいお兄ちゃんになってくれるでしょう』
わたしは一人っ子だし、近くにお兄ちゃんと呼べるような人もいなかった。
あんまりイメージはできないけど……居てくれたら、なんだか嬉しいな。
それからチーちゃんが訊いてわたしが答える、そんな時間が続いた。
その間もずっとお風呂だったけど、いつの間にかシャンプーとかが置かれていたので洗いっこをしながら受け答えしたりもする。
『──そう。あなたは献身的なんですね』
「ケンシンテキ?」
『自分のことはいいから、誰かを助けたいって思えることですよ。あの方と似ているわ』
「そうなの?」
でも、ノイズのお兄ちゃんはわたしたちを助けてくれたんだもんね。
わたしは「ありがとう」って言ってほしいから強くなりたいけど……強いノイズのお兄ちゃんは、いったい何がしたいんだろう?
『ヒントを教えてあげましょう。あの方は、助けたいと思った者を助けるのです。善人でも悪人でも、努力家でも無気力な方でも……『ありがとう』と言われることが目的ではありません。助けることが大切なんですよ』
「……考えてみる」
『ふふっ、やっぱりあなたはとても面白くてあの方に似ている子ね。訊くだけじゃない、ちゃんと考えられる……わたくしの中で、あなたに授ける力は定まりました──眼が覚めたとき、きっとそれを理解するでしょう』
「ん? 分かった」
頭の中でぐるぐるぐるぐる……考えてみても難しくてこんがらがっちゃう。
ノイズのお兄ちゃんはわたしに似ているみたいだけど、『ありがとう』って感謝は欲しくないってことみたい。
チーちゃんともお別れの時間なのかな?
顔は見えていないのに、なんだか残念そうに見えてくるよ。
こういうときって、どう言えば笑ってくれるのかな?
「え、えっと……またね、チーちゃん!」
『また…………そうですね、わたくしたちはいずれ出会えます』
「わたしとチーちゃんは友達だもん! だから、また会えるよ!」
『……少し、長くなりますが……必ず会えるでしょう。あなたの成長を、あの方を介して見守らせていただきます──またね、わたくしの初めてのお友達』
またふわふわする感覚だ。
少しずつ重くなっていく瞼、最後に映ったのはチーちゃんが笑っている顔。
……見えないけど、きっと笑ってくれているよね。
◆ □ ◆ □ ◆
「……、…………」
「…………、………………」
目が覚めて瞳を開けたら、ぼんやりとノイズのお兄ちゃんと吸血鬼のお姉ちゃんが何かのお話をしていた。
起きたばっかりで分からなかったけど、わたしの視線に気づいて二人が近づいてくる。
「よかった、ちゃんと起きてくれて!」
「お、お姉ちゃん?」
「ずいぶん寝ていたのよ? 私は数分で起きたみたいだけど……オブリガーダちゃんは十分ぐらい」
「そんなに寝てたんだー。あっ、わたしのことはオブリで好いよ、お姉ちゃん。ノイズのお兄ちゃんもね?」
わたしがそう言うと、二人ともキョトンとした表情を浮かべていた。
なんでだろう、と思ったら……ギュッとお姉ちゃんが抱きしめてくる。
「あー、もう可愛い-! うんうん、私のこともティンスお姉ちゃんでいいわよ! あとどうして、このノイズが男だって分かったのかしら? 私はさっき話して、ようやく知ったことなんだけど……」
「えっと…………勘? こ、細かいことは気にしない方がいいよ──ティ、ティンスお姉ちゃん!」
「~~~! そ、そうね……細かいことは気にしないわ。大切なのは、あなたみたいな可愛い妹ができたってことだけよ」
チーちゃんに、誰にも言わないでって言われていたから内緒にするんだ。
ノイズのお兄ちゃんは気にしていないみたいだし、ちょっと何かぶつぶつと言っているみたいだけど……大丈夫だよね?
そんなノイズのお兄ちゃんは、ティンスお姉ちゃんがわたしから離れるとこっちに来て話し始めた。
「──まずは、お疲れ様。どうやら上手く馴染んでくれたようだね……ティンスの言う通りであれば、どうやら力を得る際に誰かの声が聞こえたみたいだが、それ自体を訊く気はない。むしろ、誰にも言わない方がいい」
「どうして?」
「私が訊かない理由は、その情報を必要としていないから。情報を秘匿しておく理由は、その方が好都合だと思ったからさ」
「……たしかに、こういうイベントって人数制限があると揉めるわよね」
テレビに映る人は見ることができるけど、会うことはできない……だけどそれができる方法を知っている人がいると、どんな方法を使っても知りたくなるのと同じ、そうティンスお姉ちゃんは教えてくれる。
チーちゃんにみんな会いたいけど、会えないから会ったわたしに訊くってこと?
だけどチーちゃんは、内緒にしてって言ってたし……うん、みんなには内緒だね!
「──さて、君たちへの事情説明はとりあえずおいておこう。こうして魔法を使っているのも飽きたし、そろそろ君たちのためにもなる命令を下そうじゃないか」
ノイズのお兄ちゃんは男の人たちをチラリと見てからわたしたちにそう言う。
わたしたちのためにもなる? ──いったい、何をするんだろう?
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