AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
02-32 過去の王都 その16
あれから治療室にアンリがやってきて、再度ジークさんが呼んでいることを知った。
体も動くということで、そのまま歩いて向かったのだが……俺が倒れたあとの話を聞かされることになる。
とはいっても、そこまで時間が経っていたわけではないようだ。
数時間が経ち、王都の騒乱は終局に近づいているらしい。
バフの一部が欠けたせいか、貴族たちが協力しだしたからか……均衡していた戦力に差が生まれ始め、貴族からの連絡によればプレイヤーたちがボスである邪神教徒を追い込んでいるそうだ。
「うーん、なら大丈夫だよなー」
ギリギリのタイミングで干渉し、ボスだけ掻っ攫うというのは……偽善者として、あまりよろしくない行動であろう。
あくまでサポート、今回の場合であればバフのカットとも言える。
「それに……偽善者が参加する必要が無いほど、強いんだって知ったんだしな」
闘技大会で闘った相手全員、ただのモブではどうしようもないぐらいに強かった。
俺が勝てたのは、あくまで{感情}による超絶経験値ブーストがあったから。
最後の【断罪者】に至っては、<正義>の力が無ければ確実に負けていただろう。
邪神を崇める集団とその配下だ。
きっとあの少年なら、無双プレイも間違いなしである。
「──まあ、だからってこんな結末は少しアレだろうけど」
現在俺は、王都中を徘徊していた。
高くジャンプするわけでも、翼を生やすわけでもなく……ただただ地面を踏み締める。
体からは薄暗い霧のような漏れ、それを防ぐように結界が身を包んでいた。
「異常耐性スキルのレベリング、さすがに経験値がガッポリだな……失敗だが」
解析中の瘴気の一部を、そうした目的のために使用したのだが……懐かしい感覚と共にかなりの状態異常に侵されることに。
その一つに『アクティブスキル使用不可』といったものもあったため、ゆっくりと歩き回ることしかできずにいたのだ。
「まっ、今できることをやっておこう」
どんなことでも、やっておいて損は無い。
パッシブスキルはこの状況でも使えるし、アクティブスキルであろうとスキルを使わなければ──再現のみであれば、可能である。
特に魔法など、スキルが無くとも使うことは理論上可能なのだ。
ただシビアすぎる制御が必須というか、それができるともう人外認定というか……そういうのって、主人公級の奴ならたぶんできそうだよな。
「歩くことが、重要なんです……って、何の役に立つのか訊かれたら答えづらいな」
隠蔽スキルの中でもパッシブ系の能力でこそこそと動き回り、できるだけ人がいない場所を狙って進んでいく。
ぶつかればバレるし、瘴気に気づかれると危険視されるからな。
──まあ、老人の徘徊とでも思ってくれ。
◆ □ ◆ □ ◆
少し眠気や毒に強い者が居るように、スキルが無くとも耐性……というより状態異常に適応できるようになる。
まあ、スキル外判定だな。
疲れている奴は眠くなりやすいし、やる気に満ち溢れている奴は眠くなりづらい。
「うん、だいぶ慣れてきたな」
異常耐性が和らげていた倦怠感にも慣れてきたので、そうなのだと思う。
かなりの時間を歩いていた気がするが、そこは膨大な身力値と回復魔法のお蔭で疲労感は無い……『不退の天靴』の効果もあるし、最初からそうなるとは考えてないけどさ。
「気づけば夕方……もう終わりか」
実は先ほど、通知音が鳴った。
その内容もあって、今の俺はなんだか寂しい気持ちになっている気がする。
ピコーン
≪ただいま、『幻歌の王譜』におけるメインクエスト『過去の王都防衛戦』が終了しました。これより、アップデート最終フェイズに移行します。これよりイベント終了まで、改変のためイベントエリア外へ出ることができなることを予めご了承ください≫
プレイヤーとNPC……いや、この世界の者たちによって、運命は大きく変わった。
元奴隷、現国民たちに起きたことや実際に体験したことを思えば──ロクな未来は、訪れないだろうし。
「ふむふむ、やっぱり偽善者が必要とされない世の中だな。人類が一致団結すれば、強大な敵であろうと打ち倒せるってことかー」
努力・友情・勝利。
そんな理想論も、どうやらファンタジーな世界であれば実現可能なようだ。
ここで称賛されるべきは、袋叩きで勝利した人類か……それとも、少数で戦い抜いた悪役なのか。
「見方を変えれば、悪もまた自身の信念を貫いた正義のヒーロー。誰のためか、なんて関係ない。それはそれで、偽善者と在り方が似ているけどな」
何かをやり遂げようと、他者の意思を無視してでも動こうとしているのだから。
俺も宗教にのめり込んだ状態で偽善をやれば、立派な邪神教徒になるんだろうか?
まあ、偽善は誰に頼るでもなく自分でやるものって思っているから関係ないんだけど。
「イベント終了まで、あと一日……それじゃあ、やれることも少ないな」
だからこそ、早めに歩いていたんだがな。
イベントエリアから出れなくなったプレイヤーたちが、これまで以上に徘徊することになる──それより前に、やらなければそれはできなかっただろう。
「そういう場所はもう済ませた。あとは、気楽な散歩だけだな」
余った時間は……そうだな、新作の武具でも作っていようか。
遊び感覚で、ロマン武器でもな。
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