沈黙の籠城犯

山本正純

大野警部補、警視庁勤務最初の事件

平成24年8月1日。この日警視庁捜査一課へと続く廊下を、ダンボールを抱えた一人の若い刑事が歩いていた。黒色の短髪に強めなパーマをかけた太い眉毛が特徴的な刑事の名前は大野達郎。昨日までは所轄署に勤務する警部補だったが、1か月前に発生した事件をきっかけに、彼は警視庁の刑事となった。
大野は嬉しさと緊張を同時に感じながら、新たな職場の前に立つ。そして深呼吸をした彼はドアを開け、頭を下げた。
「おはようございます」
午前8時30分という時間帯にも関わらず、大野が所属する警視庁捜査一課三係の面々は自らの席に座っている。大野は一呼吸置き、同僚の刑事に挨拶すべく口を開いた。
「渋谷署刑事課から配属に……」
丁度その時、捜査一課の一室の内線電話が鳴り、大柄な体型が特徴的な警部、合田武人が受話器を取った。
「新宿のマンションのゴミ捨て場から男性の遺体。すぐに臨場する」
合田警部は電話を切り、入り口の近くに立つ大野警部補を睨み付けた。
「大野警部補。慌ただしくて申し訳ないが、今から殺しの現場に臨場する。適当に空いている席に荷物を置け」
「はい」
大野は合田警部の指示に従い、殺人事件の現場へと向かう。


大野警部補。警視庁勤務最初の事件の現場は、新宿のタワーマンションのゴミ捨て場の前だった。燃えるゴミが詰められた大量のゴミ袋の上に、丸坊主な髪型で右頬に黒子のある若い男の遺体が転がっている。
「遺体の身元は?」
合田警部が尋ねると、清潔感溢れる短髪の刑事、木原弘明巡査部長は、遺留品の財布の中から自動車免許証を取り出し、読み上げた。
「被害者は加藤一成。28歳。財布からは紙幣等が抜き取られた形跡がないことから、物取りの犯行ではありません。被害者は名刺入れも所持していて、そこに入っている名刺によると、加藤一成は株式会社センタースペードに勤務する会社員のようです」
木原巡査部長の報告の最中、黒縁眼鏡をかけた長身の男は、ゴミ捨て場に転がる遺体に触れた。
「合田警部。遺体の死後硬直の具合から、死後四時間から二時間だと思います。司法解剖しないと分かりませんが、微かに青酸系の毒物の匂いがします。おそらく毒殺でしょう」
「北条。司法解剖の手配を頼む」
「了解」
その男、北条宗茂は首を縦に動かす。それから現場周辺の聞き込みを行っていた低身長な体型に坊主頭の刑事、神津冬馬警部補は、合田警部に近づいた。
「合田警部。遺体の第一発見者は、不審な車を目撃している。遺体を発見する直前、ゴミ捨て場の前には黒色のワンボックスカーが停まっていたらしい」
「犯人はその自動車に遺体を乗せ、わざわざゴミ捨て場に死体を遺棄しにきたということか?」
「おそらくそういうことだろう。犯人はなぜこの場所に遺体を遺棄しなければならなかったのかが気になる」
神津が考え込む中、合田は現場検証を行う刑事達に呼びかけた。
「木原と大野は被害者の勤務先である株式会社センタースペードに行き、被害者を恨む人物がいないかを聞いてこい。俺は被害者の自宅周辺で聞き込みを行う。神津は他の刑事と共に遺体発見現場周辺の聞き込み及び防犯カメラ映像の回収を行え。捜査会議は午前10時から行う。いいな」
合田警部の捜査指揮に納得を示した刑事達は、各々の捜査を始める。

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