異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める

じんむ

第十五話 今日も高原暮らしは続く


「よしユミ。試しに全力疾走してみようか」
「分かった!」

 言うと、ユミが眼下に広がる高原に向かって走り出す。おおよそ十五歳とは思えないほどの速さだった。恐らく地球上どの陸上選手よりも速いんじゃないかな。
 その様子を呆然と見ていると、すぐにまたユミが引き返して戻ってくる。

「どう?」
「うん、速い。速すぎ」
「やっぱり!? 意識してなかったけどそういえばすっごい身体が軽いと思ってたの!」
「そうか……」

 上薬草を山から取りに行った時、ユミが一撃でウルスベアーを倒したのはまぐれでは無かったらしい。帰り道に、ウルスベアーこそ出てこなかったもののスライムは当然の如く殴り倒してたし、一日経った今も恐ろしい身体能力はそのままだ。先ほど試しに腕相撲をしてみたら秒殺だったのは言うまでもない。
 とどのつまり、ユミは勇者召喚によって何かしらのチート能力を授かっていたというわけだ。でも考えてみれば普通の女の子だったら騎士団がデバフをわざわざかけるなんてあり得ないんだよな。たぶん高い身体能力で王都にいる時も追撃を撒いていたのだろう。

「でもお兄ちゃんはなんでまた戻っちゃったんだろ」
「まぁ失敗召喚だから不完全なんじゃないの……?」
「しっぱいしょーかん?」

 ユミが可愛らしく小首をかしげる。まぁ大したことじゃないから教えなくていいか。
 実を言えば昨日の段階なら俺はユミよりもさらに上の身体能力を持っていた。ウルスベアーの群れなんか簡単に倒せたわけだし、下山途中もスライムの動きの遅い事遅い事。むしろどう動くかまで分かっちゃう始末で、しかもユミ曰く、魔物との戦いになると俺の片方の目が青白く光っていたという。
 何それどこの邪気眼だよとわくわくしてのも今となっては懐かしい。
 だが、残念ながら巻き添え召喚だかなんだか、とりあえず不完全な召喚だったと思われるのが原因か、今となってはいつもの平凡な青年だ。

「はぁ……」
「どうしたのお兄ちゃん、さっきから元気なさそうだよ」
「そうかー?」
「うん」

 いや確かにそうかもしれない。お兄ちゃんとしてこうプライドがあるというか、やっぱり妹より強い方が嬉しい事は嬉しい。

「……まぁでもそうだな、確かに力があるのは羨ましいよ」
「ふっふーん」

 無い胸を可愛らしく張る姿に少なからず俺の精神的HPが回復した。まぁいいや、別にチート能力無くたって生きていけるもんな! 妹に幸あれ!

「よし、無い物を願っても仕方ない。とりあえず上薬草に水でもやるかー」
「あ、じゃあユミはちょっとだけ高原走ってきてもいい?」
「おう。でもあまり遠くに行くなよ。追手がいないとも限らないからな」
「はーい」

 ユミは楽し気に返事すると、ウキウキと高原を走ろうとするが、不意に立ち止まると振り返り、恥ずかし気にはにかむ。

「でも、昨日はほんとにありがとう。けっこう、かっこよかったよ」
「ユミ……」
「ま、ブラフだけどね!」

 ユミはそう言い、いたずらめいた笑みを浮かべると、今度こそ高原の向こうへと走っていった。
 やれやれ、最後の一言は少し余計だけど、これ以上の無いご褒美だな。あの言葉は。
 さて、俺は俺でスローライフを楽しもう。上薬草を増やしてポーション生産できるようにしてコツコツ過ごしていくぞ! 目指せ億万長者……は流石に俺じゃ無理だな。普通に生活できる程度には稼ぐぞ!
 決意新たに上薬草を栽培しようとすると、ふらりと目の前に人影が現れた。


×   ×   ×


 紅髪の少女はひとりしかいない大広間で椅子に座していた。
 いや、厳密に言うなれば、傍には白い前掛けの仕事着に身を包んだ数名の召使が控えている。
 しかし少女にとってこの空間は一人であると同義であった。暖かなスープも、部屋を照らすろうそくも、少女にとっては冷たい物とさして変わらないのだ。

 ソーレリア家次女、セレサ・ソーレリアは今日も寒々しい部屋で料理を口に運ぶ。

「お母様とお姉様は今日も公務なの?」
「はい。三日間ほど隣国ノスルトウィステンで滞在するとの事ですが、その後は一度本家へお戻りになられるとの事です」

 セレサが問いに召使の女は笑顔で答えるが、彼女にその表情は見えていない。

「……そう」

 心の内を静かに通り抜ける風を感じつつ、半分も食べていない食事を背にセレサは立ち上がり部屋を後にした。
 寂し気な背中を静かに見守っていた召使達は、やがて完全に足音が遠ざかったのを確認すると、声を潜めながら話し始める。

「しかしセレサ様も不憫なお方です」
「ええ。今となってはキルシュ様もお忙しく、本家にいらっしゃらない日がほとんど。さぞかしお寂しい事でございましょう」
「頭首様も昔からキルシュ様に付きっ切りでしたし、今でこそおくびにも出されませんが、内心ではきっと心細いに違いないのです」
「アイザック様もお亡くなりになられましたからね」

 話し終えると、ふと、召使のうち誰かが呟く。

「せめて、少しでも私たちがセレサ様の支えになる事が出来ればよかったのですがね……」

 その言葉が空間に重くのしかかる。
 彼女たちは知っていたのだ。自分達では空いたセレサの心を補う事はできないと。




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