異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める

じんむ

第十三話 上薬草を求めて


「突然だがユミ。もし仮にこの世界で一生過ごすことになったら、お金が足りなくなるとは思わないか?」
「急にどうしたのお兄ちゃん」

 ユミがソファーから訝し気な視線を送ってくる。

「いや、貯金はあるんだけどな、ある程度。それでも短く見積もって五年くらいの生活費しか無いんだよ」
「うん」
「だから俺な……」

 ぐっと息を吸い込み、満を持して告げる。

「あきんど始めようと思う!」
「普通に商人って言いなよ」

 俺の情熱とは裏腹に、ユミはこちらを冷めた目で見上げてくる。

「どうしたんだユミ、そんな冷めた目して」
「だって商売って色々大変なんでしょ? 大した力も無いお兄ちゃんなんかにできるの?」

 うっ……確かに大した力は無いよ俺は。でも凡人なら凡人なりで努力することはできる!

「まかせろ。俺はそのために王都に一週間滞在してたんだからな」
「へぇ? 何してたの?」
「色々商売に関する本を読んだりとか、王都で人気がありそうなものとかなさそうなものとか見て周ったりだ」
「そうなんだ」
「ああ。それでだいたい分かったんだが、この世界においてポーションは簡単に作れてかつ需要があるという事だ」
「ぽーしょん?」

 ユミが小さく首をかしげる。なるほど、あまりゲームをしないとポーションって言ってもしっくりこないか。

「まぁあれだ、色々あるけど、とりあえず今言う俺のポーションは飲めば傷とか治る魔法の薬の事だな」

 まぁパワーポーションとか他にも種類はあるけど、それの製造は高度だから今の俺じゃ無理だ。

「へぇ、すごい! 魔法の薬なんてあるんだ!」

 魔法の薬というワードが少なからず興味を刺激したのか、ユミはソファーから身を乗り出す。

「ああ。それでその需要のあるポーションを自分たちの手で作って売って生活費に充てようと思うんだ」
「うんうん」
「さし当たって、まずはポーションを作るために要る上薬草じょうやくそうを取りに行くために少し山を登ろうと思うから、少し留守番頼めるか?」

 言うと、ユミが不服そうに若干頬を膨らませる。

「ユミも行きたい」

 うーん、やっぱりそう来るか。かといって黙って出ていくのは不安にさせただろうからなぁ。

「なんとか留守番してくれないか? 山奥に行くってなると魔物……人を襲う怪物にも出会う可能性が出てくる」

 異世界と言うだけあってこの世界には魔物が存在する。今や人の力によって生活圏にはほとんど出現しないらしいが、山奥となると別だ。

「魔物……そんな怪物がいるんだ」
「そうだ。だから……」
「でもお兄ちゃんがいれば守ってくれるから大丈夫だねっ。だから行く!」
「なっ……!?」

 唐突に放たれた満面の笑みと言葉に思わず言葉が詰まる。
 こ、こいつ……。本心で言ってやがるのか、それとも俺を落とすためにわざと言っているのか!? いや後者だとしてもこの最高級の笑顔を向けられてたらもうそれはそれでいいんじゃないかなって……。いやでも本当にいいのか? 王都の時は力あったっぽいけど、今はただの平凡な人間。これでもしユミの身に何かあったらその時は……。だがしかしここで断るのはお兄ちゃんとしてどうなんだ? もし前者だとすればユミは全幅の信頼を置いてくれてるわけであるからにして……。

「お兄ちゃん?」

 思考の泥沼にはまっていると、ユミが不思議な様子で俺の事を見ていた。まぁそうだな! 王都で呼んだ魔物の分布図によれば、下位の魔物しかここらへんにはいなかったはずだし、なんとかなるだろう!

「あい分かった。着いてこい、我が妹よ。どこまでも」

 格好よく背を向けてみると、ふと背後から聞こえる微かな声を俺の地獄耳が受け取った。

「お兄ちゃんチョロいなー」

 え、なんだって?
 聞かなかったことにしよう。


×  ×  ×


 俺の装備、よろず屋で買った安いこんぼう、布の服。
 ユミの装備、拾ったひのきの棒。制服という名の絹の服。
 兄妹のパーティーがRPGの初期装備のような装いで林の中を歩いていた。
 にしても結局連れてきちゃったけど本当に大丈夫かな。今になって凄い不安になって来た。

「大丈夫かユミ? 今からでも戻った方が……」
「平気平気! だって剣道部で鍛えるもん」
「そういう事じゃ無くてな……ていうか剣道って腕の方が鍛えられるんじゃないのか?」
「ちっちっ、そんなに甘い競技じゃないんだよねー」
「そういう物なのか……」

 どちらにせよユミに戻る気は無さそうなので、魔物が出ない事を切に祈りながら進んでいくと、不意に茂みが揺れる。

「くそっ、魔物か! ユミ、一旦後ろに退避しろ!」
「う、うん!」

 思わず毒づきつつも伝えると、目の前にぶよぶよした青い球体が二匹現れる。目はくりくりとしてて若干愛嬌は無い事も無いが、こいつらもれっきとした魔物、スライムだ。これならなんとか倒せるか?

「おら!」

 こんぼうを振り上げ、一匹目のスライムを殴打。一匹は弾け飛ぶが、もう片方のスライムが間合いを開ける。
 俺はすぐさま距離を詰め攻撃を加えようとすると、スライムが勢いよく猛進。鳩尾に衝撃が走るが、何とか堪え、とどめの打撃。青い球体がはじけ飛ぶ。

「ふう……」

 良かった……あれくらいの衝撃ならまだ耐えれるレベルだ。スライムなら俺でも勝てそうだな。

「だ、大丈夫お兄ちゃん!?」

 地面に飛び散った青い液体に苦い笑みがこみ上げてくるのを感じていると、ユミが心配そうに駆け寄ってきてくれた。

「まぁ、なんとな」
「よ、よかったぁ……」

 本当に心配してくれたのだろう。ユミは脱力したように地面にへたり込む。

「だから言ったろ? お前はやっぱり戻った方がいい」
「だ、大丈夫だよ! これくらい!」

 諭すが、ユミはパッと立ち上がり慌ててスカートについた土を払う。

「でも危ないぞ。さっきのは弱かったから勝てたものの、今度はどうだか」
「そ、それでも行く!」
「うーん……。でもあれだぞ? ほんとに薬草取りに行くだけなんだから無理に……」
「だ、だって……!」

 なんとか戻ってくれないか説得しようとするが、俯きながらも力強く放たれたユミの言葉に遮られる。
 少しして、ユミは小さく何やら呟いた。

「離れたら、またお兄ちゃんがどっかに行っちゃいそうな気がして怖いから……」
「え、なんだって?」

 聞き返すと、ユミが真っ赤に染め上げられた顔をパッと上げ、手をわちゃわちゃ振る。

「な、なんでもないから! お兄ちゃんには関係ない事だよ! 気にしないで!」
「え、なんだって?」
「だ、だから本当に何もないから!」
「え、なんだって? もう一回行ってみ? 俺が、なんだって?」
「なっ……!」

 ユミが声にならない悲鳴のような音を出すと、赤面したまま硬直する。

「えっと? 俺が? どっかに? なんだっけー? 行っちゃいそうな? 気がし……」
「うわああぁぁぁストップストーップ!! こ、これはあれだよ!? ブラフだよ!? ていうか聞いてたんなら聞き返さないでよぉ!!」

 ユミは俺の胸倉を掴み凄まじい力で揺さぶると、目をぐるぐる回して湯気まで立ち昇らせる。
 なに、剣道部ってこんな腕力強かったの? なんか洒落にならないくらいブンブン振り回され……ぎ、ぎもぢわるいはきぞう……。

「や、やめろ、ユミ、まじで、脳が死ぬ、吐く」

 なんとか声を絞り出すと、手を止めたユミはまだ紅い頬を俯かせ、再度呟く。

「ブ、ブラフだから……」
「分かったよ。もうそれでいいさ」

 しゅんと縮こまるユミの姿にどうにも笑み零れてくるのを感じつつも、とりあえず上薬草があるであろうところまで、妹と共に歩みを再開した。


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