異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める

じんむ

第十二話 お風呂事情と無遠慮な女の子

「よし! 釜風呂だ!」

 家の裏手に配置した石の上に置いた、人が三人ほどは入れそうな大釜をユミに見せつける。

「おお~凄いよお兄ちゃん! ドーピングして頑張って運んだんだね!」
「なんで一発で見抜いちゃうの……」
「だって普通に考えたらひょろひょろのお兄ちゃんがこんなの運べるわけないもん。異世界ならそういう道具があってもおかしくない」
「デスヨネー」

 くっ、頭の回転の速い奴め。こんなの運んだお兄ちゃんかっこいい! 好き! 展開は無かったか……。ご褒美にそのままハグしてくれても良かったんだけど。
 まぁ実際、ユミの言う通り俺はドーピングをしていた。その道具の名をパワーポーションという。自分の力を一定時間三倍にするという優れものなので、大金貨一枚の半額、金貨五枚、日本円でおよそ五万の値段はしたが、妹のためならばと村のよろず屋で大釜と共に購入したのだ。勿論一個金貨五枚なのでポーションはもう手元には無い。買うのには迷って時間がかかったが、使えば一瞬だった。まぁでもあれだ、経済的にはまだ銀行に大金貨何十枚かあるから余裕余裕。

「それはそうと、どうやって水をためるの?」

 ユミが聞いてくるので、あらかじめ用意していた物を取り出す。

「この管を水道につなげて伸ばせばいい」
「なるほどなるほどー」

 善は急げという事で、早速管を木で模られた台所の蛇口につなげ、水を出しながら風呂釜まで伸ばす。
 一定量溜め、大釜の下にあらかじめ組んでおいた薪に火打石で火をつけた。
 その様子を見つつ目を輝かせるユミだったが、何か思い当たる事でもあったのか少しだけ浮かない表情をする。

「どうしたユミ?」
「あーうん……これ、もし中に入ったら底が熱くて火傷とかしない?」

 なるほど。ごもっともな意見。でもその点についても既に打開策は存在する。

「うん、それはある。だからここでこの釜についていた蓋を縮小して風穴を開けようと思うんだ」
「え、どういうこと?」
「あらかじめ鍋の底にこの木の蓋を一回り小さくして底に沈めれるようにしておく。そうすれば肌と密着する部分には木があるから底に触れる心配はない。ちなみに風穴を開けるのはちゃんと熱された水によって湯船全体が対流するようにだ」
「おお~」

 ユリの目がより一層その輝きを増す。

「あ、じゃあじゃあ、この釜の縁はたぶん熱いよね? もしかしてそれも何かあったりするの?」
「いや、無い」

 言うとユミは「あーそっかぁ」と言いつつ残念そうに眉間の辺りを手で押さえる。

「やっぱ流石にそこまで贅沢はできないよねー」
「いや、そもそもそこは考慮する必要が無いんだ」
「え?」

 俺が予想と違う答えを返したのか、ユミが小さく首をかしげる。

「これは風呂だ。水温はだいたい四十一度にするから、水と接する縁はその温度とあまり変わらない。火から遠いからな」
「え、そうなんだ!」
「ああ。例えばまだ沸ききってない水が入った鍋を触ってもそんなに熱くないだろ。熱くなるのは水の温度が高くなってからで」
「あ、確かにそうかも!」

 納得がいったらしく、ユミが晴れ晴れとした笑顔をみせる。その笑顔百二十円! いや、それは安すぎる。百二十億だな!

「すごいね、これ全部お兄ちゃんが考えたんだよね?」
「いや、昔ググった」

 目を鍋に向けつつ即座に返すと、恨めしそうな声が横から聞こえる。

「うわ……感心して損した。ていうかなんでそんなのググってたのかがまず不思議」
「俺だってかつては小説家を志したことがある。物語を書く時に情報を仕入れるのは当然の事さ」

 細かく言えばラノベ作家だけど、まぁもちろん平凡な俺に小説家なんて無理な話だったよね! 軒並み一次落ちとか笑えない。
 悲しい黒歴史に浸りつつしばらく湯加減を見ていると、ようやくいい感じの温度になった。

「よしユミ、一緒に」
「嫌」
「デスヨネー」

 その後、ユミはくれぐれも覗くなと俺に釘を刺すと、布で簡単な敷居を作り露天風呂へと入っていった。
 甘いな、一緒に入れなくとも妹のダシがしっかりときいた鍋……いやいや釜風呂ほど気持ちのいいものは無いんだよなぁ。いや流石に気持ち悪いなその考え。


×   ×   ×


 お風呂問題も解決し、騎士団やら追手が訪ねてくる様子も無く、平穏無事な今日この頃。
 妹はソファーの上でだらしなく寝そべり、折れたスカートからは艶やかな太ももが盛大に露わにさせている。

「お兄ちゃん、暇」
「そうは言われてもな……」

 掃除はしたし……買い出しも当分大丈夫だし……ああそういえばまだ一つだけやっておこうと思ったことがあるな。今日はそれでも……。
 今日する事に目星をつけていると、ふとドアをノックする音が響く。

「とりあえずユミは二階に」
「う、うん……」

 久々に感じる緊迫に身体が硬直しそうになるのを押さえ、そっと扉の前へと近づく。

「どちら様ですか?」
「私です!」

 私って人かー。久しぶりだなー、確か高校にそんなやついたな。いません。
 ドア越しという事もあり、声がくぐもり誰だか判定しづらいので、少しだけドアを開け覗いてみる。

「あの、食べ物を!」

 即閉じ。
 まったく、ピンポンダッシュとはいただけないな。いやこれの場合コンコンダッシュと言った方が正しいか。とにかく扉の前には誰もいなかった。

「ちょ、ちょっとなんで閉めるんですか!?」

 ドアが引っ張られるので応戦して引っ張り返す。あれれー? おかしいな、風かなぁ。

「ちょ、ちょっと開けてください!」
「留守なのでどうぞお引き取りください!」
「今声しましたよね!? ねぇ!?」
「いいえ、これはあなたの心に語り掛けているのです」
「意味が分かりませんよ!?」

 ドアを引き合い押し問答をしていると、何か異変を察したか、妹が二階から顔を覗かせる。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ユミ! 出てはだめだ! こいつは危険だ!」

 叫ぶと、ドアの向こうから叫び声が聞こえる。

「私は人畜無害ですよ! 早く入れてください!」
「なんだよその図々しい主張は!」

 ドアを開けさせまいと頑張っていると、ユミがパッと顔を輝かせる。

「もしかして昨日来た女の人!? お兄ちゃん、はやく入れてあげようよ!」
「ぐっ……」

 くそっ、妹に頼まれたら断れないじゃないか!
 観念してドアノブを話す、扉が勢いよく開け放たれ甘栗色の髪の毛を湛え、腰をさする女の子が薄桃色の秘境をのぞかせて尻餅をついていた。俺が急に離したからこけてしまったのだろう。
 俺の視線に気づいたのか、女の子はカッと顔を赤くすると、スカートを押さえ女の子座りになる。

「み、見ましたね!?」
「え、見てないよー?」
「嘘です絶対見ました!」
「知らないなー」
「こ、この人は……!」

 女の子がムムムとこちらを睨みつけてくるので、さらりと視線を躱しておく。

「ほんとに、見てないんですか?」
「そもそも何を見たのかも分からない」

 女の子まだ若干頬を赤らめつつも、やがて精神衛生上の事も考えたか、俺を睨み付けるのをやめた。
 どうやら見てないという解釈をしてくれたらしい。
 本棟は見たのだが、相手が妹ならともかく、他の奴らに正直でいる事は無いんだよなぁ!



 ユミが言うので女の子を家へと招き入れた。
 まぁユミの暇つぶしになるのならそれもそれでいいだろう。

「そういえばお名前聞いてませんでしたよねー? ちなみに私はユミって言います!」
「へぇ、そうなんですね。私はシルウェラと言います」
「シルウェラさん! 名前と言いお顔といい、可愛いですねぇ」
「そ、そうですかー? 本当の事言われたら照れるじゃないですかぁ」

 なんだこの子、さらっと自分の事可愛いとか言いやがったよ。ひくなぁ!
 シルウェラの発言にドン引きしつつも、俺は台所で茶葉の入ったティーポッドにお湯を注ぐ。

「あーでも、ユミさんは私より可愛いですね」
「いやいや~そんな事は無いですよ。シルウェラさんには及びません!」
「そんな事無いと思います」

 さっき引いたといったな、あれは嘘だ。ユミが可愛いなんてシルウェラ分かってるぅ! うちの妹は世界一だよな!
 若干テンションが上がるのを感じつつ、紅茶をこしつつティーカップに注ぐと、二人の元へと戻る。

「ちなみにおいくつで? 私は十五です」
「うっ……若い。もう十八になるんですよね私……」
「これからが旬じゃないですか!」
「どうなんですかね……ハハ」

 上機嫌なユミの目の前にティーカップを置くと、脱力気味に笑みを浮かべるシルウェラの前にも置いておき俺も端っこに座る。

「ありがとうお兄ちゃん!」
「ありがとうございます」
「ん」

 各々お礼を言ってくるので適当に返すと、二人の会話を再開するので耳を傾けつつ自分の分の紅茶を飲む。うん、我ながら良い具合にできた。
 しばらく黙っていると、二人の会話はひと段落ついたようなので話を切り出させてもらう事にする。

「それで、シルウェラと言ったか、お前何故この家に来た。一日しか経ってないよな? 食い物がどうとか言ってたけど二日分渡したよな?」
「いやそれがですね、食べ物があまりにも美味しかったので食べ過ぎまして、一応隣町に就活しに行こうと思ったのですが持たなさそうなので引き返しました」
「……」

 悪びれず淡々と話す姿に怒る木にもなれなかった。何この子、頭どうにかしてるんじゃないの。

「それは大変でしたね……お兄ちゃん! 台所ゴー!」
「えー渡すのか……?」
「当たり前だよ! シルウェラさん困ってるんだから! さぁゴー!」
「はぁ……」

 ユミに言われると断ろうにも断れないんだよな……。まぁ一応まだ金には余裕あるからいいか。
 俺は台所から適当な保存食を持ってきて机に広げてやる。

「とりあえず三日分。ほんと、これが最後だからな? あと絶対食べ過ぎんなよ?」
「み、三日分! ありがとうございます! これでしばらく生きていけます!」

 言うと、シルウェラは嬉々として食料を集め、ナップサックっぽい袋に詰め込んでいく。
 出会った当初はこんな無遠慮な子だとは思ってなかったよ、いやほんとに。

 その後、シルウェラを見送るとまた平穏なユミとの二人暮らしが始まった。
 はずでした。




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