異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める
第九話 決意
「よし、ここまで来たら大丈夫だろ」
ユミを背負いつつ、超高度跳躍の連続を繰り返していると、だいたい百キロ程の距離がある家までは数時間でたどり着けた。
涼しい風が草を揺らす先には、購入してまだ一度も入った事のない一件の家がぽつりと佇んでいる。
いやしかし、まさかユミと二人でこの家に来ることができるなんて思いもしなかった。
「あれがお兄ちゃんの家?」
「おう」
「ほへぇ、けっこうお洒落だね。でもどうしたのあの家?」
「いや、まぁ……」
俺がドラゴン討伐した報酬で買ったんだぞ! とか行ってみたかったけど、妹相手に嘘をつくなどお兄ちゃん失格なので正直に話すと、ユミは納得したように頷く。
「なるほどねぇ、基本的に他力本願なお兄ちゃんらしい出来事だね」
何気に傷つくことを言ってくれるなこの妹……。割と事実なんだけどね!
「ま、まぁ確かにお兄ちゃんおご飯とか作ってもらう側だけど、流石にあれは断ったよ? でもなんか、その飼い主の人がやばくて……」
いや、やばいなんて生ぬるい。クレイジーと言った方が正しいだろう。
「まぁ、きっとその人にとってすっごい大事だったんだよその猫さん。お兄ちゃんはいいことしたよ」
「いやまぁ、流石に見返りが大きすぎた感もあるけど……」
何せ一軒家買えるほどだもんな……しかもローン無しだよローン無し。この世界にローンが存在するのかは知らないが。
「それよりお兄ちゃん、家の中見てみたい!」
ふと、ユミが肩をトントン叩いてくる。それは俺も同感だ。
「それもそうだな。家具も届いてるはずだし、とっとと行くか」
草原の中を歩き、家にたどり着くと、入る前に少しやる事があるので先にユミを中に入れる事にする。
「なぁユミ、そろそろ降りれるか?」
「あ、ご、ごめん……」
控えめに背中から降りたユミの頬が心なしか紅く染まっていた。
「さてはお兄ちゃんにずっと背負われてたのが恥ずかしくなったんだな?」
「……ッ! ち、違うし! お兄ちゃんの馬鹿!」
ユミはより一層赤面し、あたふたしながら言い放つと、パタパタと家の中に入っていく。
やれやれ、可愛い奴だなぁ。
微笑ましく妹の入っていった扉を眺めていると、やる事があったのを思い出したので目的の場所、家の裏まで歩く。
「たぶんこれかな」
裏には手のひらサイズ程の水晶が入った網があった。
それをちぎり、地面に叩きつけると、文字通りガラス細工の割れた音が鳴る。
テレポ結晶。不動産屋の転移スキルはどこでも好きに転移できるわけではないらしく、この結晶を置いたところにしか行けないらしい。この結晶もユニークスキルで作るんだとか。
一応プライバシー的なものと作れる最大数に制限があるから壊しておいてくれとの事だったのだ。
これでやる事は終わったので、いよいよこげ茶色の扉を開き家の中に入る。愛しのマイホームの内部と初対面だ。
「おお」
中は思った以上に綺麗だった。
まずテラスのある左側を見ると、一面ガラス張りで、多くの光が差し込み空間を明るく彩っている。
真ん中には俺が購入した赤褐色を持つ、ルフ鳥の羽根とギュウモの本革L字ソファーとレトロな風合いを醸し出すセンネンジュという木でできたという長机が配置されていた。どうやら運送業者が設置していってくれたらしい。数時間かけて選んだ甲斐あってなかなかに悪くない。
「けっこういい感じだねお兄ちゃん! ここも広いし!」
ふと、上からユミの声が聞こえてくる。
見ると、梯子を上れば行くことの出来る吹き抜けの手すりから、嬉々として顔を覗かせるユミがいた。
「あんまり手すりとかにもたれかかるなよ? 安全は保障できないから」
「大丈夫大丈夫!」
ほんとに大丈夫なんだろうな? まぁもしこれで折れてユミが落ちて来ても俺が死に物狂いで受け止めるから問題ないけど、まぁ念のためにね。
靴を脱ぐ場所は無いようなのでフローリングの上だが土足で上がると、奥の木扉の向こう側にはベッドが一個半程おけそうな部屋があり、窓際と反対側にある長方形の穴をくぐれば石畳みの台所がある。
あとは二階くらいかなと梯子を上ると、部屋の仕切りが無くただ一部屋だったので、屋根の形をした天井ではあるが、下と変わらないくらい広く感じた。立てる範囲も全然多そうだ。
ふむ、やはり総じていい感じの家だな。外装もさることながら内装も悪くない。テラスもあるし、これはかなりの優良物件を入手できたんじゃないだろうか。
ひとしきり家を見学し終わると、とりあえずユミと共にソファーに座った。色々聞きたい頃を聞くためだ。
「さて、それでユミ、とりあえずお前がこっちの世界に来た時の状況から教えてくれるか?」
「えと、その前にユミの方からちょっといいかな?」
「おう。構わないぞ」
妹の質問ならお兄ちゃんなんでも答えちゃう。
「ここって一体どこなの?」
「あー」
なるほど。まぁオタク知識に精通してる俺とは違ってユミは健全だからな。そう言うのも無理はない。
「そうだな。まずはこの世界は俺たちのいた日本のある世界とは別の世界なんだ」
「日本のある世界とは別の世界?」
ユミが首を傾げ頭に疑問符を浮かべるので説明に捕捉をする。
「まぁそうだな、不思議な国のアリスを想像してくれれば分かりやすいと思う。別にうさぎを追って来たわけでは無いだろうけど、元々住んでいた場所とはまったく違う環境の世界に落っこちたとでも考えてくれればいい」
「なるほどなるほど……」
ユミもなんとなく状況に納得がいったらしく、ふむふむ頷く。
「じゃあ次はユミの番だね。えと、とりあえず一週間前から話すと、あの時お兄ちゃん、ユミの事引っ張って助けてくれたでしょ?」
あの時というと俺がこの世界に来る直前、暴走ダンプカーの時だろう。
「あの後、何が起こったのか分からなかったよ。だってどう考えても轢かれる位置にいたのに、お兄ちゃん消えちゃうんだもん」
なるほど。つまり俺は転生したわけでは無くやはり転移していたという事か。
「それでお兄ちゃんが消えたって友達にメッセージ送ったら……」
「俺が初めからいない事になっていた。そういう事だよな?」
「そう! みんながみんなユミは一人っ子でしょって……。たまに話題にしたりしたのに」
え、なになに? 俺の事友達に話してくれてたのユミちゃんは? 愛されてるなぁ俺ってやつはさぁ。
「ねぇお兄ちゃん、なんかろくでもない事考えてない?」
「え? 別に」
「それならいいけど……あんまり鼻の下伸ばしてると気持ち悪いよ」
「こら、象さんに失礼だぞそれは」
「象さんは鼻の下じゃなくて鼻を伸ばしてるだけだから大丈夫」
ジト目を向けながらも律儀に俺のクソリプに返してくれてるあたり、やっぱり妹に愛されているどうも俺です。
「それでね、なんかもうほんとにお兄ちゃんなんていなかったのかなーってなりながら部活から帰ってたんだけど、いきなり景色が真っ白に光って何も見えなくなって、気付いたら白いローブを着た人たちに囲まれてて……」
白いローブ? これは見た事が無いな。
「ふむ、それで?」
「うん、そしたら今度は王様みたいな人がこっち見てて、その近くにいたすっごくでかい鎧の人がユミの方に歩いてきてて、最初は我慢したけど怖くなって逃げてたら見た事ない街で……」
なるほど……それで街をさまよっていたら今度は騎士団が追いかけてきた、そんなところか。
「了解。だいたい状況は把握した。ちなみに、こっちに来たのは昨日って事でいいか?」
聞くと、ユミはこくりと頷き、髪の毛がちょこんと揺れる。可愛い。
まぁそれは当たり前だからさておき、これあれじゃないかなって思うんだけど、他のラノベ読者ならどう思うかな?
白いローブってのは知らないけど、王様だろ? その近くにでっかい鎧の人だろ? ユミがいたのは王都だろ? ついでに言うと、この世界には魔王が存在する。
そう、ここまでくれば自ずとあの答えにたどり着く。ユミの転移は勇者召喚なのではないかと。さらに言えば俺はその巻き添えというテンプレなあれだ。まぁ巻き添えだったとすればちょっと時間軸が違うのは気になるが、まぁだいたいそういう事なんだろう。
でもなぁ、だとすればこれ、騎士団に大人しく捕まっといた方が良かったんじゃないのかな?
王都に滞在中、魔王についての本をたまたま見つけたので読んだのだが、魔王という存在が現れたのはおよそ五百年前に遡るらしい。
当時一番栄えていた都市が、一人の人物によって破壊しつくされた。本名は分からないが、それが今で囁かれている魔王だ。事態を危ぶんだ当時の世界中の王などの権力者は団結し、魔王を討伐するべく屈強な戦士や様々なスキルを駆使して戦う魔法使いをその元に送り込むが、魔王のユニークスキル【魔力とMPをゼロにする力】によって送り込まれた実力者達は軒並み魔王に葬り去られた。
魔力とMPがゼロになる事はほとんどのスキルが使用できない事を意味する。実力者達はもちろん個々の基本ステータスも高かったのだが、やはりスキルがあってこそ屈強なのであって、それを封じられた上に相手だけ使えるとなれば負けることは必至だったらしい。
そして持ち駒を失くした世界の権力者に打つ手はなくなり、誰もがもう終わりかと諦めた。
しかしそのさなか、とある賢者が一人の王の元へやってくると、【召喚術】というスキルとは仕組みの違う【魔術】の存在を明らかにした。魔術というのは、一定の環境下や、物質の位置、様々な要因を重ね合わせる事で発動できる、いわば複雑化したスキルみたいなものらしい。一説によればその魔術こそがスキルの原型ではないかという説もあるという。
まぁそれはさておき、その召喚術がいう所の勇者召喚だったわけで、召喚されたその勇者がたぐいまれなる力を用いて魔王を倒したという。
まぁ実はここらへんはあやふやで、割とおとぎ話にもなっていて様々な事が言われてるのだが、ただ一つ、魔王が倒されたり封印されたりする時、共通してある文言だけは書かれている。それは、
『五百年後、我はまた復活を遂げ人間共を消滅しつくすだろう』
無論言い方は様々だが、一貫してこれと同じ意味の言葉が俺の読んだ数冊の魔王本に記載されていた。それで、丁度そのおとぎ話から五百年経つ今、魔力とMPがゼロになる事件が起き出しているというわけだ。
まぁつまり、勇者がいないとこの人類、魔王によって崩壊させられるんじゃないかなぁ、という事を言いたい。
「どうなるのかな……これから」
深く考え込んでしまっていると、ふとユミが口を開いた。
見れば、その表情には不安や恐怖と言った感情がありありと見て取れた。
まぁ、答えは決まったな。というかそもそも最初からそのつもりか。
「安心しろユミ、俺がついてる限りお前を危ない目に遭わせたりしないし、怖い思いもさせやしない。だからお前はいつも通り、俺の妹でいてくれればいい」
「お兄ちゃん……」
ユミは普通の女の子だ。もし仮に何か凄い力を得ていたとしても、いきなり人類の命運をかけて魔王を討伐しろなんて酷な話だろう。
それに、都市を破壊しつくしてしまうとまで言われる相手と戦うなんて危ない真似、お兄ちゃんとして許すわけにはいかない。
だからこそ、俺はユミの事を絶対に守り切る。王に引き渡して勇者にするなんて事もさせない。例えその事で世界中が敵に回ったとしても。脇役は脇役らしく、せいぜい自分のために異世界で過ごさせてもらうさ――――
ユミを背負いつつ、超高度跳躍の連続を繰り返していると、だいたい百キロ程の距離がある家までは数時間でたどり着けた。
涼しい風が草を揺らす先には、購入してまだ一度も入った事のない一件の家がぽつりと佇んでいる。
いやしかし、まさかユミと二人でこの家に来ることができるなんて思いもしなかった。
「あれがお兄ちゃんの家?」
「おう」
「ほへぇ、けっこうお洒落だね。でもどうしたのあの家?」
「いや、まぁ……」
俺がドラゴン討伐した報酬で買ったんだぞ! とか行ってみたかったけど、妹相手に嘘をつくなどお兄ちゃん失格なので正直に話すと、ユミは納得したように頷く。
「なるほどねぇ、基本的に他力本願なお兄ちゃんらしい出来事だね」
何気に傷つくことを言ってくれるなこの妹……。割と事実なんだけどね!
「ま、まぁ確かにお兄ちゃんおご飯とか作ってもらう側だけど、流石にあれは断ったよ? でもなんか、その飼い主の人がやばくて……」
いや、やばいなんて生ぬるい。クレイジーと言った方が正しいだろう。
「まぁ、きっとその人にとってすっごい大事だったんだよその猫さん。お兄ちゃんはいいことしたよ」
「いやまぁ、流石に見返りが大きすぎた感もあるけど……」
何せ一軒家買えるほどだもんな……しかもローン無しだよローン無し。この世界にローンが存在するのかは知らないが。
「それよりお兄ちゃん、家の中見てみたい!」
ふと、ユミが肩をトントン叩いてくる。それは俺も同感だ。
「それもそうだな。家具も届いてるはずだし、とっとと行くか」
草原の中を歩き、家にたどり着くと、入る前に少しやる事があるので先にユミを中に入れる事にする。
「なぁユミ、そろそろ降りれるか?」
「あ、ご、ごめん……」
控えめに背中から降りたユミの頬が心なしか紅く染まっていた。
「さてはお兄ちゃんにずっと背負われてたのが恥ずかしくなったんだな?」
「……ッ! ち、違うし! お兄ちゃんの馬鹿!」
ユミはより一層赤面し、あたふたしながら言い放つと、パタパタと家の中に入っていく。
やれやれ、可愛い奴だなぁ。
微笑ましく妹の入っていった扉を眺めていると、やる事があったのを思い出したので目的の場所、家の裏まで歩く。
「たぶんこれかな」
裏には手のひらサイズ程の水晶が入った網があった。
それをちぎり、地面に叩きつけると、文字通りガラス細工の割れた音が鳴る。
テレポ結晶。不動産屋の転移スキルはどこでも好きに転移できるわけではないらしく、この結晶を置いたところにしか行けないらしい。この結晶もユニークスキルで作るんだとか。
一応プライバシー的なものと作れる最大数に制限があるから壊しておいてくれとの事だったのだ。
これでやる事は終わったので、いよいよこげ茶色の扉を開き家の中に入る。愛しのマイホームの内部と初対面だ。
「おお」
中は思った以上に綺麗だった。
まずテラスのある左側を見ると、一面ガラス張りで、多くの光が差し込み空間を明るく彩っている。
真ん中には俺が購入した赤褐色を持つ、ルフ鳥の羽根とギュウモの本革L字ソファーとレトロな風合いを醸し出すセンネンジュという木でできたという長机が配置されていた。どうやら運送業者が設置していってくれたらしい。数時間かけて選んだ甲斐あってなかなかに悪くない。
「けっこういい感じだねお兄ちゃん! ここも広いし!」
ふと、上からユミの声が聞こえてくる。
見ると、梯子を上れば行くことの出来る吹き抜けの手すりから、嬉々として顔を覗かせるユミがいた。
「あんまり手すりとかにもたれかかるなよ? 安全は保障できないから」
「大丈夫大丈夫!」
ほんとに大丈夫なんだろうな? まぁもしこれで折れてユミが落ちて来ても俺が死に物狂いで受け止めるから問題ないけど、まぁ念のためにね。
靴を脱ぐ場所は無いようなのでフローリングの上だが土足で上がると、奥の木扉の向こう側にはベッドが一個半程おけそうな部屋があり、窓際と反対側にある長方形の穴をくぐれば石畳みの台所がある。
あとは二階くらいかなと梯子を上ると、部屋の仕切りが無くただ一部屋だったので、屋根の形をした天井ではあるが、下と変わらないくらい広く感じた。立てる範囲も全然多そうだ。
ふむ、やはり総じていい感じの家だな。外装もさることながら内装も悪くない。テラスもあるし、これはかなりの優良物件を入手できたんじゃないだろうか。
ひとしきり家を見学し終わると、とりあえずユミと共にソファーに座った。色々聞きたい頃を聞くためだ。
「さて、それでユミ、とりあえずお前がこっちの世界に来た時の状況から教えてくれるか?」
「えと、その前にユミの方からちょっといいかな?」
「おう。構わないぞ」
妹の質問ならお兄ちゃんなんでも答えちゃう。
「ここって一体どこなの?」
「あー」
なるほど。まぁオタク知識に精通してる俺とは違ってユミは健全だからな。そう言うのも無理はない。
「そうだな。まずはこの世界は俺たちのいた日本のある世界とは別の世界なんだ」
「日本のある世界とは別の世界?」
ユミが首を傾げ頭に疑問符を浮かべるので説明に捕捉をする。
「まぁそうだな、不思議な国のアリスを想像してくれれば分かりやすいと思う。別にうさぎを追って来たわけでは無いだろうけど、元々住んでいた場所とはまったく違う環境の世界に落っこちたとでも考えてくれればいい」
「なるほどなるほど……」
ユミもなんとなく状況に納得がいったらしく、ふむふむ頷く。
「じゃあ次はユミの番だね。えと、とりあえず一週間前から話すと、あの時お兄ちゃん、ユミの事引っ張って助けてくれたでしょ?」
あの時というと俺がこの世界に来る直前、暴走ダンプカーの時だろう。
「あの後、何が起こったのか分からなかったよ。だってどう考えても轢かれる位置にいたのに、お兄ちゃん消えちゃうんだもん」
なるほど。つまり俺は転生したわけでは無くやはり転移していたという事か。
「それでお兄ちゃんが消えたって友達にメッセージ送ったら……」
「俺が初めからいない事になっていた。そういう事だよな?」
「そう! みんながみんなユミは一人っ子でしょって……。たまに話題にしたりしたのに」
え、なになに? 俺の事友達に話してくれてたのユミちゃんは? 愛されてるなぁ俺ってやつはさぁ。
「ねぇお兄ちゃん、なんかろくでもない事考えてない?」
「え? 別に」
「それならいいけど……あんまり鼻の下伸ばしてると気持ち悪いよ」
「こら、象さんに失礼だぞそれは」
「象さんは鼻の下じゃなくて鼻を伸ばしてるだけだから大丈夫」
ジト目を向けながらも律儀に俺のクソリプに返してくれてるあたり、やっぱり妹に愛されているどうも俺です。
「それでね、なんかもうほんとにお兄ちゃんなんていなかったのかなーってなりながら部活から帰ってたんだけど、いきなり景色が真っ白に光って何も見えなくなって、気付いたら白いローブを着た人たちに囲まれてて……」
白いローブ? これは見た事が無いな。
「ふむ、それで?」
「うん、そしたら今度は王様みたいな人がこっち見てて、その近くにいたすっごくでかい鎧の人がユミの方に歩いてきてて、最初は我慢したけど怖くなって逃げてたら見た事ない街で……」
なるほど……それで街をさまよっていたら今度は騎士団が追いかけてきた、そんなところか。
「了解。だいたい状況は把握した。ちなみに、こっちに来たのは昨日って事でいいか?」
聞くと、ユミはこくりと頷き、髪の毛がちょこんと揺れる。可愛い。
まぁそれは当たり前だからさておき、これあれじゃないかなって思うんだけど、他のラノベ読者ならどう思うかな?
白いローブってのは知らないけど、王様だろ? その近くにでっかい鎧の人だろ? ユミがいたのは王都だろ? ついでに言うと、この世界には魔王が存在する。
そう、ここまでくれば自ずとあの答えにたどり着く。ユミの転移は勇者召喚なのではないかと。さらに言えば俺はその巻き添えというテンプレなあれだ。まぁ巻き添えだったとすればちょっと時間軸が違うのは気になるが、まぁだいたいそういう事なんだろう。
でもなぁ、だとすればこれ、騎士団に大人しく捕まっといた方が良かったんじゃないのかな?
王都に滞在中、魔王についての本をたまたま見つけたので読んだのだが、魔王という存在が現れたのはおよそ五百年前に遡るらしい。
当時一番栄えていた都市が、一人の人物によって破壊しつくされた。本名は分からないが、それが今で囁かれている魔王だ。事態を危ぶんだ当時の世界中の王などの権力者は団結し、魔王を討伐するべく屈強な戦士や様々なスキルを駆使して戦う魔法使いをその元に送り込むが、魔王のユニークスキル【魔力とMPをゼロにする力】によって送り込まれた実力者達は軒並み魔王に葬り去られた。
魔力とMPがゼロになる事はほとんどのスキルが使用できない事を意味する。実力者達はもちろん個々の基本ステータスも高かったのだが、やはりスキルがあってこそ屈強なのであって、それを封じられた上に相手だけ使えるとなれば負けることは必至だったらしい。
そして持ち駒を失くした世界の権力者に打つ手はなくなり、誰もがもう終わりかと諦めた。
しかしそのさなか、とある賢者が一人の王の元へやってくると、【召喚術】というスキルとは仕組みの違う【魔術】の存在を明らかにした。魔術というのは、一定の環境下や、物質の位置、様々な要因を重ね合わせる事で発動できる、いわば複雑化したスキルみたいなものらしい。一説によればその魔術こそがスキルの原型ではないかという説もあるという。
まぁそれはさておき、その召喚術がいう所の勇者召喚だったわけで、召喚されたその勇者がたぐいまれなる力を用いて魔王を倒したという。
まぁ実はここらへんはあやふやで、割とおとぎ話にもなっていて様々な事が言われてるのだが、ただ一つ、魔王が倒されたり封印されたりする時、共通してある文言だけは書かれている。それは、
『五百年後、我はまた復活を遂げ人間共を消滅しつくすだろう』
無論言い方は様々だが、一貫してこれと同じ意味の言葉が俺の読んだ数冊の魔王本に記載されていた。それで、丁度そのおとぎ話から五百年経つ今、魔力とMPがゼロになる事件が起き出しているというわけだ。
まぁつまり、勇者がいないとこの人類、魔王によって崩壊させられるんじゃないかなぁ、という事を言いたい。
「どうなるのかな……これから」
深く考え込んでしまっていると、ふとユミが口を開いた。
見れば、その表情には不安や恐怖と言った感情がありありと見て取れた。
まぁ、答えは決まったな。というかそもそも最初からそのつもりか。
「安心しろユミ、俺がついてる限りお前を危ない目に遭わせたりしないし、怖い思いもさせやしない。だからお前はいつも通り、俺の妹でいてくれればいい」
「お兄ちゃん……」
ユミは普通の女の子だ。もし仮に何か凄い力を得ていたとしても、いきなり人類の命運をかけて魔王を討伐しろなんて酷な話だろう。
それに、都市を破壊しつくしてしまうとまで言われる相手と戦うなんて危ない真似、お兄ちゃんとして許すわけにはいかない。
だからこそ、俺はユミの事を絶対に守り切る。王に引き渡して勇者にするなんて事もさせない。例えその事で世界中が敵に回ったとしても。脇役は脇役らしく、せいぜい自分のために異世界で過ごさせてもらうさ――――
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