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異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める

じんむ

第七話 最高の出会い

 家を買ったはいいが、まだ内装すら見ておらず、ここ一週間は騎士団本部近くの宿で泊まっている。取引の後、不動産屋が転移スキルで送り届けましょうと提案してくれたが断った。
 色々と目的はあるが、まず一つ目はこの世界についてある程度把握したいという事。二つ目は身分証の発行。三つ目は家具等の購入だ。
 一つ目も大まか完了したし、三つ目は簡単なソファーと机、あとジャージだと浮くので無難な町人服も買って完了し、あとは二つ目。購入した後すぐに庁舎に行ったので、発行されるのは今日のはずだ。

 残金はおよそ大金貨四十二枚。ソファーと机が案外高く最初より多少減ってしまったが、まぁ、それはいい。残りわずか四十二枚、されど四十二枚。日本円でだいたい四百二十万だ。とりあえずそのうち四十枚くらいは銀行に預けようと思っている。このお金は今持てる俺の重要なライフラインの一つなので、安全に保管しておきたいのだ。

 俺は既に見慣れた扉を開き宿屋を出ると、怒号にも似た声がまだ閑散とした朝の街路に響いていた。
 見ると、道をびっしり覆いつくした重装備の群れが、台の上に乗る中年男性を仰ぎ叫んでいた。

「番兵によれば王都の外へと出た怪しい人物はいないとの事だ。恐らくまだ王都内に潜伏しているだろう。相手は凄まじいステータスの持ち主、総員、万全の体勢で臨め!」
「イエス!」
「それでは散れ!」
「イエス!」

 金属が擦れる音や、土を踏みしめる音が騒がしく反響する。
 あれは騎士団らしい。何かあったのか? 
 俺の目の前を走りゆく騎士団を眺めていると、やがて群れは完全に消えていった。
 散った後には数名と、先ほど号令をかけていた中年の男が残り何やら話をしており、その中にエレルさんの姿もあった。
 そういえばお金返してなかったから返さないと……って言っても今は忙しそうか?
 どのタイミングで返そうかと思案していると、やがて残りの騎士団の人が屋根に飛んだり、街路を走ったりして四方に散っていく。
 しかしその中、エレルさんは俺に気付いてくれたらしくこちらに駆け寄ってきた。

「ユタカ君じゃないか! 今までどうしていたのだ!?」

 おお、名前まで覚えてくれてるとはこの人いい人だなほんと。

「いやーまぁ色々とありましたけど、割とうまくいってます」
「そうかそれはよかった。それで、あれから考えたのだが、ある事を思いついてな。その様子じゃ恐らく宿屋暮らしなのだろう?」
「ああ、その事なんですけど、なんか成り行きで家を手に入れたんで問題なくなりました。今はちょっと用事があって滞在してるだけなんで」

 言うと、エレルさんは予想外だったのか目を見開いた。

「そ、それは本当か!?」
「はい」
「そ、そうか……」

 正直に肯定するが、エレルさんがどこか残念な様子を見せる。
 なんかこの様子だとけっこう考えてくれてたみたいだな。もっと早く訪ねるべきだったか。色々とやる事があったから忘れてた。

「なんかすみません、色々と考えてもらってたみたいなのに」
「あーいやいや大したことだから構わないよ。家が無いなら狭いが私の家に住まないかと思っていただけだからな」
「え」
「ん?」

 あっれれー、聞き間違いかな? 今この人、大変けしからん事を言った気がするぞー?

「家に……?」
「ああ、私の家に住まないかと」

 言ってたぁ! ほんとに言ってたよこの人! おいおい冗談だろ? そんなんだったらあんな家なんか購入したかったぞ!? しかも狭い家とか言ってたよな? 謙遜だとは思うけどもし仮にワンルームとかだったりしたらランデブーひでぶぅッ!!
 いやきっとあれだ、私の家にすまない、申し訳ないって言ってるだけであってきっとそんな十八禁展開を助長するような発言はしてない! そう思っておこうそうしよう! え、文脈と意味が通らない? 知るか! 
「どうしたのだ?」
「あー、いやいや、アハハ」

 色々と脳内が荒れ狂っていたのでとりあえず愛想笑いでごまかす。

「そ、それより何かあったんですか? さっきすごい騎士団の人がいましたけど」

 とりあえず何かを悟られる前に話題を逸らすために言うと、エレルさんはどこかばつが悪そうに口を開く。

「いやーそれなんだが、今回のこれは機密事項でな……。ユタカ君とは言え、口外できないのだ」
「あーそうなんですね。すみませんそんな事聞いちゃって」
「いやいや、ユタカ君は何も悪くないよ。ただ、危険な事態にはならないだろうから、そこは安心してくれ」
「それなら良かったです」

 何かしらはあったらしいが、そこまで危険じゃなさそうだからまぁいいか。
 それより借りてたお金だよな。早く返さないと。

「あとこれ、借りていたお金返しておきますね。もらってると悪いので」
「それくらい気を遣わなくてもよかったのだぞ?」
「まぁでも、なんか悪いんで」
「それならいいが」

 借りた分だけ入れた巾着袋を返すと、エレルさんはプレートアーマーに付属しているマントを軽く揺らす。

「では私もそろそろ行かねばならないから失礼するよ。もし困ったことがあったらいつでも本部に来てくれユタカ君」
「はい、ありがとうございます」
「ではまたどこかで会う事があれば」

 言うと、エレルさんはマントをはためかせ宿屋の屋根の上に登って行った。かっこいいなぁ。
 その後、庁舎に向かうと、晴れて身分証を手に入れ銀行にお金を預け入れることが出来た。


 ×  ×  ×


「へぇ、やっぱ活気あるんだなぁ」

 ようやくお金を預けることが出来たので、人の多い所に行ってみようとやって来たのは王都西区。
 ここノルストウィステン王国の王都ルーメリアは海に面していることもあってか貿易が盛んだ。特に港のあるこの西区には、軒並み露店が連なる露店街や、飲食店の立ち並ぶ繁華街などが存在し、この世界の人々には"天下の板元"と呼ばれ親しまれているらしい。

「ヘイ兄ちゃん、ラビトン足の串刺しはどうだい?」
「あ、どうも」

 とりあえずぶらぶら露店街を歩いていると、腕っぷしの言い無精ひげのおじさんが串にささった何やらを付き出してくるので受け取る。

「銀貨六枚だよ。受け取っちまったんなら売りものにならないから払いな! ガッハッハ!」
「やりおるな……」
「毎度ぉ!」

 半ば強引だがたてつく気も無いので大人しく払うと、暑苦しい笑顔が返ってくる。まぁ、悪い気はしないさ。
 時々買い食いしつつも露店街を練り歩く。
 しばらく雰囲気を楽しんでいると、目の前で一層にぎやかに人が集まっているところがあった。
 何があるのかと俺もその人ごみの中をかき分けてみると、人混みの中心には二人の男がいた。
 ただし、一人は仰向けになったまた動かない。

「っしゃあ! 十秒経ったぜ! 俺の勝ちだ!」

 どうやら喧嘩でもしたらしい。仰向けの男の前で燈色の短髪男が得意げに腕を見せつけている。

「さーて、このクレメン様にかかってくる奴はもういないのかぁ!?」

 その言葉に動こうとする者はいない事から、このオレンジ髪はかなり強いと思われる。
 あまり血の気が多いのは好まないのでさっさと退散しようとすると、オレンジ髪と目が合った。
 な、なんか嫌な予感が……。

「なんかお前強そうだな! いいぞかかってこい!」
「おお、また始まるぞ!」
「おら行け行けぇ! あの暴れクレメンをやっちまえー!」

 全身の温度が急激に冷めていく俺の身体とは対照的に、周囲に温度は激しくヒートアップする。
 動けないでいると、不意に背中を誰かに押され、群衆の取り囲む輪の中に入りオレンジ髪の傍まで来てしまう。

「ほお、見ない顔だなー? もしかしてあまり顔出さない手練れの冒険者かなんかか?」
「あー、えーっと……」

 真っ白になりそうな頭の中をフルに回し、何とかこの状況から逃れる方法を考えると、意外と簡単に答えは出た。

「あ、あーれなんだぁ!?」

 ビシッと空に向けて指をさすと、群衆のざわめきがピタリと止まる。しかし視線は指の先ではなく、俺の方に向いていた。
 そんな中、一人だけ俺の指先に目をやる人物がいた。

「お、なんかあんのかー? 空か?」

 オレンジ髪の男だった。
 しめたと俺はすぐさま群衆の中にダイブする。

「あ、こいつ逃げるぞ!」

 声がかかった時には既に俺は群衆の中に入っていた。
 時々気付いた人が俺を押し戻そうとするが、持ち前のチキンスキルでうまい事すり抜けると、すかさず疾走する。
 喧嘩なんか野蛮な事はまっぴらごめんだよバーカバーカ!! 能ある鷹は爪を隠すんだよなぁ!
 などと心の中で一人空しく叫びつつ、露店街を抜け、繁華街へと入りそのまま路地裏へと駆けこむ。

「はぁ……ッ。はぁ……ッ」

 ここまでくれば安心だろう。まったく、下手に出歩くもんじゃねぇな。まさかあんな形で巻き込まれそうになるとは。これからは気を付けよう。
 かといってこんな路地裏にいるのもけっこう危ないよな。まさか追ってきては無いだろうが、念のため確認してから外に……。

「あわっ」

 ふと、後方で何やら可愛げのある声が聞こえる。
 なんというか、どっかで聞いた事があるような無いような……。
 声の主もどうすればいいのか分からないらしく立ち止まっているようなので、後ろをゆっくり振り返ってみると、思わず心臓が飛び出しそうになる。

 何故なら、そこには黒髪を可愛らしく結いおさげにし、制服・・を着たまだあどけなさの残る可愛い可愛い女の子がいたからだ。年齢にして十五歳、慎重は152センチと少し小柄。体重は40.8キロでスリーサイズは上から……いやこれ以上は良しておく。
 この女の子の……君の、名前は……っ!

「ユミ!」
「お、お兄ちゃん? やっぱり、そうなの?」

 そう、目の前にいた女の子は紛う事なき俺の妹だったのだ。

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