異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める
第三話 まさかの報酬
さて、とりあえず騎士団本部から出たはいいが……。
「はあぁぁぁぁこれからどうすりゃいんだよおぉぉぉぉ……」
ため息が自然と湧き出てくると、思わず地面に四肢が密着する。
なんとかしますとか言っちゃったけど、なんとかできるわけないんだよなぁ。こんな見ず知らずの土地、しかも異世界で携帯もなければパソコンも無い。向こうの世界なら何か分からなかったり道に迷ってもヘイSiriって言ったら一発で解決だけど、この世界ではそれができない。
そして何より妹がいない。これまで生きる希望とか妹だけだったし、なんなら異世界じゃなくて地獄だったとしても妹さえいればいい。
「ニャー」
ふと、傍らで何かの鳴き声が聞こえたので見てみると、あの時横断歩行で丸まっていた猫、あるいはここは異世界なのでそれに似ただけかもしれないが、とにかく小動物がこちらを見つめていた。
よく考えればこいつさえいなけりゃユミが道に飛び出すことも無かっただろうから自然、俺もあんな事にならなくて済んだんだよなぁ……。こいつさえいなければユミと離れなくてすんだんだよなぁ……ハハ……ハハッ。
――――許さん! 八つ裂きにしてくれる!
「にゃぁ」
どうしてやろうと両手を構えると、つぶらな瞳をこちらに向けてひと鳴き。
「可愛すぎかよちくしょう!!!」
勢いのまま手を猫に向けて発射する。
「おーよしよし……」
発射した手を首へと当て、その周りを撫でてやる。
猫っぽい生き物は気持ちよさそうに目を細めだした。妹もそうだけど小動物も可愛いよね。
「も、もしかしてコングちゃんザマス!?」
ふと、前方から声が聞こえたので撫でつつも顔を上げる。
見れば、少し先では裕福そうな服を身に纏ったふくよかなおばさんが佇んでいた。
厚化粧で汗もだらだら垂れていたので自然と目はまたさっきの小動物の方へ向く。ハハッ、どっちがコングだよ。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」
目の前の可愛い生き物を愛でていると、不意に影がかかった。
臭くはないがきつい香水の匂いが鼻をつく。
再度顔を上げると、先ほどのババ……おバさんが凄まじい形相でこちらを見下げていた。
「ハァッ……あなたが、あなたがっ……ハァ、……ザマス、わね」
息切れのせいでうまく言葉が聞き取れない。
「え、えーっと……アハハ」
第六感がこいつはやばいと告げていたが、人間はかくも弱い生き物なのか、腰が抜けてその場を動けずただただ笑う事しかできなかった。
× × ×
絢爛豪華な家具が置かれ艶やかに彩られた部屋の中、ひとり俺は座っていた。
目の前にはほわほわと湯気が立ち昇るティーカップと高そうなクッキーが置かれており、優し気な紅茶の匂いが鼻腔を突き抜ける。
さて、どうしてこうなったのだろう。
確か猫っぽい生き物と遊んでいたら急に化け物……いやいや、おばさんに凄まじい力で引っ張られて、でかい屋敷に連行されたんだったか。それで、しばらくこの部屋で待っとくザマスと言って一人にさせられたんだったな。
うん、俺は一体これからどうなっちゃうのかな……。もしかして奴隷として売り出されたりとかじゃないよね?
「ザマス!」
ふと、謎の掛け声と共に彫刻の施された高価そうな扉が開く。
先ほどのおばさんだった。
厚化粧なのは変わりないが、汗は既に引き、服も着替えたのか先ほどとは違う身なりで息切れもしておらず、幾分かマシな雰囲気にはなっている。それと何なのか片手には大きめの布袋が携えられている。
「申し訳ないザマス。この子を探して走り回っていたのでさぞかし見苦しい姿を見せてしまったと思うザマス」
「あ、いえいえ」
おばさんの肩からすちゃっと先ほどの猫っぽい動物が飛び降りると、窓際のソファーまで歩いていき丸くなる。なるほど、この人のペットだったってわけか。
語尾に文法の滅茶苦茶なザマスつけるのはなんとなく気になるが、そういう理由であんな姿になってたのなら仕方ない。すみません、ゴジラ亜種とか言って……。あ、言ってなかったっけ。ついつい本音が出ちゃったよ。
「それで、ここに呼んだのはお礼をするためザマス。改めまして、コングちゃんを捕まえてくれてありがとうごザマス」
ありがとうごザマスって奇怪な表現する人だなと感想を抱きつつおばさんが向かいの席に座るので、俺もできる限りの居住まいをただす。
別に捕まえようと思って捕まえたわけじゃなかったんだけどな……。
「これがお礼ザマスが……」
布袋を持ち上げ机に置くと、ティーカップが軽く音を立てる。
「大金貨五百枚ザマス」
「え……?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
およそ口語が一致してるのなら大金貨と言うのはかなり名前からしてお高いのでは。
「ん、もしかして足りなかった……」
「いやいやいやいやいや!」
凄い事をおばさんが言いそうだったのですかさず遮る。
「ちょっと、待ってください。ちなみにこれ、どれくらいの価値が? 自分ちょっと頭打って記憶を失くしたばかりで分からないのですが……」
魔王の害意という名前はなんとなく不吉なので伏せておく。害意にあたれらた人間が差別されてないとも限らないからな。まぁ頭打って記憶失くしたっていうのもそれはそれで胡散臭い気もするが……。
「もしや害意にあてられた方だったザマス? それはさぞかしお辛かったザマしょう」
「あー、アハハ……」
一瞬で見破られたけど、口ぶりから別に害意にあてられた人間に対する偏見とか差別は無いようで良かった。
「大金貨五百枚と言っても大したことはないザマス。たかだか庶民の家が買えるくらいザマス、少量で申し訳ないザマス」
「あーなるほどー」
たかだか庶民の家を買えるくらいねー。
「それじゃあいただきま……ってダメに決まってるでしょ!? 俺、別に猫と遊んでいただけですよ!? それなのにそんな大金受け取れません!」
あまりにもさらっとおばさんが言うから普通に受け取りかけたわ! 庶民の家が買えるくらいって日本ならどれくらいかな、どこまでが庶民かは分からないけどだいたい五千万くらい!?
「遠慮はよくないザマス」
「いやいや、これは流石に遠慮しますよ!!」
大金貨百枚くらいとかだったら知らないけどね!
「何故遠慮する必要があるザマスか? もしあなたが家族を助けられたら少しばかりのお礼はするザマしょう?」
「いや少しばかりってどこがですか!? 一軒家買えるんですよ一軒家! それと別に俺捕まえたわけじゃなくてほんと、たまたま、なんでしたっけ……コングちゃんが来てくれて撫でてただけですから!」
「つまり引き留めてくれたザマス」
「それにしたってこの値段はですね!?」
ほんと、なんなのこのおばさん! 淡々と強烈な事言いやがって!
「とにかく受け取るザマス! さもなければわたくしの気が収まらないザマス!」
グイグイと大金の入った袋を片手で押し付けてくるので軽い押し合いになる。
しかしどういう筋力をしてるのか、唐突におばさんが机の上に土足で乗っかると、ウッホと俺を片手で持ち上げると、大金貨袋をもう片手にずかずかと屋敷の中を走っていく。
「コングちゃんを捕まえていただきありがとうごザマした!」
そう言いながら俺と共に大金貨を屋敷の外に投げ出すと、艶やかな門はバタリと閉じられてしまった。
自分で言っちゃなんけど恩人だと思うならもうちょっと丁寧に扱ってくれませんかね……アイタタ。
痛む腰をさすりつつ立ち上がると、大庭園の中、大金貨袋と俺だけが取り残されていた。
しばらく袋を見つめると、とりあえず肩に背負う。
「おっも……よく片手で持てたなあのマダム」
ごちりつつ豪邸を背中に庭園の中を歩く。
ここまでされて俺に突き返す気なんてさらさら起きませんでした。
「はあぁぁぁぁこれからどうすりゃいんだよおぉぉぉぉ……」
ため息が自然と湧き出てくると、思わず地面に四肢が密着する。
なんとかしますとか言っちゃったけど、なんとかできるわけないんだよなぁ。こんな見ず知らずの土地、しかも異世界で携帯もなければパソコンも無い。向こうの世界なら何か分からなかったり道に迷ってもヘイSiriって言ったら一発で解決だけど、この世界ではそれができない。
そして何より妹がいない。これまで生きる希望とか妹だけだったし、なんなら異世界じゃなくて地獄だったとしても妹さえいればいい。
「ニャー」
ふと、傍らで何かの鳴き声が聞こえたので見てみると、あの時横断歩行で丸まっていた猫、あるいはここは異世界なのでそれに似ただけかもしれないが、とにかく小動物がこちらを見つめていた。
よく考えればこいつさえいなけりゃユミが道に飛び出すことも無かっただろうから自然、俺もあんな事にならなくて済んだんだよなぁ……。こいつさえいなければユミと離れなくてすんだんだよなぁ……ハハ……ハハッ。
――――許さん! 八つ裂きにしてくれる!
「にゃぁ」
どうしてやろうと両手を構えると、つぶらな瞳をこちらに向けてひと鳴き。
「可愛すぎかよちくしょう!!!」
勢いのまま手を猫に向けて発射する。
「おーよしよし……」
発射した手を首へと当て、その周りを撫でてやる。
猫っぽい生き物は気持ちよさそうに目を細めだした。妹もそうだけど小動物も可愛いよね。
「も、もしかしてコングちゃんザマス!?」
ふと、前方から声が聞こえたので撫でつつも顔を上げる。
見れば、少し先では裕福そうな服を身に纏ったふくよかなおばさんが佇んでいた。
厚化粧で汗もだらだら垂れていたので自然と目はまたさっきの小動物の方へ向く。ハハッ、どっちがコングだよ。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」
目の前の可愛い生き物を愛でていると、不意に影がかかった。
臭くはないがきつい香水の匂いが鼻をつく。
再度顔を上げると、先ほどのババ……おバさんが凄まじい形相でこちらを見下げていた。
「ハァッ……あなたが、あなたがっ……ハァ、……ザマス、わね」
息切れのせいでうまく言葉が聞き取れない。
「え、えーっと……アハハ」
第六感がこいつはやばいと告げていたが、人間はかくも弱い生き物なのか、腰が抜けてその場を動けずただただ笑う事しかできなかった。
× × ×
絢爛豪華な家具が置かれ艶やかに彩られた部屋の中、ひとり俺は座っていた。
目の前にはほわほわと湯気が立ち昇るティーカップと高そうなクッキーが置かれており、優し気な紅茶の匂いが鼻腔を突き抜ける。
さて、どうしてこうなったのだろう。
確か猫っぽい生き物と遊んでいたら急に化け物……いやいや、おばさんに凄まじい力で引っ張られて、でかい屋敷に連行されたんだったか。それで、しばらくこの部屋で待っとくザマスと言って一人にさせられたんだったな。
うん、俺は一体これからどうなっちゃうのかな……。もしかして奴隷として売り出されたりとかじゃないよね?
「ザマス!」
ふと、謎の掛け声と共に彫刻の施された高価そうな扉が開く。
先ほどのおばさんだった。
厚化粧なのは変わりないが、汗は既に引き、服も着替えたのか先ほどとは違う身なりで息切れもしておらず、幾分かマシな雰囲気にはなっている。それと何なのか片手には大きめの布袋が携えられている。
「申し訳ないザマス。この子を探して走り回っていたのでさぞかし見苦しい姿を見せてしまったと思うザマス」
「あ、いえいえ」
おばさんの肩からすちゃっと先ほどの猫っぽい動物が飛び降りると、窓際のソファーまで歩いていき丸くなる。なるほど、この人のペットだったってわけか。
語尾に文法の滅茶苦茶なザマスつけるのはなんとなく気になるが、そういう理由であんな姿になってたのなら仕方ない。すみません、ゴジラ亜種とか言って……。あ、言ってなかったっけ。ついつい本音が出ちゃったよ。
「それで、ここに呼んだのはお礼をするためザマス。改めまして、コングちゃんを捕まえてくれてありがとうごザマス」
ありがとうごザマスって奇怪な表現する人だなと感想を抱きつつおばさんが向かいの席に座るので、俺もできる限りの居住まいをただす。
別に捕まえようと思って捕まえたわけじゃなかったんだけどな……。
「これがお礼ザマスが……」
布袋を持ち上げ机に置くと、ティーカップが軽く音を立てる。
「大金貨五百枚ザマス」
「え……?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
およそ口語が一致してるのなら大金貨と言うのはかなり名前からしてお高いのでは。
「ん、もしかして足りなかった……」
「いやいやいやいやいや!」
凄い事をおばさんが言いそうだったのですかさず遮る。
「ちょっと、待ってください。ちなみにこれ、どれくらいの価値が? 自分ちょっと頭打って記憶を失くしたばかりで分からないのですが……」
魔王の害意という名前はなんとなく不吉なので伏せておく。害意にあたれらた人間が差別されてないとも限らないからな。まぁ頭打って記憶失くしたっていうのもそれはそれで胡散臭い気もするが……。
「もしや害意にあてられた方だったザマス? それはさぞかしお辛かったザマしょう」
「あー、アハハ……」
一瞬で見破られたけど、口ぶりから別に害意にあてられた人間に対する偏見とか差別は無いようで良かった。
「大金貨五百枚と言っても大したことはないザマス。たかだか庶民の家が買えるくらいザマス、少量で申し訳ないザマス」
「あーなるほどー」
たかだか庶民の家を買えるくらいねー。
「それじゃあいただきま……ってダメに決まってるでしょ!? 俺、別に猫と遊んでいただけですよ!? それなのにそんな大金受け取れません!」
あまりにもさらっとおばさんが言うから普通に受け取りかけたわ! 庶民の家が買えるくらいって日本ならどれくらいかな、どこまでが庶民かは分からないけどだいたい五千万くらい!?
「遠慮はよくないザマス」
「いやいや、これは流石に遠慮しますよ!!」
大金貨百枚くらいとかだったら知らないけどね!
「何故遠慮する必要があるザマスか? もしあなたが家族を助けられたら少しばかりのお礼はするザマしょう?」
「いや少しばかりってどこがですか!? 一軒家買えるんですよ一軒家! それと別に俺捕まえたわけじゃなくてほんと、たまたま、なんでしたっけ……コングちゃんが来てくれて撫でてただけですから!」
「つまり引き留めてくれたザマス」
「それにしたってこの値段はですね!?」
ほんと、なんなのこのおばさん! 淡々と強烈な事言いやがって!
「とにかく受け取るザマス! さもなければわたくしの気が収まらないザマス!」
グイグイと大金の入った袋を片手で押し付けてくるので軽い押し合いになる。
しかしどういう筋力をしてるのか、唐突におばさんが机の上に土足で乗っかると、ウッホと俺を片手で持ち上げると、大金貨袋をもう片手にずかずかと屋敷の中を走っていく。
「コングちゃんを捕まえていただきありがとうごザマした!」
そう言いながら俺と共に大金貨を屋敷の外に投げ出すと、艶やかな門はバタリと閉じられてしまった。
自分で言っちゃなんけど恩人だと思うならもうちょっと丁寧に扱ってくれませんかね……アイタタ。
痛む腰をさすりつつ立ち上がると、大庭園の中、大金貨袋と俺だけが取り残されていた。
しばらく袋を見つめると、とりあえず肩に背負う。
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