異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める

じんむ

第二話 魔王の害意

 四角い石造りの空間の中、目の前にあるのは机と三本のろうそくだけ。俺を連行した騎士団と思われるおっさんは何やら俺に水晶を触らせた後どこかへ行ってしまった。
 とりあえず深呼吸をする。

「すうぃぃぃぃはあぁぁぁぁぁ……ゲホッ、ゲホッ」

 ちょっと埃っぽいな……。
 まぁいいや、とりあえず少しは落ち着いた。妹のいない異世界に希望もクソも無いが、たぶん、あの時ユミの事を助けることが出来た結果ここにいるわけで、あいつに平穏な日々を過ごしてほしかった俺としてはこの状況は喜ぶべきことなのだろう。向こうの世界がどうなってるのかは分からないが、これを転移だとすればあいつに凄惨な光景を見せずには済んでいるはずだ。まぁ転生の可能性もぬぐえない以上手放しにホッとは出来ないわけだが。

 でも一体誰が俺をこの世界に呼んだんだ? 転生のテンプレは神様が哀れな死を遂げた俺を異世界でやり直させてくれるとかそんな感じだとは思うけど、生憎神様との接触は無かった。勇者召喚という線もテンプレだが周りに王族はいない。

「ふむ、君もそうだったんだな」

 色々と思案していると、不意に木の扉が開けられた。
   見ると、先ほど俺をこの部屋に入れたおっさんとは違い、若い女性の騎士団の人が入ってきた。長い蒼髪は腰のあたりまで伸び、プレートアーマーごしからでもわかる豊かな山からはスラーっと細い身体が続いている。こちらをまっすぐと見つめる視線には気高さもまた感じた。

「君のステータスを見せてもらったわけだが……」

 そう言われて差し出されるのは何やら数字と幾何学のような模様が刻まれた紙である。ステータスと言うからには俺の能力値が記されてるんだろうけど……。

「あの、字読めないです……」

 話し言葉が一致しているようだったのでもしかして日本語表記、悪くても英語表記なのではと期待したが、そこまで甘くなかった。ちょっと困る……。

「なるほど、そこまでやられている、か」

 女の人が症状を吟味する医者の様に言うと、俺の額に指を当ててくる。

「ユニークスキル【メモリーセーブ】」
「……」

 あれ、この人今何したんだろう。
 疑問の眼差しを向けていると、女の人の方もまた怪訝な表情をし、あろうことか今度は目を閉じこちらにゆっくりと顔を近づいてくる。

「動くなよ」

 え、何? ちょっと待って、もしかしてキッスですか? このお姉さんいきなり大胆過ぎませんね!? 俺にはユミという最愛の妹がいるからそういう事をするのは断じていけないことでありましてな! いただきます!!

「ユニークスキル【メモリーセーブ】」

 ふと、ひたいに暖かみを感じ、ジャスミンのような清々しい香りが鼻孔を突き抜ける。
 見れば、女の人は熱を測るように俺の額に自らの額を当てているらしかった。
 同時に、何やら頭の中で複数の文字列がぐるぐる渦巻く。

 少しの間、視界が揺れる。
 だがすぐに元の風景が戻ると、女の人の額はすっと離れていった。
 キスなんてわけでは当然無かったわけですが……まぁなんといいますか、割とこれでも十分すぎるんですね……。

「よし、成功したみたいだな。紙を見てみてくれ」

 言われたのでその通りに紙を見てみると、なんという事か字が理解できるようになったらしく、先ほど理解できなかった幾何学が言葉として頭にすんなりと入っていく。

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ユタカ
Lv5
年齢:18
出身:不明
HP 21/21
MP 0/0

攻撃力11
守備力3+1  up 綿の服セット
素早さ14+1 up ただの靴
魔力 0

スキル

ユニークスキル 〖システマ=コンタクト〗

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「私のユニークスキルは自分の記憶を相手に刻み込むスキルだ。今渡したのは文字の記憶だけだがな。与えればきりがない上に、流し込み過ぎるとお互い害を及ぼす可能性も出てくる」
「なるほど……」

 ユニークスキルというくらいならたぶんこの人の固有の能力なのだろう。メモリーセーブとか言ったか、コミュ障には歓喜だな。ステータスを見る限り俺も何かあるみたいけどその能力が良かった。

「それで話は戻るが、君は恐らく魔王の害意にあてられている」
「魔王の害意?」
「ああ。害意にあてられた人間は。人によって訳の分からない事を口走ったり、記憶の大半、あるいは全てが欠落。そして何より、そのステータスが示すように出身地が不明になってMPと魔力がゼロになる。君も先ほどは奇行に及びかなり重度だったらしいが、今は落ち着いたみたいだし、まだ喋る能力があるのも幸いだったな。記憶は個人差があるからともかくそういった奇行などは共通して一時的なものだからもう安心だろう」
「アハハ……」

 奇行と言われてただただ苦笑いをするしかない。
 それはともかく、確かに出身地不明ってなって魔力とMPの欄は0になってるんだな。なんかショックなんだけど。いやでも今まで魔力とかそういうのがある世界にいなかったから当然といえば当然の結果だよなこれ……。
 まぁそれはともかくとしても、魔王の害意とやらは聞き慣れない言葉だよな。ちょっとだけ聞いてみるか。

「その魔王の害意ってどういう人たちがあてられるんですか?」
「一から説明すると長くなるが、まぁ簡単に言えば魔王と運悪く接触した人間達が害意にあてられる」
「なるほど……」

 この世界にはどうやら魔王という概念があるらしい。という事は勇者とかもいるのか?

「ああそうか、記憶が欠落してるのであれば魔王という存在も分からないか……。かといって私たちも詳しい事を知っているわけでは無いのだがどこから伝えればいいだろうか……一応まだ記憶を流し込むことは可能だが……」
「いや、もう大丈夫です」
「ん、もしかして記憶の方が戻ったか?」

 え、戻るって害意にあてらてた記憶ってそんな簡単に戻るもんなんですか?
 一瞬そんな言葉が口をつきそうだったが、なんとなく生意気な気がしたので押しとどめて理由を述べる。

「戻っては無いんですけど、一度に色々つめこまれても何がなんだかって感じになると思うんで」

 言うと、女の人は顎をさすり頷く。

「うむ。それもそうだな。すまない」
「いやいや、謝る事は無いですよ」

 むしろ丁寧に色々と教えてくれようとする姿勢は嬉しい。ただ生憎、俺は魔王とやらに興味は無い。何せ、俺はラノベの主人公ほどのポテンシャルなんて持ち合わせてないからな。だからこそ、そういう厄介ごとに首を突っ込むのはあまりおこがましい話というものだ。それにステータスもなんかほんとにモブって感じだし……。まだ可能性がありそうなのはこのユニークスキルの【システマ=コンタクト】とやらだけども……。

「あ、でも一つだけ。このシステマ=コンタクトってどういうスキルか分かったりしませんか?」

 聞くと、女の人は申し訳なさそうに答えてくれる。

「すまない、それは初めて見るユニークスキルなのだ。本来なら物心ついた頃くらいに発動条件、及び効果を自然と理解するのだが、君は記憶が消えているからな……」
「そうですかー……」

 できればチートである事を願うけど、もしそうだとしても発動条件とやらも存在するらしいから現状意味ないな。この女の人みたいに唱えたらできる奴だったら分かりやすくていいんだけど、まぁ今度人気のない所で一回やってみるか。

「ふむ……」

 紙に記された文字列にげんなりしていると、どこか難しい表情をして女の人が腕を組んでいた。

「どうかしましたか?」
「あ、ああ。いや、あれだ。本来なら害意にあてられた人間は我々の方で生活空間などを提供し支援するのだが、いかんせん今現在その場所がいっぱいなのだ。増築も行われるがあとどれくらいかかるか……」
「なるほど」

 自らの世界に浸っていたのが恥ずかしかったのか、女の人は若干言葉に詰まりながらも説明してくる。
 そういう事だったのなら惜しかった。正直のこの異世界に来たはいいけど右も左も分からない状況だから、そういう場があれば情報収集というか、生活にも馴染みやすかっただろうしな。
 しかしどうするか、こんな状態で流石に異世界で生きていける気がしない。……いやというかそもそも既に妹いない時点でどうでもいいんですけどね、ハハッ。
 いやそれでも異世界に対して憧れはあったしある程度生きていければいいなとはやっぱり思うか?

「うーむ……」

 行く先を憂いていると、女の人がまたしても唸りだす。
 あまりに深く考え込んでそうだから流石に気の毒になってきた。とりあえず適当に安心させておこう。

「大丈夫ですよ、なんとかしますんで」
「いやしかし……」
「記憶はなくなっても言葉は話せますからなんとかなりますよ。文字も読めるようにしてもらいましたからね」

 それでもなお悩んだ様子の女の人をどう納得させようかと考えていると、扉から子気味に良く音が聞こえた。

「入ります」
「ああ、どうした」

 女の人が言うと、扉から騎士団と思われる男性が顔を覗かせる。

「すみません、団長から招集がかかったのでそろそろ」
「団長からか。しかし害意にあてられた者を放っては……」
「あ、大丈夫ですよー。どうぞ行ってください」

 害意にあてられた者というのは俺の事と思われるので言うが、未だに女の人の瞳には迷いが見受けられる。この人ほんといい人なんだなと素朴な感想を抱いていると、部下と思われる男が「すみません、時間の方が」と言うのでやがて決心したように一回頷いた。

「すまない。とりあえず少しばかりだがこれを渡しておく。これで三日は宿に泊まることができるだろう。此処から出て左に幾らか進めば宿屋がある」

 矢継ぎ早に言いつつ巾着袋を置いていくと、女の人は扉の取っ手へと手をかけるが、はたと止まる。

「それとまだ名乗っていなかったな。私の名はエレル=フォート。もし大変なようならまたここへ来てくれ、その時は力になる。それでは失礼するよ」

 それだけ言い残すと、エレルさんは足早に部屋を出ていったので、少し座った後に俺も部屋を出る事にした。

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