異世界転移したら大金舞い込んできたので高原暮らしを始める

じんむ

第一話 望まぬ転移

 なんて事ない人生だった。きっとそれはこれからもそうなのだろう。
 高校になれば何か変わるんじゃないか、そう思っていた時期もあったがそんな事は無かった。
 原因は全て俺だ。
 自らを取り巻く環境に充足を覚えていないにも関わらず何もしてこなかったのだ。自ら動かないのに満足感は得られるわけも無いのに。でも生憎俺にその力は備わっていないから仕方ない。俺はいつだって脇役が十分さ。

「お兄ちゃん、絶対寒い事考えてるでしょ今?」
「なっ……」

 ふと隣で歩くジャージ姿の俺とは打って変わって制服姿の妹が嬉しい事を言ってくれるので思わず顔を二度見する。

「なんて事ない人生だったーとかそんな感じ。満足いってない雰囲気むんむんだったもん」

 図星だ。だからこそ俺の口元が急速に緩んでいくのを感じた。前言撤回。

「俺の表情を見るだけで心情を察するとは……妹に理解されるお兄ちゃんは世界で一番幸せ者だな! もう人生満足! 愛してるユミたん!」

 名前を呼び抱き着こうとすると手でぐいぐいと顔を押されてしまう。

「なんでそうなるの……セクハラで訴えるよ?」
「お兄ちゃんにはその言葉がご褒美」
「気持ち悪い……」

 ユミがジトーッと睨んでくるのでニトーッと微笑みかけてやる。気持ち悪いっていうのも残念ながら褒め言葉なんだよなぁ。というか妹から放たれた言葉なら全部褒め言葉である。
 しばらく二人で見つめ合っていると、ユミは小さくため息をついて目線を俺から前へ逸らした。

「あ、ネコ」

 ユミが立ち止まり呟くので見てみると、確かに横断歩道の真ん中で猫が丸くなっていた。
 道のど真ん中で変わった猫もいるもんだと素朴な感想を抱いていると、何やら騒音が耳を貫く。

「ちょっと、何あれ、今赤信号だよね!?」

 ユミが狼狽した様子で俺に訴えてくる。
 ダンプカーだった。
 赤信号が見えてないのか、凄まじい速さで横断歩行を横切ろうとしている。
 そしてその先にいるのは、猫だ。
 おいおいなんでまたこんな場面に……。

「危ない!」
「ばっ……ユミ!」

 突如ユミが車道に飛び込むので掴もうとするが、ユミの腕は俺の手をすり抜ける。
 慌てて背中を追いかけると、既に鉄の塊はかなり大きくなっていた。
 しかし猫も馬鹿じゃない、人間二人とダンプカーが近づいていたら当たり前のように逃げ去るが、立ち止まったユミがは右側を見つめたまま動かない。いや、たぶん動けないんだ。

「おら……ッ!」

 すぐ傍らには鉄塊。俺はありたっけの力を籠め今度はしっかりと掴んだユミの腕を引っ張る。
 俺の身体とユミの身体の位置が入れ替わった。
 ま、兄として妹を守れたなら本望か。
 瞬間、全身が熱に包まれるのだった――――


 × × ×


 白い閃光が俺を包み込む。
 何も見えない、ただ純白の空間の中、不意に視界が開ける。

「は?」

 飛び込んで来た光景に思わず声が漏れる。
 まず見た事のない建造物。いや、見た事はあるがどう考えても日本のものじゃない。石材及び木材で模られたそれは明らかに西洋風。
 そして歩きながらもこちらを見てくる人々。ここは都会でありそうにも関わらずスーツ姿の人間が皆無だ。いやそもそも外国人ならスーツは着ないか? いや着るか。まぁとにかく、さしずめ西洋風の身なり。

「そこの兄ちゃんどいたどいた!」
「うおっ」

 声が聞こえたので慌てて道の端へと飛び退くと、尻餅をついてしまう。傍を大きな車輪が走っていった。
 一瞬しか見えなかったが、あれは何かの生き物に引かれていた。馬ではなさそうだったが、まぁ、恐らく馬車と大差ないと思われる。

「ん? んんんんん?」

 え、何? さっきまで俺普通にアスファルトの上でダンプカーにひかれたよね? それなのに何、なんで石畳みの上で俺は座ってるの? いや、なんとなく分かるよ。なんとなく。けっこうラノベとかネット小説とか読む人だから。
 まぁ、とどのつまり……。

「異世界転移した、と」

 自らの状況を端的に示す言葉を呟くと、全身に嫌な水分が滲みだす。

「ねーねー、あのお兄さん、なんで変な服着ながらビショビショに顔濡らして笑ってるのー」
「コラ、汚物は見てはいけません」

 目の前で親子と思われる二人が足早に通り過ぎる。

「お、お……」

 自然と唇が震えだす。



「お、お……俺の妹はどこだぁ!!!!!!!」



 大声を出したせいか、ビクリとした人々が俺の方へ一斉に視線を向ける。

「おいあんた! 俺の妹は知らねぇか!?」
「え、し、知るわけないだろ……」
「じゃあ、あんたは!?」
「し、知らないです……」

 とにかく手あたり次第に肩を揺すぶると、皆足早に俺の目の前から去っていく。
 ふざけるなよ? 異世界転移? ユミがいない世界の何が楽しいんだよ! ふざけるな! 妹がいない世界なんざお寿司から銀シャリと刺身抜いたのと同じだ! もうわさびと醤油しか残ってねぇ!

「騎士団様あの人です!」
「君か! 路上で迷惑行為をする怪しい人間は! 恰好もおかしいな、連行する!」
「ッ! 離せ!」

 プレートアーマーに身を包んだ腕っぷしのいい男の人に身体を拘束される。
 暴れてみるがまったく歯が立たない。

「くそっ! 妹カムバ~~ック!!」

 虚しい声だけが辺りに響き、俺は騎士団になさるがまま連れていかれるのだった。

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