東北~風に思いを乗せて~

青キング

未来のために2

 明くる日の三月十一日。
 震災から丁度六年が経過した。
 今頃各テレビ局があの日の出来事を、報道しているだろう。
 それはさておき、朝の仮設住宅群はしんみりしていた。
 俺は高校を出て、すぐにこちらへ引っ越してきたのだが毎年三月十一日は重々しい空気が漂うのだ。
 俺が今、居るのは街を一望できる高台だ。
 高台の柵から見下ろす街は、道路以外なにもなく静閑という言葉がよく合う。
 海面に水紋ができ、さざ波となって音を立てる。
 俺は何分ここに立っていたのだろう? 右手首に巻かれた腕時計を見遣る。
 時刻は二時二十分に回っていた。
「そろそろ戻るか」
 そして俺は高台を後にして、愛車の軽自動車に乗って仮設住宅へと向かった。

 十分もすると仮設住宅群に到着だ。
 仮設住宅の住人専用の駐車場に車を停めさせていただいた。
 俺を待っていたのか駐車場の隅にある倉庫の前にスーツ姿の母が一人で立っていた。
 俺に気づいたのかこちらを見るなり、歩み寄ってきた。
 俺が車から降りるとすかさず俺の肩に手を置いた。
「どこ行ってたんだ、もうすぐ始まるぞ」
 少し心配しているような口調で母は言った。
「ちゃんと十分前には来たから、問題ないだろ」
「まぁ……そうだな」
 言いたいことはあるが、というような歯切れの悪い言葉が返ってきた。
 しかし、そんなことお構いなしに俺は母に尋ねる。
「みんなは準備できたのかな?」
「できてるんじゃないか、六回目だし」
 それもそうか。
 母の答えに納得しつつ、俺は再度時刻を確認する。
 二時四十分。あと六分に迫っていた。
 途端、心が寂しくなる。
 多大な被害を出した日本史に残る大震災。思い出すだけで奥底にしまってある愛しい声が脳に直接響く。
「暁……」
 母の沈痛に堪えるような声が漏れ聞こえる。
「大丈夫だよ母さん。俺は強くなったから」
 優しく俺は隣に立つ母に語りかけた。
「そうだな、その強くなった心で私を守ってくれ……暁」
「ああ、俺はもう何も失わない、守りきって笑顔でいてもらう」
 頷きとともに言葉にして誓った。
 また時刻を確認する。
 二時四十五分四十秒。
 俺はゆっくり瞑目した。
 すべての祈りと願いで心を満たして、両掌をぴったり合わせた。
 真っ暗な視界にいろはの笑顔が現れる。
 ごめん、守れなくて。
 こんな俺を許してくれ、もう何も失わせはしないから。
 だから言わせてくれ。
 俺はお前が大好きだ!
 世界で一番愛してる!
 俺が叫んだあと、笑顔が暗闇の奥へと離れていった。
 閉じていた瞼を開けた。
 みんなの祈りと願いは届いたかな?
 切に考える、心の中で生きてる。
 大切な人はいなくならない、たとえ戸籍から名前が消えていたとしても声は届いている。
 そしていつも温めてくれている。見守ってくれている。
 手は届かなくても心の届く場所で__。

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