もしも超能力者が異世界の魔法学校に通ったら

ノベルバユーザー202613

第21話 賞金首

帰ってきたソフィアは、行きとは違い憤慨した様子だった。

「全く! 頭の固いやつらじゃ!」
「はあ、それで結局どうなったんですか?」

 疲れた様子で意気消沈していたときよりも、生き生きとした様子で帰ってきたソフィアにホッとしながら聞き返す。

「閉鎖じゃ! 順次生徒を国に送り返すんじゃと!」
「そ、そうですか……」
「我は最後まで反対したんじゃぞ! 道の途中で敵に襲われるよりもこの学園で待ち構えた方がよい、とな」

 翔馬は無言で先を促す。

「ナタリアのやつ、この我に向かって愚かと言い放ちおった! なーにがその程度の戦力差の判断も出来ないなんて、貴女がその程度の判断も出来ないなんて知らなかったわ、じゃ! 彼我の力量くらい見極めておるわ!」

 ソフィアは、自分が侮辱されたことに対して憤慨している。

(向こうの言い分も当然だと思うけど……)

 もちろん口に出したりしない。
 何故なら、ソフィアが更に激昂するのが目に見えているからだ。

「我とて翔馬が居らんかったら撤退しておるわ! 全く、他の役員共もこの我に失望の目を向けおって……許せん! 翔馬!」
(あ、嫌な流れ……)

 翔馬の勘は当たってしまう。
 ソフィアは翔馬に指を突き付けながら高らかに命令する。

「魔王の首を一つ、この我に献上せい!」

「ははぁ、畏まりました」と、なるわけがない。
 ソフィアには恩がある。
 しかし、無謀な突撃をするほどではない。
 だから翔馬は困った顔で頬を掻くだけに止める。

「翔馬、返事はどうしたんじゃ?」

 しかし、翔馬の意図を察するつもりもないのであろう。
 ソフィアは沈黙する翔馬に更に追撃してくる。

「ソフィア様、それは流石に翔馬に期待しすぎではないでしょうか?」
「む? お主も聞いたじゃろうが! 翔馬の強さなら魔王程度片手で捻ってみせるわ! くっ、翔馬が出て行った時、ついでに魔王の首を持って参れ、と命令していれば……」
(無理すぎる……)
「……」

 助け舟を出したつもりが、子どもようなわがままをごねるソフィアに対してこれは処置なしと、肩を竦めてしまう。
 翔馬も困った顔のまま肩を怒らせるソフィアをみている。

「……」

 二人とも味方をしないと悟ったソフィアは、肩をガクリと落とす。

「お主ら……もっと血気盛んに功を狙おうと思わんのか……。特に翔馬、お主、魔王の首を討ち取ってくればかなりの金額が手に入るぞ。先とは違う、上層部に一切文句を言わせることなく金を引き出せるんじゃぞ?」
「はぁ……」
「なんじゃその情けない声は」
「いえ、俺、今そんなにお金に困っていませんし」

 キョトンとした顔で答える。
 屋根のある家があって着る物にも困らず三食ちゃんと食べられるのだ。
 出来ればここにゲームが欲しかったが、今はそれよりも興味をそそられる物があるのだ。
 結論を言えば、お金があっても欲しい物がない。
 取り立てて貯金をする趣味があるわけでもない翔馬は、正直お金があっても困るというのが本音だ。

「無駄ですよ、ソフィア様。彼と私達では価値観が違い過ぎます」
「そのようじゃな……」

 ディアナの追撃により、翔馬の欲を引き出すのは難しいと悟ったソフィアは肩を落として消沈する。

「俺の友達にもお金に困っていないのにひたすらお金集めに邁進する人、いましたよ」

 価値観が違うといわれるとなんだか疎外感を感じるが、それも致し方ないことであろう。
 地球出身者の中でも欲しい人間は要らなくてもとりあえず集めるであろう。
 じゃあ翔馬はと言われると価値観が違うからとしか言いようがない。

「我としてはお主もそうあって欲しいと願わんばかりじゃ」
「ソフィア様、彼が何かあるたびに金金言ってきたらどうなさるおつもりなんですか?」
「う、うーむ、魔王の首を四つも持ってきて一気に金を払えと言ってこられても困るのー」
「そういう友達、俺にもいましたよ……」

 自分の職業は賞金稼ぎだと豪語していた、人探しや凶悪犯人探しに適した能力を持っている友人がいた。
 日本でも逃亡した凶悪犯の情報には賞金がつく。
 能力を使ってその賞金を目当てに犯罪者などを探して情報を売ることで稼ぎを行っていた。
 彼の犯人探しの精度は条件さえ揃えば百発百中なのだが、その性格はとにかくお金にがめつい。
 しかし、お金を渡せば目的の人物を必ず見つけられるという事で彼に大金を貢いで人探しを頼む者が後を絶たず、彼対策としか思えない法律まで出来たくらいなのだ。
 当時のことは超能力者の間でもお笑い種だった。
 本人は憤慨して国に対して裁判まで起こしていたのは言うまでもないことだが。

「と、とにかく、終わってしまったことですから一回忘れましょうよ!」

 気を紛らわせるために話題を戻そうとする。

「うむ、そうじゃな。とにかく、この学園から退避するなど以ての外じゃ! 明日、また会議がある! そこで何としてでもやつらの蛮行を食い止めて見せるぞ」
(なんて言って説得するつもりなんだろ……)

 意気揚々と宣言するソフィアに翔馬は内心に不安を憶える。

(まあソフィア様もやる気を出していることだし何も言わないでおくか……)

 そう思って挨拶をして自室へと戻っていった。

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