復讐のパラドクス・ロザリオ

殻守

第24話 天才

あの日のことはよく覚えている。
非人道的だと実験の提案を破棄された挙句、王国からも追放されたあの日。
私は宛もなくただ歩いていた。雨に打たれ水浸しになった服は水分を含み重くなっていた。
この世界に来て一番最初に行ったことは魔道具の作成だった。幸いにもこの世界にも元の世界と似たような素材が多く技術が無駄になることは無かった。最初に造ったのは簡単な連絡機器。魔力を流し、チャンネルを合わせると別の連絡機に繋がり会話出来るという代物で簡単にいうならばトランシーバーの劣化版と言えた。それでもこの世界においてこのような連絡し合えるシステムは存在しなかった。私はすぐに王国で一番の技術士に上り詰め、研究者としても功績を残した。掛かった時間は僅か半年。すべて順調に進み王国の発展にも尽力した。
にも関わずだ。
奴らはたった1度の考えの相違で私という天才を追放した。何も持たされず、すべてを奪われた。そして思い知った。どんな世界でも人の在り方は変わらない。私の中で微かに復讐の炎が燻り始めていた。必ずあの忌々しい高い壁に護られた王国に復讐する。私の中にはそれだけが残った。そして近くの洞窟の奥に研究所を造った。何かの拍子に洞窟の入口周りが崖になったらしいがどうでもいいことだった。そして創り上げた。数々の失敗があり不完全な者ばかり生まれてしまうなかで遂に完成した。幼女の見た目をしていながらライジュウの特性、『帯電』と『放電』を引き継いだ。更に電気を使用したことによる筋肉の活性化を視野に入れ彼女の脚に攻撃用として鉄のブーツを取り付け、首にも制御装置を付けた。私はこの娘に『ミョルニール』と名付け、襲撃の日を待った。そして先日、制御装置の具合を確かめるべく外へと行かせ小一時間程外を歩かせた後戻らせた。途中誰かにあったらしいが制御装置は立派に働いていたため私は気にも止めなかった。もしまだ周囲にいるようならミョルニールの練習相手にでもなってもらおう、そう考えていた。
もうすぐ私の復讐は叶う。ミョルニールは今や生前のライジュウよりも高い能力を持っている。例え『剣戟』であっても、『聖剣』であっても彼女を倒すことは容易ではない。笑いが込み上げてきて止まらなかった。
そして現在、私は激しい怒りに襲われていた。ミョルニールを躱し、私の前に立つのは異形の右腕を持つ悪魔。そして奴は私を殺すと言った。その言葉が私の怒りを駆り立てた。またしても王国の犬が邪魔をするのかと。そして私は目の前端末からミョルニールの制御装置へと命令を送った。

シンカイが何やら箱を操作したかと思うと背後で耳に響く悲鳴が聞こえた。何事かと振り向くとミョルニールがうずくまって苦しそうにしていた。エルケードは慌ててシンカイの方を見ると彼は嘲笑うようにエルケードを見ていた。
「貴様…何をした!」
エルケードが怒りの篭った声をシンカイに浴びせた。
「ミョルニールのリミッターを外したのサ、君を必ず仕留めるためニ」
ニヤリとシンカイが笑うと同時にエルケードの背後で凄まじい衝撃と獣の雄叫びが聞こえた。そしてそれはエルケード目掛けて一直線に向かってきていた。
勝利を確信したシンカイは笑い腹を抱えていた。ミョルニールは理性を失った獣の眼でエルケードへと飛びかかろうとしていた。そしてエルケードは、
黒い影を身に纏った騎士剣でシンカイの背後にあった箱と光り輝く壁を両断した。
「はっ?」
シンカイから笑が消えた。
「あぅ…」
ミョルニールは情けない声を出して扉の近くで崩れ落ちた。と同時に首に付いていた制御装置が外れ床に落ちた。
そしてエルケードは血を払う動作と同じ動きで剣に纏わせた影を落とした。そしてシンカイを睨みつけた。
「ヒイ!」
青い顔をしシンカイは崩れ床に腰を下ろした。エルケードは右腕を掲げ、
「ま!待ってく」
シンカイの胸を貫いた。
シンカイは口から血を吐き痛みで涙を零した。
そしてエルケードは背中まで貫いた右手に掴んだ赤黒く波打つ血袋を握り潰した。
「かふぅ…」
シンカイはそのまま動かなくなった。
そしてエルケードは自分の中で何かが満たされるのを確認してから右腕を抜いた。相変わらず右腕には血の一滴すら付いておらず十字架の宝石のうち二つが白く輝いていた。

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