復讐のパラドクス・ロザリオ

殻守

第10話 激情

眩しい朝日が身体を包み込み、その温かさでエルケードは目を覚ました。雨はすっかりあがり、崖の向こうの景色がハッキリと見えていた。エルケードは墓碑の前で座り込んでその風景を見たあと、今まで生きた人生の中で1度でも感じなかった違和感を放つ右手をみて、昨夜のことが脳裏に浮かんだ。

「いったい何が目的だ!」
バンっと強く教壇を叩き椅子を蹴飛ばしながらエルケードは勢いよく立ち上がった。その目には明らかにベルフ神父に対する疑念があった。だがベルフは表情を一切変えることなく、
「落ち着いてください。まだ話は終わっていません。」
ともう一度エルケードに座るよう促した。
苛立ちを隠すこと無くエルケードは蹴飛ばした椅子を取ってくると座り直した。
「では、エルケード様。」
ベルフの漆黒の瞳がエルケードを見据える。
「貴方は、迎え巫女を憎んでいますか?」
「…。」
黙ったままのエルケードにベルフは続ける。
「貴方は、迎え巫女に然るべき報いを受けさせるべきだと思っていますか?」
「…っ!」
悔しさを滲ませた表情のエルケードがベルフを睨みつける。
ベルフは小さな笑みを零すと、
「貴方は、もし迎え巫女がいなければ自分は幸せでいられたと思っていますか?」
と言った。エルケードは大きく息を吐き気持ちを落ち着かせた。そしてベルフを見据えて答えを出した。
「ああ、アンタの言う通りだ。迎え巫女は恨んでるし憎んでる。アイツさえいなければ俺がこんなに苦しむことはなかった!」
奪われていった大切なものを思い出す。
自分を拾ってくれて愛情を注いでくれた優しかった母を。
産まれて初めて恋に落ちこれから大切な時間を積み上げていくはずだった愛する恋人を。
健気で兄思い、歌を歌うことが好きだった妹を。
「ヤツは奪っていった!」
彼の中に未だ残る激情が溢れ出す。
「俺は失うのが怖かった!」
迎え巫女が最後に言ったあの言葉は忘れることはない。
「そんな俺をヤツは、ヤツは惨めだと言った!」
拳を強く教壇に叩き付けた。
「俺は…それが許せなかった。」
俯き、肩を震わせ怒りを露わにするエルケードの肩をベルフは優しく叩いた。
「エルケード様。顔を挙げてください。」
見るとベルフが今までに無いほど優しい笑顔をしていた。
「貴方の気持ちは分かりました。授けましょう。貴方の復讐を果たすために。」
ベルフはもう一度笑って見せた。
そしてエルケードは小さくそれでもしっかりとベルフを見据え頷いた。

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