復讐のパラドクス・ロザリオ

殻守

第7話 果たされぬ晩餐

「ふざけんなァ!」
迎え巫女に怒声をぶつけながら机の上に置いていた騎士剣を素早く抜き、その勢いのまま投げた。
しかしやはりすんでのところでズレ壁に勢いよく刺さった。迎え巫女はゆっくりと近ずいてきていた。
「これならどうだ!」
ミレーネの横たわるベッドの横に置いてある小物入れをエルケードは中から先程使っていた物よりも1回り大きめ、握りこぶし程の魔鉱石を迎え巫女に投げつけた。魔鉱石は迎え巫女に当たる直前で強い光を放ち、エルケードがミレーネを庇う様に覆い被さった瞬間、
「ぐっ…!」
凄まじい爆発が起きた。先程エルケードが投げつけた魔鉱石は直撃すれば致命傷を負うレベルの爆発を起こす程の威力を持つ。その為投げた周囲の壁は吹き飛び、外とを繋ぐ新しい出入り口になっていた。だが今はそんなこと彼にはどうでも良かった。未だ煙が立ち込めていて迎え巫女がどうなったのかはわからない。ミレーネを守る様に覆い被さりながらじっと睨みつける。息を飲み煙が晴れるのを待った。沈黙が辺りを包んだ。エルケードとミレーネの住む家は村とは少し離れた位置にあり、人が集まるには少し時間が掛かる。しばらくすると煙が晴れた。だが外とを繋ぐ爆発跡があるだけで迎え巫女の姿はなかった。
「やった…のか?」
途端にエルケードの中に安心感が産まれミレーネから離れ迎え巫女がいた位置に立つ。迎え巫女に関する痕跡は一切残っていなかった。
「やったぞ!やったぞ、ミレーネ!俺は!迎え巫女を退け…」
そう言いかけミレーネのいる方を向いてエルケードは言葉を失った。
『みんな、あなたの事を待っています。』
「嘘…だろ?」
いつの間にか先程までエルケードがいた位置に迎え巫女が立っていてミレーネの手を取っている。
何がどうなっている?
彼の頭の中で様々な疑問が浮かんだが、それも光に包まれていくミレーネを見てすべて消えた。
「ミレーネ!」
エルケードは光に包まれていくミレーネの手を強く握った。
「ダメだ、逝かないでくれ!お前まで逝ってしまったら俺は…!俺は…!」
大粒の涙を目に浮かべエルケードは嘆いた。
「大丈夫だよ。お兄ちゃん。」
苦しそうな顔をしていた筈のミレーネが身体を起こし、エルケードの頭を抱き締め
「私はちゃんと幸せだったよ。」
「ミレーネ…」
情けない顔をしたエルケードを見てミレーネは小さく笑うと
「美味しいご飯、作ってくれたのに食べられなくてごめんなさい。」
そう言って光の中に消えていった。ミレーネの手を握っていた手には虚無感が残った。
「迎え巫女…!」
恨めしそうにエルケードが立ち去ろうとする迎え巫女に壁から引き抜いた騎士剣で斬りかかる。だがやはり空を切って当たらない。すると初めて迎え巫女は立ち止まりこちらを振り向いた。そして
『貴方、とても惨めですね。』
「!?」
そういい残し朝日と共に消えていった。1人惨状と化した部屋に取り残されたエルケードの目には絶望と虚無感、そして怒りの炎が燃え上がっていた。隣の部屋では冷めた2人分の料理が未だ残るその香りを漂わせていた。

この時は誰も知る由がなかった。世界の均衡を保ってきた歯車の一つにヒビが入り始めたことに。

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