我が家の床下で築くハーレム王国

りょう

第95話消えぬ不安とその真意

 フウカの事が気になりながらも、俺とハナティアは朝から演説のための準備などをしていた。準備とは言っても、国民にその事を伝えたり、演説の内容を考えたりするだけで、大きな仕事ではない。
 ちなみに演説を行うのは三日の九月の末日。何故この日を選んだのかは聞いていないが、十月から新しいスタートを切るためとかその辺りの理由だろう。

「あれから私も演説の内容考えてみたの」

「何かいい言葉でも浮かんだのか?」

「それがまだイマイチなの。一応色々メモしてみ
 たんだけど」

 そう言ってハナティアは一枚の紙を渡してくる。そこには漫画家がネタをメモした時のような擲り書きされた様々な単語が所狭しと書かれていた。

「なるほどな。お前が昨日何も考えていないのがよく分かったよ」

「え!?」

 何がショックなのかしばらく口が開いたままの状態のハナティア。思いついた言葉をメモした所までは良くやったなと思う。だが問題は、その内容にあった。

「なあこれ演説に使いたいんだよな?」

「うん、これなら伝わるかなって」

「どこの国の姫様に、演説で自分のメイドの話を語る奴がいる! というかこれ、昨日サクヤと話しながら書いただろ」

 そこに書かれていたのは何故かサクヤの事ばかり。国の事なんて一言も書いていない。

(一体何を話したら、こんなにサクヤの事ばかり書けるんだよ)

 まるでこれだと恋する乙女じゃないか。

「だ、だってサクヤが昨日話あるからって私の部屋に来て、私ちょうどメモを始めようとしていた時だったから」

「だからって流され過ぎだろ。一度確認しようとしなかったのか?」

「すぐそのまま寝ちゃったから。で、でもわざとじゃないわよ」

「まあわざとではないってのは分かるけど、時間も少ないのは分かっているよな」

「ご、ごめん。私だって真剣に考えなきゃいけないのは勿論分かっているけど、いざ考えるってなるとどうしても不安になるの」

「不安?」

「ちゃんと私の想いが皆に届けられるのかなって」

「今になって自信をなくしたのか?」

「そうじゃないんだけど」

「だったら自信持って、自分の思うままに考えてみればいいんだよ」

「うん」

 今まで自信を持って動いていたハナティアが、ここまで不安な顔を見せるのは珍しかった。昨日からこんな調子だったとはいえど、しっかりするところでしっかりしないと、今後の国政にだって関わってくる。

(でも俺がハナティアに何かを言えるかって言われれば、今みたいな事しか言えないし)

 勿論ハナティアが努力をしているのは理解している。だからこそ俺は、ハナティアに向ける言葉が思いつかない。

「なあハナティア、お前最近」

「ハナティア様、翔平様、今お時間ありますか?」

 無理しすぎていないかと尋ねようとした時、サクヤが入ってきてしまった。

「どうしたのサクヤ、今から演説の内容を考え直そうと思っていたんだけど」

「先程から実はフウカ様の姿が見当たらないんです」

「それって昨日も言っていなかったか? 」

「確かにフウカ様は最近出かける事が多いですが、どうやら今度は地上の方に出られたらしく」

「フウカが地上に」

「一人で?」

 本来なら出られるはずもないのに、どうして彼女が一人で外に?

 ■□■□■□
 フウカの事が気にはなるものの、俺とハナティアはもう地上に出るわけにはいかないので、バイトの為に何度か地上に出ているサクヤにフウカの事は任せる事にして、俺達は改めて演説の準備をし直すことにした。
 その最中、

「まさか今度は地上に勝手に出ちゃうなんて」

「最近様子が変らいな。でもとりあえずそれはサクヤに任せるとして、俺はハナティアにも聞きたいことがあるんだ」

「聞きたい事?」

「こんなことを聞くのはデリカシーがないかもしれないけど、俺達トリナディアで暮らすようになってから何かギクシャクしてないか?」

「ギクシャク? 別にそこまでしてないと思うんだけど」

「聞き方が間違ってたな。最近お前俺を避けているというか、何か隠し事してないか?」

「隠し事なんて別にしてないわよ」

「でもだったらどうして昨日あんな事を聞いて」

「何でもないから心配しないで!」

 突然語尾を強めるハナティア。やはりと言うべきかハナティアの様子が変だ。

「ごめん、怒るつもりなんてなかったんだけど……。翔平の事が嫌いになったとかそう言う話じゃないの」

「だったらお前は一体何が言いたいんだよ」

「……ごめん、それも今は何も話せない。ほらそれより今は演説の内容を完成させないと」

「あ、ああ」

 明らかに隠し事をしているハナティアに、不安が隠せないがこれ以上何を言ってもこのままだと思うので諦めるしかない。

「昨日も言ったけどとにかく自分の想いを言葉にすればいいと思うんだよ。それを文章にして、ほらこの部分とか」

「……」

「ハナティア?」

「あ、えっと、何だっけ」

「本当に大丈夫かよ、お前」

「だ、大丈夫だから! ほら、ここだよね」

 結局ハナティアは演説の当日を迎えるまでずっとこの調子だった。肝心の内容は完成させる事が出来たものの、俺の中に残る不安は一度も消える事はなかった。

 だけどこの演説の日に、ハナティアの中にある闇を知る事になった。


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