我が家の床下で築くハーレム王国

りょう

第78話喧嘩別れが生んだ悲劇

 物語は中学時代に戻る。
 俺はちょっとした縁があって、原西沙羅という同級生に出会った。その彼女に毎日くっついて来ていたのが金本美優。沙羅とは小学生の頃からの親友だったらしい。

「えっとこの子、私の親友で金本美優。よかったら仲良くしてあげて欲しいの」

「金本……美優です。よろしくお願いします」

「俺は柏原翔平。えっと、よろしくな金本さん」

 彼女はどちらかというと内気な子で、クラスでもあまり目立たない存在だった。その影響もあって友達が極端に少なく、沙羅はその事をずっと気にしていた。

「美優って見て分かるけど、すごく臆病な子なの。でも根はすごく優しい子で、私はあの子の親友でよかったなって思っている」

「へえ。でもさ、その話本人のいる前で話すことじゃなくないか?」

「さ、沙羅、恥ずかしい……」

「いいじゃない。私はう思っているんだから」

「本人は顔真っ赤にしているけどな」

 これは後に知った話ではあるんだけど、沙羅と美優は同じ孤児院出身らしく、その縁もあって仲良しというよりは親友、いやそれ以上の絆が二人にはあったらしい。
 俺はその二人の間に挟まれて中学生活を送っていたわけだけど、これがまた大変な毎日だった事を今でも覚えている。

「もう沙羅なんて絶交します!」

「それはこっちのセリフよ、馬鹿美優」

「まあまあ二人とも」

 喧嘩するほど仲がいいというべきか、しょっちゅう二人は喧嘩をしていて、俺はその度に仲裁して仲直りさせていた。でも次の日になると喧嘩していたこともすっかり忘れて、いつも通りの日常に戻る。
 そう、あの日もそうだと信じていたんだ。

「また喧嘩したのかよ」

「だって美優が……」

「先に帰っちゃったんだろ? だったら今からでも追いかけて謝ってこいよ。お前達はちょっとやそっとの喧嘩で崩れるような仲じゃないんだから」

「うん……」

 二人はいつも通り喧嘩して、そしてこの日も仲直りするだろうと思って沙羅を美優の元に向かわせた。その時俺もついて行けばよかったのかと時々思う時もあるが、ついて行った所で結果は変わらなかったと思う。

「え? 沙羅と美優が交通事故?」

 ■□■□■□
「本当あの時は何が起きたか私には分からなかったの。美優に謝りに行って、仲直りしようと思ったところに車が来て……」

「そこからは何も覚えてないのか?」

「うん。気がついたら病室で寝かされていたから」

 話は現在に戻る。一通り墓参りを終えた俺と沙羅は、俺が彼女の車椅子を押しながら少しだけ近くの場所を散歩していた。季節は間も無く夏から秋へと移り変わる。もう一ヶ月くらいしたらこの道も紅葉が舞っていそうだ。

「私まだ後悔しているの。喧嘩さえしなければ私達は交通事故に遭うこともなかったし、今でも三人で一緒にこの道を歩けていたんじゃないかって」

「でも今更その後悔をしても」

「分かってるわよ。分かっているから……悔しいの」

「……」

 沈黙の時間が流れる。聞こえるのは車椅子の車輪の音だけ。俺も沙羅もそこからの言葉が何も浮かばなかった。

(俺も時々思い出しては、苦しくなるんだよな)

 沙羅が辛いように俺も同じように辛い。沙羅ほど仲良しではなかったけど、それでも大切な友達だった。いつもの喧嘩だと思って、明日には二人とも何事もなかったかのように一日が始まると思っていた。

「今も目を瞑ると蘇ってくるの。あの日の光景が。忘れちゃいけないと分かっていても、その光景が蘇るたびに夢であって欲しかった、そう思ってしまうの」

「夢だったら俺も楽だったよ。俺もあの時、全てが夢であってほしいって願った。だけどそれは叶わなかった」

「これって呪い、なのかな」

「呪いではないよきっと」

 美優は今もどこかで俺達に願っているんだと思う。自分の事を、あの事故の事を忘れないでほしいって。だから絶対に忘れちゃいけないんだ。

 ■□■□■□
「なあ沙羅。俺お前に話さなければならない事があるんだ」

「話さなければならない事?」

 車椅子を一度止めて、俺は近くにあったベンチに腰掛ける。本当は話すつもりはなかったけれど、夏休みが明けたら沙羅とは会えなくなる。また黙って彼女の眼の前からいなくなるのは、なんか嫌だった。

「俺、あと二週間したら沙羅にもしばらく会えなくなるんだ。どれくらいの期間になるか分からない。一年、二年、いやそれ以上の可能性もある」

「それ、知っているよ私」

「え?」

「昨日、友達二人と話をしていたの丸聞こえだったから」

「あ」

「元からおかしな話だなとは思っていたけど、あの写真の子が関係しているんでしょ?」

「ま、まあそうだけど」

 隠しているつもりがどうやら話が全て筒抜けだったらしい。まあ壁一枚分の距離での会話だったし、聞こえても不思議ではないのは分かっていた。

「じゃあ今更話す事はないか」

 俺はベンチから腰を上げて、彼女の元へと向かおうとする。

「話は終わりじゃないよ翔平君」

「え?」

「私からも翔平君に話したい事があるの」

 沙羅の言葉を聞いて、俺は足を止める。沙羅からの話って一体なんだろうか。

「今回の依頼を了解した時に、三日間孤児院でアルバイトしてもらうって言ったの覚えているよね?」

「一昨日のことだから覚えているよ」

「でもそれ以外にも本当はお願いしたい事があったの」

「他に?」

「ねえ翔平、何年経った後でもいいから、私と一緒にあの孤児院で働いて欲しいの」

 それは一種の告白とも取れる言葉だった。その気持ちはとても嬉しいし、もしハナティアと出会ってなければこの未来もあり得たかもしれない。だけど俺にはハナティアという大切な人がいる。

「悪い、沙羅。俺にはそれはできない」

「どうして? もしかして昨日冗談のように聞こえたアレって、本当は全部」

「ああ。俺は本当にもうすぐ結婚するんだ。お前には信じられない話かもしれないけど」

「じゃあ何年後にこっちに戻ってきても」

「もうこうして会う事は難しいと思う」

「そんな……。どうして私達……」

「沙羅には辛い思いさせるかもしれないけど、俺はもうできないんだ。この場所に戻ってくる事も、お前の想いに応える事も

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