我が家の床下で築くハーレム王国

りょう

第33話その隣で

 あれからしばらく何事もなく時間が過ぎ、気がつけば六月も残り僅か。すっかり梅雨のシーズンに突入して、毎日雨ばかりで憂鬱だった。

「七月頭に旅行?」

「ああ。ほら、お前の疲れを癒すために旅行へ行こうって言ったってきりだったから、皆が予定空いている七月の頭に行こうかなって」

 そんなある日のお昼、正志が七月頭に四人で旅行へ行こうという提案をしてきた。確か儀式に入る前の電話でそんな話をしていたけど、何もこんなタイミングでいかなくてもと思う。

「それって海とかは別にか?」

「海や山は夏休みに行くけど、それは夏休みに入ってからで、それとは別にゴールデンウィークに行けなかった分を取り戻そうと思ってさ」

「確かにそれはいいかもな」

 ゴールデンウィークは色々あって、予定だった旅行がキャンセルになったので、それを取り戻す分にはいいのかもしれない。

「で、場所はどこに行くんだ?」

「温泉だよ、温泉」

「この季節にか?」

「丁度梅雨の季節なんだから温泉に入りに行くのはいいものだろ?」

「温泉ねぇ」

 まあ確かに、この梅雨と夏の微妙な季節の間に行く場所にはピッタリかもしれない。高校を卒業してから旅行なども行ってないので、丁度いい機会だ。

(ハナティアも喜ぶだろうし、きっと)

 張り切りすぎて一週間前から準備しそうな気がする。

「あ、ちゃんとお前の妻も誘っておけよ」

「勿論ハナティアも誘うけど、妻ではないからな」

「もうすぐ三ヶ月なんだから、いい加減認めてあげろよ。ハナティアちゃんが可哀想だろ」

「認めろって言われてもな……」

 三ヶ月以上に一緒に過ごしているのは事実だし、ハナティアがそれを望んでいるのも分かっている。更に言うなら子供も授かっている。
 ここまできて彼女を妻として認めないのもいかがとは思う。けど俺はその答えを出すのにやはり戸惑っていた。

「何を悩んでいるか分からないけど、男としてケジメをつけるのが当たり前じゃないのか」

「でも俺は……」

「いいか翔平、今度の旅行でお前も答えを出してみろ。それがこれからの為にもなるんだから」

「もって、正志も何かあるのか?」

「さあな」

「あ、誤魔化すなよ」

 色々あったものの、七月の第一週の土日を使って俺と雪音と正志、そしてハナティアも誘っての旅行へ行くことが決定。
 なんか一波乱が起きそうな旅行になりそうだけど、大丈夫だろうか。

(ケジメ、か)

 ハナティアはどう思うだろうか。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「旅行? 勿論行く!」

「そう言うと思ってたよ」

 六月最終日。少し久し振りにトリナディアへとやって来た。その間色々忙しくて来れなかったのだが、同じバイト先のサクヤを通して伝えてもらっていたので、以前みたいな問題は起きなかった。

「なあサクヤ、ハナティアが二日いなくなっても大丈夫か?」

「二日ほどなら大丈夫ですよ。翔平様達が一緒なら尚の事です」

「それならよかった。土曜日の朝に出て日曜日の夕方頃には帰ってくると思うから、それまでよろしくな」

「こちらこそハナティア様をよろしくお願いします」

 サクヤの許可も降りたので、これで正式に決定。もう既に五日後に迫っているのだが、準備とかの方は果たして間に合うだろうか。

「服は必要ないかな」

 いや、それ以前の問題だった。

「待て待て、旅行なんだから服は必要だろ」

「でも、大丈夫そうな気がするんだけど」

「お前は二日目を裸で過ごすつもりか? それとも二日間同じ服で過ごすのか?」

「冗談よ冗談」

 全裸で思い出したが、四月に会った時全裸が当たり前みたいな事を言っていたけど、それはどうしたのだろうか。
 あの日わざわざ服を買いに行っていたのも、俺の為だとか言っていたけど、わざわざ俺の為に合わせてくれたのかと考えると、少しだけ照れる。

『男としてケジメをつけるのが当たり前じゃないのか』

 今度は俺が彼女に合わせる時なのだろうか。計画の為とはいえ、子供も授かって、誰よりも国の事を思っていて、俺を好きと言ってくれる彼女のその想いに……。

「なあハナティア」

「どうしたの翔平」

「お前はさこの先も姫としてここに居続けるのか?」

「何よいきなり。そんなの当たり前でしょ」

「俺もさ、その隣に……」

「え?」

「あ、いや、何でもない」

 言葉にできなかった。その道を踏み出すのが怖くて。その原因は多分俺の心にまだ迷いがあるから。

 それが本当の答えなのかと言われたら、はいと答えられない。

 では本当の答えは何なのかと言われても、俺は答えられない。

 ただ臆病なだけなのだと思う。この先の未来が。まだ何も見えていない自分が。ハナティアの夫、つまりトリナディアの国王になるという未来予想図が。

「翔平?」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
『俺もさ、その隣に……』

 私がこれからの事を話した直後、確かに翔平はそんな事を言っていた。その先は何も言わなかったけど、本当は何かを言おうとしてそれを止めたのかもしれない。

「翔平様が?」

「うん。確かにそんな事言っていたの」

 翔平が自分の家に帰った後、私はその事をサクヤに話した。一体彼は何を言おうとしたのだろうか。

「それは恐らく翔平様が、何かを悩んでいらっしゃるのかもしれませんね。主にハナティア様の事で」

「私?」

「はい。これは私の憶測ではありますが」

 その後サクヤが今の翔平の事についての憶測を話した。それは女の私には分からない、違った重みを意味をしているものだった。

「ハナティア様が子供を授かった事により、翔平様はハナティア様と結婚するしかないという、責任を感じているのかもしれません」

「責任?」

「地上ではそれが男の責任でもあるんです。そして何より、ハナティア様は以前から何度も伝えているその想いにも答えられていない事に責任を感じているのですよ」

「そんなに重く感じる事ないのに……」

「それが男性なんですよ、きっと」

 心が痛んだ。私の知らないところで翔平はそんなに悩んでいただなんて、これは……。

(今度の旅行で聞いてみないと)

「ねえサクヤ、私にできるかな。翔平の重みを取り除く事」

「ハナティアにしかできない事だと思いますよ私は。それにハナティア様、一つ忘れないでもらいたい事があります」

「忘れないでもらいたい事?」

「翔平様がハナティア様の夫になる、それはつまり翔平様はトリナディア王国の国王になるという意味です。それが彼にとってどれだけのプレッシャーになるか、よくお考えください」

「……分かった」

(そっか、翔平は……)

 それがきっと一番不安なんだ。

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