我が家の床下で築くハーレム王国

りょう

第13話それが彼女の幸せならば

 ゴールデンウィーク最終日、約五日ぶりに家に帰宅した俺を待っていたのは、衝撃的な光景だった。

「な、何じゃこりゃぁ」

 誰がやったのかは分からないが、気付かぬ内に俺の部屋の家具は全て何処かへ消えてしまっていたのだ。

「多分サクヤがやったんだと思う」

 一緒にやって来たハナティアが声を漏らす。もしかして五日前正志達がサクヤに出会ったのは、彼女が俺の部屋を片付けたからなのか? そうだとしたら明らかな確信犯なんですけど。

「いや、え、ちょっ、何で? 俺が折角はした金を叩いて買った家具達はどこへ行ったの?」

「多分城の何処かにあるんじゃない? 翔平専用の部屋を作るために」

「いや、俺住むとは一言も言ってないんだけど」

 なんか俺の知らぬところで、勝手に話は進んでしまっているらしく、地下への移住まで確定してしまっているらしい。
 勿論、俺は一度も了承していない。

「いつかはそうなるって事でしょ。これで私と理想の生活ができるんだから、喜びなさい」

「喜べるか!」

 ちなみに後で正志達に確認したところ、部屋に何もなくなっていた事に違和感は覚えていたものの、あえて何も言わなかったらしい。俺のこの後の幸せの為とか言っていたけど、すごく余計なお世話なんですけど。

「マジかよ。折角借りたアパートなのに」

 俺は酷く落ち込んだ。まだ住み始めて一ヶ月なのに、早くもその住処が変わってしまうなんて、わざわざ借りてくれた両親になんて説明すればいいのだろうか。

「まあそんなに落ち込まないで、ほら早く行こうよ」

「気分は最悪だけど、行くか……」

 ちなみに何故今日ハナティアと一緒に地上に上がったのかは、彼女が休みの最終日に二人で出かけたいと言い出したからだ。それは昨日の約束とは別物扱いらしいけどそれを上回る出来事が起きてしまったので、もうヤケクソになっていた。

(あとでサクヤに言って、最低限の家具は戻してもらわないとな)

「サクヤも悪気はなかったと思う。あまり怒らないであげてね」

「怒らない方がおかしいと思うんだけど」

「私はそういう経験がないから分からないけど、やっぱり嫌?」

「普通するような経験じゃないからな、これ」

 家具を持ってかれていい気分になるやつなんてどこにもいないよ、多分。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 ハナティアを連れてやって来たのは浅草。そこそこ距離があったが、どうしても彼女が行きたいというので連れて行く事にした。

「へえ、これが噂の雷門かぁ」

「そんなに珍しい物じゃないけど、見たかったのか?」

「うん!」

「じゃあ記念に写真でも撮るか」

 雷門の前に彼女を立たせて、携帯で写真を撮る。この光景、他の人から見ると親子が観光を楽しんでいるようにしか見えないだろうが、決して親子ではないのであしからず。

「それにしても最終日だというのに、今日は人がすごいな」

「迷子にならないでよね翔平」

「それはこっちのセリフだ」

 ハナティアの身長は、平均よりもそこそこ下回っているので、一度はぐれてしまうと見つかりにくい。

「迷子になるのも面倒くさいし、手繋ぐか」

「うん」

 なので仕方がないが手を繋いで歩く事にした。何故か分からないけど、手をつなぐ事にだけは抵抗を感じない。

「これで翔平がいなくなる事がなくなって安心だね」

「何で俺が迷子になる前提なんだよ」

 手を繋いだことがよほど嬉しいのニコニコするハナティア。それを見て俺は直感した。

(うん、アウトだよなこれ)

 主に社会的な意味で。

「なあハナティア、やっぱり手を繋ぐのは」

「あ、翔平、あっち見に行こう!」

「痛い痛い、引っ張るなって」

 おまわりさん呼ばれたりしないよな?


 昼過ぎから始まった観光は、途中で昼食を取った後で浅草でも有名な遊園地で時間を過ごす事に。

「ハナティアって、ああいう絶叫系は大丈夫か?」

「勿論! 私一度ああいうの乗ってみたかったの」

「そ、そうか」

 ジェットコースターを指差しながら言うハナティア。いかにも乗る気満々の彼女を見て、俺は心の中でため息をつく。願わくば彼女と一緒にあれを乗りたいのだけど、

「どうしたの? 翔平も行こうよ」

「い、いや、俺はいいかな。いつでも乗れるし」

 あれ、絶対高さあるよな……。

「そんな事言わないでほら、行こう」

 何とか俺だけ乗るのを回避しようとする前にズルズルとハナティアに引っ張られる。

「もしかして翔平、高いところ苦手?」

「別に高いところが苦手だから乗りたくないとかそんな理由ではなくて、今乗らなくてもいいと思っただけで、決して高所恐怖症とかではなくてだな」

「じゃあ行こう!」

 どんどん近づいていく距離。ああもう、これ絶対アウトな奴だ。

「さっきからガタガタ震えているけど、大丈夫?」

「だだだ、大丈夫に、き、き、き、決まっているだろ」

「大丈夫じゃないよね絶対。足ガクガクだよ?」

「だったら乗るのをやめてほしいんだけど」

「あ、私達の番だ」

 結局俺はこの後意地でジェットコースターに乗ったのだが、どうなったのから言うまでもない。
 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 なんだかんだで充実した最終日は、夕方になって観覧車に乗りたいとハナティアが言ったので、それを一日の締めにしようという事になった。

「うわぁすごい。高いところから見ると、街がすごく小さく見える」

「まあ観覧車ってそういうものだからな。これも乗るの初めてなのか?」

「遊園地に来るのが初めてだから。こうして翔平と二人でこれてすごく嬉しい」

 子供のようにはしゃぐハナティア。こういう時は一国の姫という立場を忘れられるから、本当に幸せなんだろうなと思う。俺はそれを見守る父親みたいに見えるかもしれない。

「こういう派手なのトリナディアにはないから」

「あっても、面白くないだろうなきっと」

 いつもあの城の中でほとんど過ごす彼女にとっては、こういう場所は憩いの場なのかもしれない。その様子は本当に子供みたいで、見ているこっちも嬉しくなってしまう。

「いつでもとは言わないけど、また連れて行ってやるよ。今度はまた別の場所にさ」

「本当?! 楽しみにしてていい?」

「いいさ。お前がそれでいいなら」

「勿論いいに決まってるよ! 約束だからね」

「ああ、約束だ」

 だから俺はその時、そんな時間を自分が作ってあげれればいいなと思った。それが幸せというなら、それを与えられればいいなと。

「でもその前に翔平、私聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたい事?」

「私昨日も聞いたと思うんだけど、翔平ずっと何かに悩んでいるでしょ」

 そんな俺に対して、景色を眺めながらハナティアはそんな質問をしてきた。こんなところで話すような事なのかなこれ。

「またその話か? それなら俺は何ともないって言っただろ」

「私そうとは思えない。翔平は何か隠していると思っているの」

「だから隠し事なんて」

「何か夢でも見たんでしょ」

「え?」

 夢、その言葉がハナティアから出てきたので俺は驚いてしまう。何でそこまでピンポイントで俺の事をハナティアは分かるんだ。

「その反応、やっぱりそうだったんだ。サクヤも朝から様子が変だって言っていたから、まさかとは思ったんだけどね」

「なっ、まさか謀ったな」

「そうじゃないの。きっとそうなんだって、私の中で確信があったから」

「確信?」

 まさかハナティアは、俺があの夢を見る事を分かっていたとでも言いたいのだろうか?

(まさかそんな事)

 あり得るのか?

「お前はどうして俺がおかしな夢を見たって分かるんだ?」

 流石に偶然ではないかと思い尋ねてみる。恐らく当てずっぽうで言ったに違いない。普通はありえない話なのだから。

「そろそろなのかなって思ったの

「そろそろ? 何がだよ」

「もう一ヶ月も経つのに、何も起きないって事はないとは分かっていたから」

「その言い方だと本当に何かが起きるのを知っていたみたいな言い方だけど?」

「勿論知っているから言っているの。そうじゃないと変だから」

「変って何がだよ。まるで俺が何かを忘れていて、それを思い出そうとしてその夢を見たみたいじゃないか」

「だって翔平は……」

 ハナティアは何かを言いかけるがそれを止めてしまう。俺もそれを尋ねようとしたが、無情にも観覧車は終着点に到着してしまう。

「ああ楽しかった、さあ帰ろう翔平」

「いや、ハナティアさっきの言葉はどういう……」

「ごめんね、翔平」

 何故か謝られてしまう。もう何が何だか分からなくなってしまった俺は、帰宅するまでこの話の続きを聞く事ができなかった。

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