殺人鬼の3怪人と不思議な少女

鬼怒川 ますず

逆転か…逆転か?

怖い、恐ろしい、手が震える。
幾人も殺したはずの両手が震える事がそれほど無様かわかっている。
それでも私は足を動かす。

相手はのっそりと、電撃を受けた体を普通に動かしてこちらに歩いてくる。
私はすかさず引き金を引いて弾丸を発射する。
4発全部が命中しても倒れない、そんな化け物の姿はもう慣れた。
次を考える、腕から伸ばす管を奴の体に巻きつかせる、
それでもさっきと同様効いておらず、化け物の歩みは止まらない。

なら次だ。

私はすぐに管を他の家電用品に伸ばして電源を付け、自由自在に操る。
最初に操ったのはチャーシューの放った突風の衝撃で床に倒れた洗濯機達だった。
彼女はそれを過剰に動かし、固定させていない状態で激しく稼働させる。
すると、ガタガタ動き出した洗濯機がヤツの足元とに集まり始め。微振動のまま行く手を塞ぐ。
奴はそれに驚いた風であったが難なく乗り越えようと大きく足を広げて洗濯機をまたいで行こうとした。
しかし、奴はそのまま転ぶ。
跨ごうと向こう側に移動させた足の下、丁度置く場所に自動掃除機が二機ほど待機していたのだ。
それの上に足を置き、重心を移動させようとした瞬間動き出したためバランスを崩しそのまま転がってしまったのだ。

ここまでは私、チャージの計画通り。
次に行うのは死なない相手に対しての束縛。
私の脳力では束縛する力が弱い。細い管のようなものではダメだ。
だからこそ私は急いで転んだ奴の元に駆け寄って、倒れた掃除機から電源コードを伸ばすとそれをすぐさま奴の腕に巻きつかせる。
抵抗する力は大きかったが、その両の腕に1発ずつ弾丸を放つ。密着した距離で発砲したので跳弾を恐れたがそこまでのことはなく、血を流して痛みに動きを止める腕を難なく縛り束縛する。
次に継ぎ接ぎだらけの覆面を剥がしーー奴の顔を見た。
それは追いかけていた時には背中しか見えなかったが、顔立ちは良く、無精髭もその顔の造形を際立たせている。
つまりはカッコイイ、もし出会いが違えば近づきたくなるバケモノの顔だ。

『これでおしまいね、顔の良いクソ野郎』

名残惜しくなりつつも私は奴の額に銃口を突きつけ、奴に対して私が勝った事を告げてあざ笑う。
しかしーー。

『……!!』

「何言ってるかわかんないが、とにかく銃を下ろしてこの束縛を解いてもらえねぇかな?」

私は奴が言っている意味が分からなかった。
日本語が得意ではないのもある。
そもそもこの状況で会話しても意味がない。
だったらーーーどうして私の後頭部に何か筒状の硬いものが当たっているのだ?

「よくやった姉ちゃん、あんたとあいつの活躍で人質は全員助かったも同然だ。ご苦労様だ」

「え…あ……」

聞き覚えのある声が背後からかすれて聞こえた。その声の主を私は知っている。その女のことも。

『クォーツ、貴方裏切ったわけね…』

ゆっくりとチャージは振り返る。
暗い中、煙が充満する店内で倒れた家電の光でボヤけて浮かぶ見知った顔。
その顔は恐怖でいっぱいのようであり、私がが見る限りまともな判断が出来る人間の顔ではなかった。

『ヒッ!ち、違いますよチャージ!わ、私達はみんなを助けたくて…!』

必死に声を出そうとしながらも、クォーツは仲間に向けた銃口をどけようとしない。
私たち、この単語からして恐らくバレットも共犯だろう。そして重要な単語として人質もそうだ。どういった風にメンバーが人質になっているかは分からないが、この慌てぶりと倒れた奴を助けるあたりこいつにしか解けない罠が彼らに付けられているのかもしれない。

クソ。
とんでもない馬鹿野郎だ。
こっちは死人が出るかもしれなかったのに。こいつはのうのうと生きようとしている。

私は銃口を奴から放すと後頭部に当たっていた彼女の銃を逸らすために頭を動かし、一瞬の隙にクォーツの手をとって銃を天井に向けさせる。
相手は私と同様の異常脳力の兵士ではあるが、思考が混乱していたのであっさりと形勢を逆転させてもらった。
銃口を向ける相手が奴からクォーツに変わり、彼女は銃が向けられたことに小さく悲鳴をあげて怯える。

『…事の顛末を説明してもらえないかしら?』

『で、でも』

『早く答えなさい』

私が言った意味を引き金にかけた指を強めたのと同時に理解したのかクォーツは震える声で答える。

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