殺人鬼の3怪人と不思議な少女

鬼怒川 ますず

風邪を引かせたらいけない

「はぁ…はぁ…!」

「…も、もうやめないか?」

「…どの口が言ってんだテメェ」

殴り合いを一旦中断させてお互いに間を開ける葉隠と葛原。
双方のどちらかが拳を下げるまで続くのだが、止めるように促したはずの葉隠は拳を下ろさず、それを見て葛原も下ろさない。
お互いに負けず嫌いな性格が災いして『相手より1発多く殴らなければ気が済まない』のだ。

間合いを詰めたり開けたりしながら、双方ボコボコの顔を向き合わせながら相手の動き気反応して動く。

次の一瞬には腕が交錯してまた1発入るはずだったが、その前に黒田が止める。

「おーい2人とも、殴り合いも良いけどひとつだけ忠告するよ」

「「あ"!?」」

「…白緑ちゃんって逃げる時シャワー上がりだったからずっとパンツだけだったと思うけど…地面に置いてあるバックの中で風邪引いてないよね?」

睨まれながらも黒田は当然のことを言う。
そんな当然の、しかし頭から忘れていたとても大事なことを聞かされた彼らは。


「……やっべ!すっかり忘れていた!!」

「こんなバカよりも大事なことだった!!」

急いで、地面に置いてあった肩掛けバックに向かう。
葛原はファスナーを開く。
今は春手前の寒い時期。冷えた夜に素っ裸では風邪を引いてしまう。
ごく当然の事なのに忘れていた葛原は、ファスナーを開けた先で体を丸めながらスヤスヤと可愛げに寝ている白緑を見てホッとする。
中は密閉で蒸されていたせいか暑くなっており、とりあえずは風邪をひいている様子はない。

念のために、葉隠の普段着の一枚を被せておく。
それに包まり、スースー寝息をたてる白緑。

その姿には2人の殺人鬼はある意味楽しみになる。

「あー、早く成長したのを食べたい」

「いい首すじ…」

うっとりと、寝ているこどもの裸体を別の意味で眺める2人に、ドン引きする黒田とシュガー。

「…とりあえず、お昼にはこの街のショッピングセンターでその子の服でも買おうか。んで買ったらすぐにこの街から離れよう、良いね」

「はぁ?何仕切ってんだよ黒田ぁ。まだ旅費も整ってないってのに」

「そこは工面しよう、僕らは大事な交渉材料を2人も持っているんだ。もしかしたら大金が手に入るかもよ」

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