殺人鬼の3怪人と不思議な少女

鬼怒川 ますず

解剖魔の処置

「つ、つまり…そこで顔腫らした馬鹿は性的な意味ではなく本当に食べる為にあの子を保護していると?」

説明を受け、それでもなお黒田が言っていることが本当のことではないと思うシュガー。
黒田は何度も頷いて。

「合ってる合ってる、あれは食べる為だけに育てる名目で攫った…保護しただけだから。もちろん僕らもおこぼれに預かるけどね!」

「……」

ヤバい。
なんの捻りもなく危険すぎる。

食人鬼。
解剖魔。
生首収集家。

3人の名前と履歴を簡単に説明される。
あのバカだけ狂っているのならまだ良かったが、ここにいる2人も同じように狂っている。

シュガーは改めて目の前にいる3人に対して第三者という部外者のカテゴリから、敵対するべき相手にカテゴライズして認識を変える。

どうにかして逃げなければ。
そうしなければ、たとえ能力で逃げても数の前に捕まって殺される。
シュガーは頭の中がグルグルし、ゴクリと生唾を飲んで現在置かれた人質という立場を考える。
このままではまずい、何とかしなければ。

試行錯誤を繰り返す。
と、その姿を心配したのか黒田と呼ばれた少年が「大丈夫?」と声をかける。
それに気付いて慌てて手を振って大丈夫と仕草を返すと笑みを返し、黒田はそのまま続けて言った。


「そっか、そりゃ銃使う連中でもこんなのは怖いよね」

「い、いや別に…全然怖くなんてないからね!私はあんた達を殺せる技量があるし、私ってば隊長だし」

「えい」

「だから痛ッ…!!? え、な、何したのあんた!?」


激痛が走る。
痛みで悲鳴を上げ目を瞑り、痛みが治まってからすぐに激痛の元に顔を向ける。
それは自身の腹部だった。
いつの間にか服が捲られ、その下にあるお腹に半円状の物がくっついていた。
いや、刺さっていた。
痛みで思考が回らないのと同時に、何が起こったのか理解できないのが混ざり、思わず膝をついてしまう。


「なによ…これ?」

「注射針と同じ細さの円状の針だよ。まぁ射出されるのがそれであってその金属部分は収納用だけど」

「注射…針?」

「うん、やっぱり良い細さだ!血がチョビっとだけ出ただけであとは傷はないね!しかも刺した場所も内臓に届く前の皮下脂肪だ!!いやー僕ってばやっぱり天才だなぁ」


屈んで傷口を見ながら感心する黒田。
痛みがあるが確かに血は少ししか出てない。
それどころかシュガーが見る頃にはもう傷口から血は止まっていた。
それを見て安心したシュガーはホッと安堵の息を吐く……が、反対に黒田はその少年の朗らかそうな笑みで告げる。


「さて問題、僕が持ってるチェーンは何でしょうか?そして……少しでも引っ張ればどうなるかな?」


ジャラジャラと細いチェーンを手に、黒田は疑問を問いかける。
対してシュガーは、自分の腹部に繋がったその針とチェーンが繋がっていることを確認し、引っ張ればどうなるかの問いに答えを出す。


「……傷口が裂かれて、内臓が溢れる…ってことはさすがに」

「正解、僕のこの針はそれを可能にします」

「……嘘でしょ?」

「本当だって、医学的にはそりゃ証明にもならないけど横に向かって引っ張れば裂けるようになってるんだよこれ。僕ってばこーいう非人道的なの作るのが趣味というか生き甲斐というか…ゾクゾクしてきちゃう」


童顔の黒田は恍惚の笑みを浮かべて想像する。
腹が裂かれた人間の悲鳴や断末魔、血と内臓の流れる光景を。
対してシュガーは顔を青ざめて言葉を失う。
そして慌てて動こうとして__。

「待って、無理に動くと針が体に残って内臓を傷つけちゃうよ?一生便ができない体になるけど良いのかな?」

「え!?いや、いやぁ!!し、死にたくない!!」

「シー、静かに。こっちとしては人質は安全に取りたいからね、これは最善の処置だ」

「や、やだ!これ体内に入ってるから体の一部に認識されてる!? これじゃ能力を使えない」


その狼狽する姿にため息をついた黒田はチェーンをジャラリと鳴らす。
シュガーはそれだけで止まる。
黒田は「黙らなければ引っこ抜く」と言いたげに気怠そうな顔になるとシュガーの顔に近づいて言った。


「良いか?僕が君の命を握っているから無駄な抵抗はやめるんだ。抵抗は意味が無いし死だけだ、僕はただ知りたいだけなんだよ…これを」


目を点にして怯えるシュガーの顔を見つめながら黒田は空いた手でポケットを探り、ハンカチを取り出すとそれを広げてあるカケラを見せた。
それは微細粉、砂のように細々とした結晶だ。
シュガーは恐怖でいっぱいの目の前の解剖魔に怯えながら次の言葉を聞いた。


「これはあの子が狙われる価値に値するモノの正体か?」

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