(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

続 冒険者の思い出・中編

 商人が言うには、その冒険者の名前はメリューと言うらしい。冒険者、というよりも料理人として名前を馳せていて、ドラゴンの卵という材料を求めていたらしい。
 ドラゴンの卵……。それを聞いて私はほとほと呆れたよ。彼女は結局最後まで、料理人だったのだと。
 そして、私は同時にぽっかりと心に空いてしまった穴を、再認識するのだった。
 ああ、彼女の存在は私の中でそれほどに大きなものだったのだな、と。


 ◇◇◇


「お待たせしました」

 話が終わったタイミングで、メリューさんが料理を運んできてくれた。
 それは、炒飯だった。八角形の白い皿に盛りつけられた炒飯の山、まだ出来たばかりなのか湯気が沸き上がっている。その隣にはスープがおかれている。そうだよな、炒飯といえばスープというのはどの世界だって常識だ。人によってはスプーンを一度スープで濡らしてから食べる人も居るけれど、それってマナー的にどうなのかね?

「……これは?」
「手っ取り早く、忙しい方にお勧めの料理となります。どうやらそれを所望していたようでしたので」

 メリューさんはその人が食べたい料理を見ることが出来る。
 しかしながら、それは本人が知っている料理であるかどうかはまた別だ。仮に異世界の知識で得られないものであれば、それは料理名ではなくて料理の詳細が見えるだけに過ぎない。
 とどのつまり、メリューさんが作り出した料理は俺の世界でいうところの炒飯そのものであるわけだが、メリューさんはその知識を知らない。つまり、相手の心の中を読み解いただけで、結果的に炒飯を作り出してしまった、ということになる。

「……ふむ、まあ、食べてみようか」

 女性はスプーンを手に取って、山を崩す。
 山は崩れて、その部分は雪崩となって器の表面へと落ちていく。ニンジン、ネギ、チャーシューが細かく刻まれているそれは、ご飯と卵が絡んで一つのモザイクに近い模様を作り出している。もっとも、それはモザイクとはかけ離れているデザインであることは紛れもない事実だけれど。
 スプーンに崩れた雪崩の部分を掬って、それを口へと運ぶ。スプーンに掬うその様は、ショベルカーが土を運んでいるそれに似ている。まあ、規模が違うだけで動作はそのままなのだけれど。
 そして女性は炒飯を口に運ぶ。口に入れた炒飯は彼女の口でよく噛まれ、やがて舌を通り、胃へと運ばれていく。
 きっと彼女はそれを美味しいと思っているのだろう。なぜなら、今彼女の表情は笑顔で、頬を赤らめている。その表情になっていることは、恐らく彼女も解っていないのだろうけれど。

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