(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

食わず嫌いを何とかしよう・承

 メリューさんがいつも通り料理を作り上げたのは、それから十五分後のこと。……ちょっと遅くないか? って思ったけれどあくまでもこれはメリューさんが食事を作ったときの『遅い』であり、通常のお店ならば十五分で完成はそれなりのペースだと思う。だってファミレスみたいにすでに出来合いのものを電子レンジでチンとかしているわけじゃないし。……あ、あくまでもイメージです。

「……これは?」
「ガパオライス……ですね。豚のひき肉とシソを香味油で炒めたものになります」

 正確には少々違うのだが、そこを説明していくと彼女たちの世界観が崩壊しかねないので、これまでとしておく。
 それに、彼女たちもその説明で納得しているようだし。
 食べ始めようとした妹に対して、姉は手を付けずにその料理をじっと見つめていた。

「……姉さん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ。……ねえ、そこのあなた。申し訳ないのだけれど、私だけ別の料理にしてくれないかしら?」

 別の料理?
 こんな注文をつけられたのは初めてだ。なにせメリューさんはいつもその客が一番食べたい料理を提供している。だから、そんな返品まがいなことは今まで無かったのだが……。

「いや、とてもおいしそうなごはんであることは十分に理解できるのよ。できるのだけれど……、ちょっと別のものにしてくれない?」
「ごめんなさい、ワガママな姉で。けれど、姉もずっとこういう感じで……」

 頭を下げるニーナさん。
 そういうことではないような気がするけれど……そう思いながら、俺は姉のほうからガパオライスを回収してメリューさんのほうへと戻っていった。


 ◇◇◇


「やっぱり食べなかったか。まあ、予想の範疇だよ。あれで食べてくれるならば、私だってそう苦労しないからね」

 俺がガパオライスをもってメリューさんに見せたとき、メリューさんはさもこのことが解っていたかのように頷いていた。
 というか解っていたなら最初からそうだと教えてくれ!

「いやあ、悪かった。けれど私も悪気があってやったわけではないんだぞ? あの姉……名前は何ていうのか解らないけれど、食べたいモノは妹と一緒のクセに、好き嫌いが激しすぎるんだ。だから、どうにかしてそれを解決してやろう、ってことで第一回と挑んだわけだが……。まあ、想像通り失敗したわけだ。次は本気で挑むことにするか」

 だったら最初から挑んでほしかった。
 このガパオライスの目にもなってほしい。

「まあ、そう怒るな。そのかわり今日の賄いもガパオライスを出してやる。オイスターソースが余ってしまってね。これをどうしようかちょいと考えていたところだったんだ。珍しくていろいろ使い勝手はいいけれど、つい余ってしまうんだよな。最近は特に使う機会も少なかったし」

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