転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~

夜州

第七話 衛兵詰所


 リルターナを乗せた馬車は衛兵詰所へと辿り着いた。
 いきなり詰め所に現れた護衛を連れた貴族の馬車に、衛兵たちにも緊張が走る。
 そして御者をしているニギートが馬車の扉を開けると、リルターナは怒った表情のまま馬車を下りた。

「これは……詰め所に何用で……?」

 質問した衛兵を睨みつけるとリルターナは口を開く。

「貴族街で誘拐よっ!」

 リルターナの言葉に、衛兵は緊張が走った。貴族街を警備している者たちからしたら、貴族街で誘拐など起きれば、警備のミス、ただの失態でしかないからだ。

「?!……そ、それでは中で教えていただきますか。すぐに責任者をお呼びいたします」

 衛兵の先導の元、簡易的な応接室に通される。貴族の応接室とは違い調度品などもなく、ただ打ち合わせをするだけの部屋となっていた。
 不機嫌な様子のリルターナは案内されたソファーの中央に座り、その後ろにニギートが控えるように立っている。衛兵は「すぐに上司を呼んできます」といい部屋を出ていった。
 ほどなくして他の衛兵とは恰好が少し豪華な恰幅の良い上司と思われる衛兵が入ってきて、リルターナの前に座り、書記をするためにもう一人の衛兵が隣に座る。

「これはリルターナ皇女殿下、わざわざこのような場所に来ていただいて恐縮でございます。私はこの詰め所の管理をしております、バラッタと申します。以後お見知りおきを」

 衛兵隊長のバラッタは応接室の来る前に馬車をすでに確認していた。衛兵隊長になるためには馬車に刻まれている紋章を見ただけで、どこの貴族かわからなければなれない。
 場合によって不敬にあたる場合があり、徹底的に覚えこむようになっている。
 リルターナの馬車はこの国のどの貴族でもない。バイサス帝国の国の紋章か掲げられている。他国からの留学生として特にバラッタは注意を払っていた。
 そしてバラッタは言葉を続ける。

「それで皇女殿下……状況を教えて頂けると助かります」

「わかったわ。ニギート、貴方から話しなさい。私に伝えたことをそのままでいいわ」

「はい、リルターナ様。実は先ほどの事ですが――」

 ニギートから状況が説明されていく。話が進められていくと、次第にバラッタの眉間に皺が寄ってくる。

「真っ黒な馬車が三台……。おい、そんな馬車が貴族街に入ったの見た者がいたかすぐに調べさせろ」

 部屋の端で控えていた衛兵が頷いたあとに部屋を出ていった。

「貴重な情報感謝いたします。これから各貴族の屋敷へと確認をとると共に、王城にも報告をいたします。ここからは私たちの仕事ですので」

 バラッタはテーブルに手を付き深々と頭を下げた。
 隊長として礼節を持ち対応をするバラッタに満足したリルターナは早々に詰め所を後にした。
 馬車に乗せるとニギートは御者台に乗り馬車を動かす。

「それでは屋敷に戻りますね」

 少し悩んだ表情をしながらリルターナは口を開く。

「――ちょっと待って……。このままカインのところへ向かって」

「ちょっとそれは……何もお約束もしておりませんし……いきなりリルターナ様が来られたらシルフォード伯も準備というものが……」

 リルターナの指示にニギートは戸惑いの表情をするが、リルターナの意思は固い。

「カインの屋敷は知っているでしょ? いいから向かって」

「――わかりました」

 ニギートはため息をつき、リルターナを乗せた馬車の方向を変え、カインの屋敷へと向かうのであった。

 ◇◇◇

 リルターナ達が詰所を後にしたことを確認したバラッタは、非番の衛兵も呼びに行かせ緊急体制を敷いた。
 この詰所には六十人ほどが勤めており、勤務体制はシフトが組まれていたが、緊急の場合はすぐに招集がかかることになっていた。
 それほど王都の貴族街の守備を任されるということは重大な務めであった。
 一時間も経たずに、全衛兵が集合をする。そして隊長であるバラッタが一声を放った。

「私が衛兵詰所の隊長になって初めての大事件である! 今日、貴族街で誘拐事件があったと報告を受けた。犯人だと思われるのは三台の黒い馬車という報告を受けている。各自三人態勢で捜索にあたってくれ。見つけても二人はその場に残し、一人は詰め所に報告に来るように。それでは皆の者行け!」

「「「「「はいっ!!!」」」」」

 それぞれが三人組を作り、装備を整え詰め所から出ていく。
 捜索に当たる班と、令嬢がいる貴族の屋敷へと確認に向かう班で別れ捜索を行うことになった。
 もちろん貴族街に入城するための記録を調べる班もいた。

 バラッタは副隊長のデルガを呼び止め、自分は王城へと報告に行くことを伝え詰め所を出ていく。
 詰所ではバラッタが不在の間、副隊長のデルガが指揮をとることになった。

 皆、捜索にあたり一人になったデルガは誰もいない部屋で口を開く。

「おい、証拠は消してるんだろうな……?」

 その言葉に反応するように、扉が開き三人の衛兵が部屋に入ってきた。

「……それはもちろん。貴族街への入場記録は処分してありますよ。ただあの娘のは消してませんよ? 平民だと知れば隊長もやる気をなくすでしょう? それにしてもまさか皇女の馬車に見られているとはな……。あいつらもとんだヘマを打ちやがって」

 一人の衛兵が椅子に座りテーブルに足を乗せながら悪態をつく。

「まぁ、そう言うな。あそこからまたたっぷり小遣い絞り取れるだろう? これでバラッタも責任とることになったら俺が隊長だな。平民なんかに隊長をやらせるから、こんなことになるんだと上の連中もわかるだろう」

 同じように悪態をつくデルガは”デルガ・フォン・ジンリット”という貴族の子弟であった。男爵家の三男であり、継承権がなく、今後は平民として生活していくことに不満を感じ、同じような状況にいる者たちを引き込んで、商会などに裏で融通し小遣い稼ぎをしていた。
 隊長であるバラッタは平民だったが誠実な性格で、要領も良くその器量で隊長に抜擢されていた。
 それが余計にデルガの嫉妬を生むことになっていたのだった。
 四人はテーブルを囲み少し打ち合わせをした後にそれぞれの仕事に戻って行く。


「平民のガキ一人くらいでこんなに大騒ぎしやがって……。まぁ二度と表に出てくることはないけどな……」

 一人になったデルガは窓から外の景色を見ながら黒い笑みを浮かべながら呟いた。

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コメント

  • にせまんじゅう

    カイン「ダークネススマイルが専売特許です。」

    1
  • モブキャラ

    あぁ、次々とフラグを立ててる((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

    3
  • スザク

    ああ!?黒い笑みはカインの特権だぞ!

    3
  • リルイール

    コミカライズおめでとうございます!
    これからも頑張ってください!

    22
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