俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~
第十一話 甘いんだよ、お前
翌日、リーゼルト一行はボスのアジトへ向かった。もはや賢者以上の実力となったリーゼルトに、その程度の情報を探すことは難しくはない。
データアクセスの魔術を使えば、情報など簡単に見て取れる。ボスのアジトの名は『巡回する運命』。
随分中二病じみている名前だとは思うが、意味あって付けた名前なのは分かる。
「……で、聞かなきゃならねえのは、何故勝手に行動したかだな」
「ボスは怒っていないのかよ」
「俺に聞かれても知らねえよ、天敵ではあるけどな?」
この組織はリーゼルトたちが探す組織のなかの下っ端だ。リーゼルトの実力を知った藍はこの組織を彼らに任せ、自分達は少しでもあの組織に近づくために様々な依頼を受けることにしたらしい。
こうして時間を減らしてでも突き進む姿は、見ていて苦しいものではなかった。
ちなみに、今日でBランクまでは行く、と意気込んでいた。無表情ではあったが、瞳に確かな意志が見て取れる。
「んで、俺の後ろに隠れて何してんの。中二病ボス」
「……私が中二病か。ずいぶんと言ってくれるではないか。違う出会い方をしていたら仲良くなれそうだな」
「いいやそれは思わん。私はお前を信用してはいないからな」
リーゼルトの後ろから「ぬっ」という効果音が合わさるくらい突然にボスが出てきた。影から出てきたかのような不気味な姿だ。
前髪が顔全体を隠していて、クソデカいと見る人を言わせるくらいには大きなローブで全身を隠している。
中二病、という単語は彩とリーゼルトのせいでずいぶん広まっている。
「そうか。それでも悪くはない。私は、あなたたちの敵になりたいわけではなかったが……運命はそうあるべきだといっている」
「お前さ、何でそんなに運命ってのを信じる? なんでそんなにこだわる? なんでそれが悲しい未来だったとしても止めようとしない?」
「……もう間に合わないの【ですよ】。私はそれを信じすぎて全てを失ったのです。なら、もう貫き通すしかないじゃないですか」
唐突に敬語で話し始めたボス―――いや、男は、ゆらりと自分の体を揺らめかせた。
違う。
こんな奴が、ボスを名乗れるはずがないのだ。リーゼルトはしばし目を閉じて、ふわりと彩に向かて微笑んだ。
しかし口から出る言葉は、その表情と全く違うほど残忍な言葉だった。
「……殺せ」
「私が、か?」
「ああ。こいつが言う運命の循環に沿うのなら、俺が殺すのは妥当ではない」
「そう、か……運命まで見えるんだな。では、すまない」
「……運命に生き、運命に散れるなら私の本望ですよ……」
それも、違う。それが人生の意味かと問われるのなら、確実に男は違うというはずなのだ。外から見るものではない。内から見るもの。
何かを信じるためには、何かを失ったからという理由では足りないのだ。
それほどの実力になったからこそ、そんな男の【中の感情】を知ってしまう。
彩の剣が振り下ろされる寸前に、リーゼルトはつぶやいた。
「甘いんだよ。お前。そんなんで運命とか騙るなよ。いいボスやってたのに、俺達なんかのために裏切って命まで失うなんてよ」
「そうか―――つくづく私という人間は、最初から間違っているな。次の転生では―――君といい出会いをしていたい」
恐らく、最初から男はあのボスに期待されていないことくらいわかっていた。
あいつは誰にも期待していない―――リーゼルトだって分かっていた。
こうも簡単に倒せてしまった理由も、全部全部あのボスの差し金だということも。わざわざ彩に殺させたということも。
リーゼルトは弱くて、アホだ。だが、バカではないし、頭は冴える。
ゆえに、リーゼルトは今は血を流し倒れる男に素直に同情することができた。
男の目の前まで歩み寄って、聞こえないとわかっていても語りかける。
「そうだな。出会い方が違っていたら、確かにもう少しましだったかもな、少なくとも、俺はお前を殺す道を避けたはずだ」
「大丈夫だリーゼルト。私が代わりに殺したし、ユリウスだっているんだ。それに、お前はもう弱くないんだろう?」
「ああ―――……メンタルのとこでは、だけどな。多分お前らも追い越してくだろうよ」
ぽん、と彩の頭に手を乗せると、リーゼルトは扉を開けて去ろうとする。固まる彩を振り返り、リーゼルトは怪訝そうに顔をしかめ、
「どうした? 行くぞ?」
「あ、ああ! ……ったく、何をしたかの自覚もないくせに」
何を言ったかは聞き取れなかったが、彩が顔を赤らめていたのはちゃんと見て取れた。即座に、リーゼルトは意味を理解する。
顔が真っ赤になるが、まあいいだろう。リア充に憧れていないわけでもなかったので。
さっさと来いよ! と思わず粗ぶってしまうが、彩は気づいていないようだ。
(つーか、俺をここまでかき回す奴なんてお前くらいだっつの)
一応恋愛経験はない。だが、ヤンキーの中で惚れてくる奴はいたなあ、とリーゼルトは苦笑いをしながらふと思い出す。
宿に着くと、サテラとレスナが柔らかいベッドの中で「すやすや」と寝息を立てていた。
(こっいっつらっ!)
「お仕置きか」
「確定事項さ」
リーゼルトと彩で二人の頭をチョップすると、二人は一斉に起き上がる。
「うおっ! ……起こされちまったか。シアノンの時を思い出すわな」
「頭チョップとか鬼畜です! 鬼畜ですよ!」
「ははーん、傷の治りが早いようだなてめえら……良かったら新しいの付けてやるけど?」
「「遠慮させていただきます」」
相変わらず返事の速い奴らだ、とリーゼルトは苦笑いをする。
「どうだ、ボスは」
「殺してくれって言われたから殺したぞ。どうせ死刑になると思うし、あの組織関連なのはわかるし、国と戦争するんじゃねえ?」
「いえ、国王様は平和ですので、自分からというのはないかと思いますよ」
まあそうだな。とリーゼルトは頷く。
始まっていないことを言っても意味はない、大人しくベッドにダイブすることにした。
データアクセスの魔術を使えば、情報など簡単に見て取れる。ボスのアジトの名は『巡回する運命』。
随分中二病じみている名前だとは思うが、意味あって付けた名前なのは分かる。
「……で、聞かなきゃならねえのは、何故勝手に行動したかだな」
「ボスは怒っていないのかよ」
「俺に聞かれても知らねえよ、天敵ではあるけどな?」
この組織はリーゼルトたちが探す組織のなかの下っ端だ。リーゼルトの実力を知った藍はこの組織を彼らに任せ、自分達は少しでもあの組織に近づくために様々な依頼を受けることにしたらしい。
こうして時間を減らしてでも突き進む姿は、見ていて苦しいものではなかった。
ちなみに、今日でBランクまでは行く、と意気込んでいた。無表情ではあったが、瞳に確かな意志が見て取れる。
「んで、俺の後ろに隠れて何してんの。中二病ボス」
「……私が中二病か。ずいぶんと言ってくれるではないか。違う出会い方をしていたら仲良くなれそうだな」
「いいやそれは思わん。私はお前を信用してはいないからな」
リーゼルトの後ろから「ぬっ」という効果音が合わさるくらい突然にボスが出てきた。影から出てきたかのような不気味な姿だ。
前髪が顔全体を隠していて、クソデカいと見る人を言わせるくらいには大きなローブで全身を隠している。
中二病、という単語は彩とリーゼルトのせいでずいぶん広まっている。
「そうか。それでも悪くはない。私は、あなたたちの敵になりたいわけではなかったが……運命はそうあるべきだといっている」
「お前さ、何でそんなに運命ってのを信じる? なんでそんなにこだわる? なんでそれが悲しい未来だったとしても止めようとしない?」
「……もう間に合わないの【ですよ】。私はそれを信じすぎて全てを失ったのです。なら、もう貫き通すしかないじゃないですか」
唐突に敬語で話し始めたボス―――いや、男は、ゆらりと自分の体を揺らめかせた。
違う。
こんな奴が、ボスを名乗れるはずがないのだ。リーゼルトはしばし目を閉じて、ふわりと彩に向かて微笑んだ。
しかし口から出る言葉は、その表情と全く違うほど残忍な言葉だった。
「……殺せ」
「私が、か?」
「ああ。こいつが言う運命の循環に沿うのなら、俺が殺すのは妥当ではない」
「そう、か……運命まで見えるんだな。では、すまない」
「……運命に生き、運命に散れるなら私の本望ですよ……」
それも、違う。それが人生の意味かと問われるのなら、確実に男は違うというはずなのだ。外から見るものではない。内から見るもの。
何かを信じるためには、何かを失ったからという理由では足りないのだ。
それほどの実力になったからこそ、そんな男の【中の感情】を知ってしまう。
彩の剣が振り下ろされる寸前に、リーゼルトはつぶやいた。
「甘いんだよ。お前。そんなんで運命とか騙るなよ。いいボスやってたのに、俺達なんかのために裏切って命まで失うなんてよ」
「そうか―――つくづく私という人間は、最初から間違っているな。次の転生では―――君といい出会いをしていたい」
恐らく、最初から男はあのボスに期待されていないことくらいわかっていた。
あいつは誰にも期待していない―――リーゼルトだって分かっていた。
こうも簡単に倒せてしまった理由も、全部全部あのボスの差し金だということも。わざわざ彩に殺させたということも。
リーゼルトは弱くて、アホだ。だが、バカではないし、頭は冴える。
ゆえに、リーゼルトは今は血を流し倒れる男に素直に同情することができた。
男の目の前まで歩み寄って、聞こえないとわかっていても語りかける。
「そうだな。出会い方が違っていたら、確かにもう少しましだったかもな、少なくとも、俺はお前を殺す道を避けたはずだ」
「大丈夫だリーゼルト。私が代わりに殺したし、ユリウスだっているんだ。それに、お前はもう弱くないんだろう?」
「ああ―――……メンタルのとこでは、だけどな。多分お前らも追い越してくだろうよ」
ぽん、と彩の頭に手を乗せると、リーゼルトは扉を開けて去ろうとする。固まる彩を振り返り、リーゼルトは怪訝そうに顔をしかめ、
「どうした? 行くぞ?」
「あ、ああ! ……ったく、何をしたかの自覚もないくせに」
何を言ったかは聞き取れなかったが、彩が顔を赤らめていたのはちゃんと見て取れた。即座に、リーゼルトは意味を理解する。
顔が真っ赤になるが、まあいいだろう。リア充に憧れていないわけでもなかったので。
さっさと来いよ! と思わず粗ぶってしまうが、彩は気づいていないようだ。
(つーか、俺をここまでかき回す奴なんてお前くらいだっつの)
一応恋愛経験はない。だが、ヤンキーの中で惚れてくる奴はいたなあ、とリーゼルトは苦笑いをしながらふと思い出す。
宿に着くと、サテラとレスナが柔らかいベッドの中で「すやすや」と寝息を立てていた。
(こっいっつらっ!)
「お仕置きか」
「確定事項さ」
リーゼルトと彩で二人の頭をチョップすると、二人は一斉に起き上がる。
「うおっ! ……起こされちまったか。シアノンの時を思い出すわな」
「頭チョップとか鬼畜です! 鬼畜ですよ!」
「ははーん、傷の治りが早いようだなてめえら……良かったら新しいの付けてやるけど?」
「「遠慮させていただきます」」
相変わらず返事の速い奴らだ、とリーゼルトは苦笑いをする。
「どうだ、ボスは」
「殺してくれって言われたから殺したぞ。どうせ死刑になると思うし、あの組織関連なのはわかるし、国と戦争するんじゃねえ?」
「いえ、国王様は平和ですので、自分からというのはないかと思いますよ」
まあそうだな。とリーゼルトは頷く。
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