俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第五回 妹の存在

足を踏み込んでいく。
ナビケーターまでつけてきたということは殺す気はない、とサテラとレスナ、サランやエアンなどの経験値が高い組が分析した。
リーネに言うと、《恐らくそうでしょうね》と返されたので間違いは無いと思われる。

「つーか、気味悪……」

本部は光で照らされていたが、最低限。ぐちゃぐちゃに描かれていた絵はリーゼルトにとってどこがいいのかわからない。
サランは魅入られたように絵を眺めていた。

奥まで行き、ひとつの扉を見つけると、リーネから声がかかった。

《神界へトリップします》

「聞いてねえよっぉおおおおおおおおおお!?」
「聞いてる人なんていませんっ!!」

強制トリップにリーゼルトとサテラ以外は驚きで声すら出なくなった。リーゼルトは胆力で、サテラはその場のノリで声を出している。
やはりあの部屋には―――何かある。
叫びながらもリーゼルトはそう悟る事が出来たが、問題はあの部屋の役割。

リーネは本心からリーゼント達をあの部屋に入れたくなかったというのは分かる。

「ま、しゃーねーか」

たどり着いた先には宝石のような国―――神界だった。正式的には神界秘境。たとえばボスの使う封印だったりなど謎に包まれた場所だ。
リーネに急かされるまま奥に踏み込んでいく。

「む。魔力が急激に減っていくぞ……?」
「やべえ、死ぬ」
「私……は……もう魔力切れているんだが……ぐふっ……」
「彩はオレが魔力補注してやるから」

リーゼルトや彩は急激に魔力が減っていくのを感じ、彩はすでに魔力が切れている。しかしレスナの補注で何とかこらえている。
雲が多くなり、歩くと顔に雲がぼすっと当たることも多くなった時。

魔法陣に倒れている銀髪の少女を発見した。

「誰だこいつ?」
「リーゼルト君。この方は大賢者シアンですよ―――!」
「ボスに封印されていたとは聞いたんだが、此処に居たとはな」

魔法陣に触れようとすると、淡く光る結界にはじき返される。神界らしくない茶色くごつごつした地。雲は結界に遮られて入ってこられない。
壁は雲だが、地面はただの土というとわかりやすいだろう。

銀髪の少女、大賢者シアンは薄く息を吐きながら必死に生きようとしているのがわかる。

「ワタシの姉が、誠に色々すみませんでした」

眉をひそめて奥から語りかけてきたのは、淡い緑の髪を肩まで伸ばし、少し奇妙な髪形をした少女。シアンのリボンは緑だが、彼女のは銀色。
シアンの妹だと思って間違いないと思うが―――顔があまり似ていない。

だが、声はシアンと瓜二つで、来ている服も色違いだった。

「ワタシは姉の妹―――シオンと申します」

シオンと名のったシアンの妹は、深々と頭を下げた。

「ワタシの姉シアンが魔王城へ襲撃をかけたり、そのせいで彩さんのところの街が災害を起こしたりで、申し訳ございません」
「うわ、それ本当に大賢者でいいのかよ?」
「―――ですので、ボスが封印しました。ワタシが仮の大賢者となります」

シアンが魔法陣の中からシオンを見上げて憎いとでも言うようににらんだ。シオンはそんな姉を一瞥し、リーゼルトの方へ向き返した。
魔法陣の中では「この私を無視だと!?」と叫んでいるシアンだが、顔を向けてはもらえない。

何らかの罪を犯してボスの怒りを買い、此処に来てしまったら組織に戻ってももはや人としては扱われない。
大賢者の場合は多少白い目で見られ、信頼を失うだけだが。

シアンほど重い立場に居る者ならば、一度だけまたチャンスがある、とシオンは全て説明していく。

「あ、あのだな……交渉したいことがあるんだ」
「……すみませんが、何を言ってもお応えすることはできません」
「は」
「リーネ」

《了解しました。ただいまよりワーププログラムを開始いたします》

少し時間をおいて、シオンはがらりと表情を変えた。その表情はまさしく敵のスパイが計画に成功したとでも言うかのようなどや顔。
リーネは「は!?」と叫ぶリーゼルトを気にも留めない。

リーゼルト一行の足元から大きな魔法陣が生じ、シオンはまた頭を下げる。

「またご縁がありましたら、来てもいいですよ。ワタシ達組織は、永遠に貴方方を歓迎いたしております――」
「してねえだろぉおおおおおおおっ!?」

叫ぶと共に、目の前がシャットダウンされた――――――。














「がはっ!」

リーゼルトが起き上がると、そこは見慣れた宿の一室だった。目の前にあった城はもうなく、何事もなかったかのようになっている。
時間はちゃんと過ぎているが、まるでタイムスリップしたようだ。

「何だ……? シアンの存在を知って欲しかっただけなのか?」
「リーネは言っていたじゃないか。ボスが何処にいるかはわからない、と」

リーゼルトが呆けた顔で問うと、何とか精神を維持しているエアンが深呼吸をしながら答える。サテラもさすがに精神不安定だ。
レスナは険しい表情で固まっており、サランは何を考えているのか分からない。
彩に至ってはユリウスに現実逃避をしている。

「な、何が起きたのだ? いきなり戻ってきおって……戻るなり皆その表情……」
「あったりめーだろユリウス。怪奇現象が起きたんだからよ……」

ユリウス本人は何が起きたのか分からず動揺している。
ボスが作り上げたのがユリウスだというのなら、ユリウス自身にも何かある可能性はあるが、あいにくそれを見つけられる実力は持っていない。
ボス級の、それかワンランク下の者など、探しても見つからない。

「とりあえず、詰んだってことで」

初組織訪問。結果は詰んだ。

リーゼルト一行はため息をつきながらベッドにダイブした。

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