俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第二十六回 NEXT魔物大量襲来⑦

「はあ、はあ」

サテラは持てる全速力で神殿に向けて走っている。もう神殿は見えているが、見えほど近い距離ではなかった。
彩が最低限治療はしているが、あまりにも大きなけがは彼女の手にも持たない。
なので、聖女フィーリアを呼ばなければいけないのだ。
聖女フィーリアは治癒魔法を極め、どんな大けがでも治癒することができる。

「フィーリア様、フィーリア様……」

そんなフィーリアはサテラの姉で、サテラはフィーリアのことを誇りに思っている。
サテラは実力がある受付嬢だ。
治癒魔法とは真逆で攻撃魔術を極めたかつての救世主。とも呼ばれた者。

「フィーリア様!」

神殿のドアを必死に叩くサテラ。
門番がサテラを見つけると丁寧に頭を下げてドアを開けてサテラを通した。

「フィーリア様!」

「あら……サテラ、どうしましたか?」

息を切らしてフィーリアの服にしがみつくサテラを見てフィーリアは少し動揺し、慎重をサテラに合わせるようにしゃがみ、サテラの頭を撫でる。
そうしているとサテラはだんだん落ち着き、あったことを話し始めた。

「実は、襲撃されて大爆発が起きて、怪我人がものすごく出たんです。中には瀕死の人もいて、フィーリア様が行かないと!」

「サテラが動揺するなんて、よっぽどのことなのですね……分かりました。行きましょう。私の元へ何も通知が来なかったのは、疑えますけれどね」

「何か大きな力が働いている可能性も無視はできませんね」

いくら現役を引退した受付嬢でも元は救世主と呼ばれたサテラだ。此処まで動揺するのは彼女の優しさからゆえんする。
神殿に異変がなかったのは恐らくギルドから遠い場所にあるから。
しかし、騎士などから何も通知が来なかった理由については考えもつかない。

フィーリアは険しい顔で頷き、手を掲げた。

転移ヒール

治癒魔法で転移する。
言葉にしても行動するにしても難しくて理解しがたいものだが、治癒魔法というのは最強の魔法で、資格を持てば何でも出来るようになる。
しかしそれも神から才能を授けられなければ不可能なのだが。

光が収まり、サテラが目を開けるとギルドの門があった。

「いきましょう」

サテラがフィーリアの手を引いて駆け込み、彩の姿を確認して重症の者達が運ばれているさらに奥の医務室へ足を運ぶ。
医務室のドアを開けるとフィーリアもめったに見ないほどたくさんの重傷者がおり、思わず胃がひっくり返りそうになるほど生々しい怪我をした者も多数。
どんな生々しい怪我も経験したことがあるフィーリアとサテラでも、これはあまり見るものではなかった。

「早く治療しなくては」

フィーリアは地面に跪き、手を胸に当てるとその衣服が光る。この衣服は神にささげるための衣服で、聖なる衣装と呼ばれている。
フィーリアしか着ることの許されない衣服だ。

『この者達を癒せよ……スーパー・ヒーリング』

ふわりといい香りが巻き上がり、部屋全体が光に包まれた。光が収まると、部屋の中で苦しみもがいていた者達のけがは全員治り、眠っていた。
一方のフィーリアは魔力の使い過ぎでサテラに支えられている。

「これで、大丈夫ですよ。私は帰りますね、『転移ヒール』」

恐らく最後の一滴であろう魔力を消費し、フィーリアは神殿に帰っていった。
サテラは安らかな表情で眠る怪我人たちを一目優しい表情で見ると、彩と合流するため、そしてギルドマスターの元へ行くために駆けていく。













「やっぱいつ見ても凄いね! 治癒魔術……じゃない、治癒魔法」

「お前もできるだろう?」

「できるよ! でもさ、人間界の人たちがこう頑張ってるのを見るともっと凄いよ」

「俺は……一番頑張っているのがお前だと信じている」

セバスチャンとテーラだった。
この世界で一番頑張ったのはテーラだ、とセバスチャンは言い切る。ここまで登りつめるのにテーラがどれだけ苦労したか、きっと彼女自身も覚えようとしていない。
しかしセバスチャンは知っている。
きっとテーラよりもテーラを知っている。

―――セバスチャンはテーラに歩み寄ってくすりと微笑んだ。

「だから、守るしかないだろ?」

「……ボクのほうが、強いもん」

何かを思い出したのだろうか、テーラは口をつぐみ、それから口を開こうとしない。きっと彼女自身もこの感情の正体を知らない。
しかし―――セバスチャンは分かっている。

「世界で一番、お前をな」

「え待ってちょっとギザくない? 今日のセバスチャンどうしたよ」

「さあ、な」

テーラの問いに薄く笑い、セバスチャンは次の計画に移る。
ライティアとリーゼルトが戦わなければいけない未来を創るために。

「良いことしてないってのは分かってるけどね」

「自嘲はやめるんだ、テーラ」

「ちゃうよ、ちゃう、自嘲なんかじゃない。世界のためにとか言ってリーゼルトとライティアを苦しめているんだから、良い未来を上げようかなって」

「テーラ、まさか」

「うん。そうするよ。世界で一番最高な未来をね……血族ボスさん?」

「よく、気づいたな」

「気づくよ」

そう言ってテーラは血族ボスに手を差し伸べた。
彼女はリーゼルトとライティアの未来を創るために、最重要な役だ。

「手伝って」

にこりと微笑んで、テーラとセバスチャンと血族ボス―――レキラーは姿を消した。

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