俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第二十三回 NEXT魔物大量襲来④

「―――やっぱり死ぬのか」

真っ黒な路地裏に真っ黒なローブを着て、これぞ魔法使いというような先端が曲がった杖を持つ男性はぽつりとつぶやいた。
彼は彩が戦う姿をこの目で見ていた。
ではなぜ爆発を起こして挑発行為をしたのだろうか。

「なあボス。あんたは一体何を考えてんだ? なんで、深入りしちゃいけないんだ?」

彼はただ「ボス」と名のるそれ以外の全てが不明な人物のやっていることを調べたかっただけだ。ただ単に怪しかったのと興味だった。
しかしそれが見つかるのと同時に彩に挑めという無慈悲な命令が下された。
ほとんど死ねと言っているのと同じだ。

「―――っちか―――て―――いる―――!」

「―――だ! ———いろ!」

聞こえる脚音、深まる気配。
男は死を覚悟して杖を握り締め、振り返って思ってもいないセリフを吐くのだった。

「―――今日が貴様らの、命日だ!」

否。違う。
今日は彼の命日だ。彼もそれを分かっている。分かっていてわざと凶悪な笑みを浮かべた。


―――――――――――――――――――――――――☆

「ふん、ボスに変なことしようとしたからだよ」

ピンクツインテールの派手そうに見えて派手ではない何とも言えない服を着た少女―――アリヤが千里眼スキルを使って男を眺める。
男をここまで窮地に落とした真犯人はアリヤである。

 彼女のボス愛は筋金入りのもので、組織の中でも随一だ。

「それにしても最近の組織はクズだらけだね……排除する必要があるかも?」

「ある」

「ってボス!? お久しぶりです! 何をしてたんですかー?」

「邪魔ものの排除と計画を進めていたかな。アリヤ、ひとつ頼みたいことがあるんだけどいいかな?」

「何なりとお申し付けください!」

「組織の中で特に称号が与えられていない者を排除してほしい。組織にとって実力のない者は要らない。記憶も消していてほしい」

こくこくと頷き、アリヤは転移をして去っていった。此処は屋根裏で人にも見つからない場所だった。ボスは「よくこんなところ見つけたな」と言って微笑む。
アリヤはボスにとって重要でも何でもない、ただのいい駒だ。死んでもらっては困る。ただそれだけ、そしてそれまで。

ボスはリーゼルト以外に思念を向けてはいない。

「排除。それだけ。僕はこの世界に光の元をおいてはいけないんだ……っ」

「よぉボス。俺に何か言いたいことはねえかぁ?」

誰にも見つからないはずの屋根裏。そしてアリヤが隠蔽魔術まで使ったこの空間を見つけられるほどの人物。そしてボスを恨んでいる人物。
考えつくのは、ただ一人。
バーシリング・リヤード。
邪魔だと言ってかつてボスが彼に関するものをすべて排除したのだが、バーシリングその者は排除することができなかった。
任務に失敗したのはとあるチームの隊長で、すでにクビにしてある。

「ないよ。君なんかに言うことなんて。所詮は僕の計画を進めるために必要な魂のひとつ……僕がそんな君を気にかける必要が何処にあると思う?」

「はっ。きれいごともそこまでだぜボス。いや、その苗字をリーゼルトとした人物よ。貴様は―――がぁあああっ!!」

「―――終わりだバーシリング。ここまで生きてこれて、良かったね」

物語で例えたら、バーシリングは使い捨ての駒。そして尊重する必要のない人物。ボスにとっての認識はそれ以上でもそれ以下でもなかった。
そこまで低い評価の上にボスへの爆弾発言―――。

バーシリング・リヤード。
彼は右腕を切り飛ばされ頭を踏みつぶされ脳漿をぶちまけながらもなお生きていた。いや、無理矢理生かされていた。

「どう? 死ぬ間際の恐怖は」

「貴様―――どうせ貴様も甘ったれてんだろ! 感じたことのない恐怖を、人に味わわせて、満足してんだろあぎゃあああああっ!」

「無様に転がっておきなよ、バーシリング。ひとつだけ勘違いを正そう―――僕の手は血に濡れている。その血は他人の血だけだとは限らない」

少年の姿をしているはずなのに、彼の言葉ひとつひとつの重みにバーシリングは震えあがった。威圧の笑みを浮かべ頭をなおも踏みつぶしながらもなお笑う。
そんな彼が人の恐怖だけを味わって生きてきただと? ふざけるな。

バーシリングは此処に至って自分の無謀さを知るのだった。

「君は僕にとってどうでもいい存在だ。こうして向かってきてたとしても僕にとっては日常の一コマでしかない。ひとつの波乱でしかない」

「なに、を」

「君の生きる余地はないってことだよバーシリング。死ぬ前にひとつ教えてあげよう。僕の名はライティア・リーゼルト。君が思うように簡単な存在じゃない」

「ぁ――――――――――」

最後にボス―――ライティア・リーゼルトはバーシリングに最も残虐な笑みというプレゼントを送りいとも簡単に彼の存在を握りつぶした。
ライティアの手には血がない。返り血ひとつついていない。

「運命改変は、僕が行うためにあるんだ。僕はただ光の存在を消していればいい、それが悪の片割れサランをとりもどすためにも―――いや、僕のためか」

最後に「こんな時」さえも自分の浅はかなプライドを守り免罪符を作るような言葉を吐く自分を嘲笑いながらライティアは忽然と姿を消した。
勿論組織で彼の存在が浅はかだと思っている者は、誰もいない。
例えライティアの存在が気に入らない者であっても、手を出すことは絶対にない。
それがその証明でもあった。

―――しかし彼は嘲笑う。彼だけではなく、この歪んだ世界そのものを。

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